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第12話 リリアの秘密とハノファード伯爵の秘密

兵士たちの驚愕の悲鳴が辺りに響く。少女が炎に包み込まれるのを目にしてぎょっとしているのだろう。まぁ、燃え盛る火が迫っているオレよりも、


「セリアの友達の童じゃと!?」


 と魔術を放った本人である伯爵の方が焦っていたくらいだからな。確かに迫り来る魔術は膨大な魔力を持ち、普通の女の子だったら生きたまま焼き殺されたと思う。


「リリア!? 間に合うか?」

 

 オレの前に迫っている魔術に対抗する為にクリスが詠唱をはじめたようだ。どうせ、間に合わないから無意味なのに。


「次元の裂け目よ。開け」


 オレは素早く懐から呪符を取り出して口を動かす。すると光を伴った魔術による熱量の塊が突然に裂けた空間に飲み込まれて消え去った。その光景はまるでバケツの穴が空いた箇所に水が吸い込まれるような感じであった。


「儂の魔術を消した!? いや、それよりもあれはヴァルデンブルク王家に伝わっていた魔術ではなかったか!?」


 この呪文を唱えるのは久しぶりだ。相変わらず、この魔術は発動が早い分とても魔力の消費量が多い。今の子供オレの魔力では辛いな。呼吸が乱れて肩で息をしないといけないじゃないか。


「リリア、大丈夫だったかい!?」


 そう言って、伯爵の姿をしたクリスが駆け寄ってきた。オレは手を振って大丈夫だと彼に伝えて、ハノファード伯爵を睨みつける。


「参ったわい。儂を見ておる奴がおることはわかっておったが、まさかこんな童であったとは…」


 伯爵はオレの下に駆け寄ろうとした偽物の伯爵の姿を見て、頭痛でもするかのように頭を抑えた後、苦虫でも噛み潰したような顔で、


「さてと、もし、間違えがあるとイヤじゃからな。お嬢ちゃん、こいつを用意したのはぬしと思って良いのかの?」


 とクリスを指差しながら鋭い口調でそう言ってきた。近づいてきたクリス奴のお陰でややこしくなりそうだ。この状況を見た伯爵に果して誤魔化すことができるだろうか。


「黙りかのう。沈黙は肯定と受け取るぞ?」


 伯爵からすごいプレッシャーを感じる。彼を見ると凄まじい目つきで睨んできている。このまま無言を貫くのは問題あるな。ああ、だからと言って、考えなしで発言するのはもっとマズいよな。


 時間はないだろうが落ち着いて考えよう。最初に整理しないといけないのはセリアのことだ。あの屋敷に居た時に得たセリアが伯爵の刺客によって殺されたという情報が偽物だった可能性。そして、伯爵がクリスが化けた伯爵と戦っていた時の言葉が嘘の可能性。


 どっちが本当なのだ? いや、そもそも、伯爵がクリスとの戦闘中にあんな偽情報を流す必要があるのか? だって、彼はオレと彼女の関係を知らないからな。


 つまり、セリアは生きていた? いや、まだ彼女を実際に見ていないので嘘の可能性も捨てきれないだろう。まずは落ち着け、オレ。娘が生きていたことの嬉しさで冷静さを失ってはいけない。


 まずは、彼女の生存確認が先決だ。しかし、どうすればこの状況下で彼女の生存を確認できるのだろうか。まったく、そんな方法は思い付きそうにないな!


「終いじゃな。肯定と受けさせてもらう。一時的に拘束させてもらうが悪く思うでないぞ」


 タイムリミットが来てしまったか。自らが引き連れてきた部下に命令を下していく。


「いつまで、ボサッとしておるのじゃ! 主も見分けることができない部下などを儂は持った覚えはないわ! ホレ、さっさと奴らを捕まえるのだ!!」


「は、はい、直ちに!!」


 く、クリスの奴はなにをしているんだ? オレがそう思って奴を確認すると彼は何を考えているのか。クリスはオロオロと狼狽えているようにただフラフラと歩いている。おい、こんな時ぐらいうまく演技して時間稼ぎでもしろよ!!


 それが無理でもせめて相手の行動を妨害しろ!! くそ、時間さえ稼げればもっと良い案が浮かんだかもしれないのに。


 どう見ても、今のあいつは不意打ちで攻撃する筈だったオレの予定外の行動にただ慌てているようにしか思えない。そんな態度では自らが偽物と言っているようなモノじゃないか! 本当に使えない奴だ。


 その態度の差から伯爵の部下はどちらが主か完全にわかったようで、オレたちが逃げることができないように取り囲んできた。


 このまま、下手をして拘束されるとセリアが無事かどうかを永遠に確認ができない状況になるかもしれない。そんなのはイヤだ!! 絶対にイヤだ! 娘のためだ! ああ、もう、仕方がない。ここは出たとこ勝負だ!!


「伯爵。いや、先先代王弟フリードリヒ・ヴァルデンブルクよ」


 オレは子供に似つかわしくない低くて重々しい声を無理やり紡ぐ。


「ぬう!? なにを急に戯けたことを言っておるのだ? 其奴そやつをさっさと軟禁用の部屋に連れて行け。ただし、丁重に扱うのじゃぞ? 其奴そやつは曲がりなりにも公爵の娘じゃからな」


 一瞬だけ、驚いた顔をしていても、ガキがバカなことを言ったと言わんばかりの口ぶりで、上手にとぼけてやがる。流石は古狸だ。無駄によわいを重ねていないな。


「俺はあなたの秘密をしている」


 伯爵の反応に対して慌てずに努めてゆっくりとオレは言葉を発する。


「いったい何をいっているのだ?」


 苛立たしげに伯爵はオレを見てそう言う。もちろん、オレには分かっている。彼がその事実を表立って、知られたくなかったことを。


「オレは知っているんだよ。フリッツおじさん。いや、フリッツお義父さん! なぜならば、オレはヴァハドゥール・ド・ヴァルデンブルクの生まれ変わりだからだ!!」


ああ、言っちゃった。どうしよう。頼むから伯爵。いや、フリッツお義父さん! オレがこれから語る荒唐無稽な話を信じてほしい!!

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