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第5話 ヘイゲル男爵の誘いとリリアの企み

 草原の中にある道沿をたどっていくとジーク側の兵士が隊列を組んで待機をしていた。どうやら、作戦がはじまる前に集合場所に着いたようだ。


「間に合ったな。早くここの統率している奴に会いに行こう!!」


 兵士たちの隙間を縫うようにオレたちは歩きまわりながら、ここの兵士を統率する軍団長がいる場所の目印である大きな旗を探す。


 ああ、それにしても、雑兵どもがうっとおしい。四方のどこを見ても兵士ばかりでどこにここの司令官である軍団長がいるのかわらかないじゃないか。軍団長がいる場所を示す旗が見当たらないぜ。くそ、いったいどこに軍団長がいるんだ? 


「絶対にあの野郎を僕はぶっ殺してやる。そうだろ? アイツが僕たちをあんな危険な場所に追いやったんだろ?」


 オレは伝令が誰の部下をクリスに話していた。だって、クリスの協力が得れなかったら、あの糞野郎に天誅を下せないだろう?


「あったぞ! あそこに軍団長がいるはずだ。行こう!!」


 クリスがひときわ大きくはためく旗を見つけてかけ出していったぞ。まったく、これだからガキは…


 オレは駆ける彼を追うために早足で軍団長がいる場所を目指した。


 目印であった旗の下にたどり着くと、クリストファーが多くの屈強な男たちをかき分けて、ひときわ大きな巨漢に駆け寄っている所であった。


「軍団長、クリストファーが参りました」


 大声で怒鳴るように自らが来たことを告げるクリスを見るなり、


「おや? 誰かと思えばクリストファー少年兵。いや、今は小隊長だったか?」


 と朗らかな笑みを浮かべる巨漢。


「ベルンハルト第二軍団長!! お久しぶりです!!」


「うむ、久しぶりだな。2年ぶりくらいか?」


 互いに挨拶をして微笑み合う男達を脇目にそんなことはどうでも良いと言わんばかりにゲス野郎が突如として会話に入ってきた。


「おや? どこかで見たと思ったら、貴重な戦力を無駄に消耗した隊長と救助された小ネズミではありませんか」


 なんで、こいつがこんな所にいるんだよ。糞男爵のヘイゲルめ。


「軍団長。行けませんよ。高貴な血を引くあなたがこんな下賎な者たちと気軽に挨拶しては…」


「おい、おい、ヘイゲルよ。今は戦争中だぞ? もっと合理的に考えてくれないか」


 ベルンハルトが呆れた顔して言っていることが理解できなかったのかヘイゲルは笑みを浮かべて、


「ベルンハルト第二軍団長。いや、サントマリアンド伯爵。我輩の情報網によると。こ奴らは無駄に部隊を損耗させてろくに兵士を引き連れておりませんぞ」


 と実に憎らしいことを言う。貴様に嵌められて多くの兵士が無駄死したんだろうがと言いたげにクリスが厳しい目でヘイゲルを睨む。


 落ち着けよ。クリス。オレもはらわたが煮え返りそうだ。


「それは本当か? 貴殿の部隊の損害は如何程か?」


 オレに驚愕した顔でベルンハルトが問いかけてきた。オレだって驚愕だよ。ありえないよね。本当にさ。すべてがヘイゲル男爵のせいなんだけどな!!


「…兵の8割が死亡。残りの1割が負傷している状況です」


 オレは正直に現状を話した。


「な、なんと!? まだ、開戦して2日目だぞ?」


「失態は免れないのではないかな? 団長。彼のような無能な指揮官はこの部隊にいても、役に立ちませんよ」


 驚愕しているベルンハルトを他所にイヤらしい言葉でそんなことを言ってきた。


「…ぐっ」


 クリスが悔しそうに唇を噛み震えている。分かるぜ。クリスよ。オレもこいつを殴りたいわ。


「どうですかな? 我輩の指揮下に加えてはどうでしょうか? 幸いに我輩の優秀な部隊は一人もかけておらず。多少、命令系統がハッキリしない下賎な奴らが混じっても問題なく部隊を展開できますぞ?」


「それにはカイネル隊長の同意が必要だろう。正直に言って部隊の急な混成は賛同しかねるが…」


 なんで、おまえのような三下の奴がそんなことを言えるんだよ。所詮、男爵だろ。


「そうですな。では彼にそれを聞きましょう。カイネル隊長はどうお思いですかな?」


 オレは考える。だって、こいつの部隊に入ったら、また卑怯な手でオレたちを罠にかけることは分かっているんだ。だが、こいつを始末するチャンスは格段に増えるわけだ。オレがそんなことを考えていると、


「あなたには悪いようにはいたしませんよ。そこの小ネズミさえ始末することができるならばあなたの安全は保証しますよ」


 と奴は小さく耳打ちをしてきた。腐ってやがる。その性根や考え方のすべてが有り得ないくらいに腐り果てている。


 クリスがオレを絶対にこんな奴の部隊に行くなよと言わんばかりに鋭く睨んできた。だが、オレは彼を完全に無視することにした。だって、これはチャンスだからね。


「では、よろしく頼むよ。ヘイゲル男爵」


 オレはそう言ってヘイゲル男爵に手を差し出す。


「カイネル隊長がそういうのならば問題はない。オレは忙しいので貴殿らは早々に部隊に戻るが良い。会議が正午からあるので準備をしておいてくれ。では、またな」


 団長にそう言われてオレたちは兵たちに誘導される形で他の場所に強制的に移動させられた。


「貴殿が栄光ある貴族の誇りを取り戻してくれたことを嬉しく思うぞ。なに、共にこの戦争を乗り切ろう。我輩たちはここより北にて待機している。では、残った部隊をまとめて早急にきてくれ」


 そう言って、ヘイゲルの奴は後ろを振り向いて歩き出そうとしたが、


「いや、そんなに残っていなかったかな? 直接、こちらに来てもよいぞ?」


 とこちらに顔を向けたあとにそんなことを言ってきた。相変わらずムカつくやつだ。


「いえ、部隊を整えてから伺わせていただく」


「わかった。では、貴公が我が隊にくることを楽しみにしているよ」


 オレの返事を聞いて奴は上機嫌に去っていた。ああ、腹が立つ。


「おい、なんで、あんな糞野郎の部下に成り下がる選択をしたんだよ!!」


「落ち着けよ。クリス、オレにいい考えがあるんだ。ちょっと聞けよ」


 あの野郎がニヤニヤ笑ってられるのも今のうちだぜ。


「なるほどね。それはいい考えだ!!」


 クリスはオレの話を聞いた後、満面の笑みを浮かべる。オレと彼は互いに目配せし笑いあった。


 カイネルの部下をまとめた後にヘイゲルの野郎の下に行くのが楽しみだ。オレは抑えられない笑みを顔に貼り付けたまま、足を進めるのであった。

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