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美少女転生-リリアーヌ・フロイデンベルクの華麗なる復讐劇  作者: 湯原伊織
第1章 転生者と復讐者による狂宴の幕開け
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第23話 悲しみと苛立ち

 愛娘の悲報を聞いたオレは焦る気持ちを抑え、扉を開け部屋に入る。その部屋は暗く、静寂が支配していた。時より、開いた窓からの風に揺らめくカーテンが木製の窓枠に当たっている音がこちらに聞こえてくるくらいに…


 まるで、この部屋に誰もいないかのごとく。静かで…。


 本当に静かで……。

 

 そんな静寂は娘を失った気持ちでまいっているオレには苦痛でしかった。だから、オレはベットで寝ている人物にラリアットをかましてしまったのかもしれない。そして、それはきっとただの憂さ晴らしだったのだろう。そう、今は心を落ち着かせる為に誰かと話をしていたかったのだ。


「え!? な、何が!?」


 オレの一撃を受けてベットで惰眠を貪っていた愚かな男が目を覚ましたようだ。オレは腹が立っていた。だって、娘は命を散らしたのに…


 妻と娘を殺したジークや伯爵らは、先ほどのこいつみたいに呑気に寝ていることを想像すると本当に嫌になる。


「いい気なものね。わたしがあんなに苦労して運んできたのに。寝ているなんて…」


 イヤミ。自分でも抑えきれない負の感情が相手に対してそんなことを言わしてしまう。苛立と悲しみを紛らわす為にオレは彼に対して微笑む。


「ああ、君か。…いや、魔力が枯渇して、僕は死にそうなんだけど」

 

 そんなオレを寝ぼけまなこで、見てくるクリストファー。オレは彼のその態度が気に入らなくて、腹が立ってきた。


「あなたの都合なんてしらないわ。それよりも、私はとある情報が欲しいの。命の恩人である私にあなたは教えてくれるわよね?」


「…なにを勘違いしているかわからないが、僕は使者をやっていた程度の人間だぞ? そこまで、たいした情報など持っていないよ」


 娘を殺された父親の切実な願いの返事がそんなくだらないことで許されると思っているのだろうか。


「そう、僕は所詮、少年隊を率いている小隊長に過ぎないんだ。そんな作戦の根幹に関わるような情報なんて持っていないよ…」


 いつまで、そんなことをグダグダと言っているのだろうか。


「…そう。あなたとお別れするのは残念だわ」


「え!? い、いや、あれ? あれだ! うん、今回はジーク閣下も戦闘に参加するらしいよ」


 確かにその情報も貴重だ。だが、部下が大勢いる奴を倒すには周到な準備が必要だ。もっと、詳細な情報が必要だ。


「そんなゴミみたいな情報を何に使えば良いのかしら? やはり、若いのに死んでしまう人は無能なのね。可哀想」


「…いったい、何が知りたいんだよ。もっと具体的に言えよ。僕には君がなにを求めているのかが、わからないよ」


 オレからの無能者に対するような哀れみを持った視線に彼は耐えきれなかったのだろうかそんな泣き言を吐いてきた。


「愚鈍なあなたにも、わかるように言ってあげるわ。私はこの戦争の目的とこの後のことが知りたいのよ」


「そんなものは、僕にわかるわけないだろ」


 オレから視線を逸らして奴がそんなことを言ってくる。わかりやすいな。


「嘘ね。あなたは私に知っていて黙っているのね?」


「そんなわけないだろう…」


 どう見ても挙動不審だ。オレと目を合わせようとしないで辺りをキョロキョロと見てやがる。


「そろそろ、私は行くわ。あなたはここで静かに眠っていてね。そう永遠に。さようなら」


 オレがそう言って、部屋を出て行こうとをすると、


「この戦争の目的は旧王国派の掃討にあるらしい。もちろん、君が思っている通りで、その後の戦争に向けた布石らしいけどね」


 クリストファーは慌てたように早口でそう言ってきた。最初から言えば良いのに。めんどくさい奴だ。


「知っている情報はすべて教えてくれるわよね?」


「なにこの女。顔は可愛いのに性格が悪魔みたいだ…」


 クリストファーは多くの戦場に身を置いた歴戦勇者と言っても差し支えはない経歴の人物。だが、彼も所詮は少年だったようだ。この程度のことで半べそをかいてやがる。


「なにか言ったかしら? 気のせい?」


「き、気のせいです。こんなに可愛い女の子の近くに入れて僕は幸せだなっていたんです」


 オレのひと睨みで、媚を売ってきたか。こいつはまるで少女みたいな可愛いらしい少年だからここら辺で許してやるか。


「あら? いやだわ。可愛いだなんて」


「……」


 オレが照れて俯いたふりをすると奴はそれを見て押し黙った。なぜ、沈黙をするんだ。全く、失礼な奴だ。


 その後、オレはクリストファーから今回の戦の背景を含めた多くのことを聞くことができた。そして、オレが当初から思った通りでジークは大きな戦を帝国に仕掛けるつもりのようだ。


 彼の話を吟味する為にオレは部屋の椅子に座りながら思考に耽った。


 なんとしても、この戦の混乱に乗じてクソッタレどもの首を刈り落としたい。そう、伯爵とジークの…。


 イレーヌ、セリア。少しだけ、待っていてくれ。オレはお前達の仇を必ず取るからな。オレはそう言い聞かせて、自らの心に誓いを立てるのだった。

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