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第8話 木を隠すならば森の中

 木々を掻き分けて、オレは林を駆け抜ける。オレを敵兵が追いかけて来ているのだろうか。辺りから兵の怒声や悲鳴が耳に届いてくる。


「おい、このままだと、ここを抜けても全滅するぞ!! どうする?」


 クリスがどうすると訪ねてきたがこっちがそれを聞きたいよ。本当に困ったぜ。散り散りになった部隊を集めるのは至難の業なのだ。どうすればいいんだよ。それにしても、まさかここまで敵兵士が追いかけて来るなんて予定外だ。


 ジークらの部隊の情報を得た後にハノファードを殺し、ヤツに成り代わり、ジークを殺そうと思っていたが計画が甘かったか…


 このままではオレが死ぬ。復讐も出来ずに死ぬなんて有り得ないだろ!


 オレの妻や娘を殺したあの糞野郎どもを殺せずにここで無駄死なんてゴメンだ!!


 どうする。どうすればいいんだ? 


 …………待てよ!?


「クリス、姿を変える魔道具をオレに貸してくれ」


「変身する奴で良いのか? 敵をすべて焼き払った方が早いのではないか?」


 追いかけてきている奴ら以外にも丘の上に展開している部隊がいる。そいつらも撃破できるほど兵力がオレたちにあればクリスの言うことは正しいのかもしれないが…


 だが、現在の兵力ではそれはムリだ。そもそも、ヘイゲルの部下が隊長を置いて、全力逃げていっているのだ。


 本当に冗談みたいな光景だが奴らは先ほどまでヘイゲル男爵に化けていたクリスを見た瞬間に逃げ出していたのだ。そのことを踏まえると、どう考えても林の向こうに隊列して待っている兵士は少ないだろう。


 ここまでくると味方の兵に見捨てられるヘイゲル男爵の人徳の素晴らしさに感動すら覚えちゃうぜ!


「この部隊の隊長であるはここにいるぞ。逃げ遅れたモノ達よ。我輩の下に集まるのだ!!」


「お、おい、バレるだろ!! 敵兵に位置を教えてどうするんだ!!」


 オレが大声でここにヘイゲルがいると叫ぶことで、敵兵が来ることを心配したクリスが不安げにそう言ってきた。


 なに、落ち着けよ。クリス、オレの狙いは…


「よし、狙い通り、敵兵が来ましたね!!」


 オレはハノファード伯爵の一般兵を捕まえて、成り済まそうと思うのだ。もちろん、一般兵士に化けるのはクリスだ。オレは先ほどと同じように町娘として、ハノファード伯爵の軍に紛れるのだ。


「クリス、アイツの中から1人を生かして捕まえろ!!」


「そりゃ、簡単な仕事だな」


 ヘイゲル男爵に生物兵器とまで言わしめた戦闘のプロであるクリスに掛かっては一般兵士など相手にもならなかったようだ。すぐに彼は1人の兵士を連れて戻ってきた。


「戻ったぞ」

 クリスは死体から奪ったベルトで、捕まえた兵士の両腕を縛った後、こちらにハノファード伯爵軍の兵士を連れてきた。


「お前の名前はなんだ?」


兵士が到着するとヘイゲル男爵に化けたオレはすぐに尋問をはじめたが、


「だ、誰が言うもんか」


 と兵士の意地を見せて、ハノファード軍の兵士は何も話そうとしない。


 フフフ、噛みながらも強い瞳でこちらを睨んできたな。ああ、こいつは強気なフリして本当は意志が弱いな…


「クリス、爪を剥ぎ取って」


 このタイプは爪の2、3枚で勝手にペラペラ話だすだろうな。


「あいよ」


「ギャァー!!」


 クリスの軽い返事。辺りに兵士の悲痛な絶叫。思ったよりも痛がりな奴だ。爪を剥がされて泣き叫ぶ姿は大の男のモノとは思えない。


「おや、おや、赤子みたいに泣くね」


「だ、誰が…」


 誰も助けにこないよ。一般兵士の価値はこの国ではコインよりも劣るからね。


「クリス、もう一枚よろしく!」


「ぎゃー!!」


 痛みで泣き濡れた顔がグシャグシャだ。


 爪を引剥がされた兵士はまるで出来の悪い犬が罰を与えられて、お願いだ許してほしいと懇願しているような目をしてやがる。そんな目でこちらをわざわざ見るなよ。


「…痛い。な、何でも言うから、もうやめてください」


 自白するなら、最初からすればいいのに。よし、質問タイムだ。


「もう一度、聞くけど、おまえの名前はなんだ? 言ってみろよ」


 再度、オレは同じ質問から開始した。一般兵士から得られる情報は限られているが、後でハノファード伯爵の軍に混ざるのに困らない程度の情報は必要だ。聞けるだけ、聞くとするか。


「お、俺の名前はグレン・カンサール」


「そう、他にもいくつか聞きたいことがあるけど。教えてくれるかい?」


 グレンと名乗った兵士の肩に手をポンとのせながらそう言った。オレは痛みで追い詰められた相手がこちらを信頼できるようにあえて優しげに微笑んだ。


「よ、喜んで!!」


 オレは口元がニヤけるのを抑えながら、彼から各種情報を聞き出していった。


「さてと、一通り、情報を得たし、そろそろ頃合いかな」


 オレはそう愚か者のヘイゲル男爵に化けていた姿を戻しながら、逃げ惑う奴の部下を見てほくそ笑む 。


「クリス、部下あいつらを囮にしてハノファード軍に紛れるとしよう」


「そうだな。あのムカつくヘイゲルの部下がハノファード軍を引きつけてるうちに行動を起こそう!」


 そう返事をするクリスは屈託のない笑みを浮かべている。相当、クリスは奴が嫌いだったんだな。まぁ、オレもアイツは最悪だと思ったがな。


 って、そんなことを考えている場合じゃないな。思考を切換えろ、早くハノファード伯爵のもとに行かないと! 待っていろよ。ハノファード伯爵、キサマがオレの娘に行った卑劣な行為に対して必ず報いを受けさせてやる!!


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