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美少女転生-リリアーヌ・フロイデンベルクの華麗なる復讐劇  作者: 湯原伊織
第1章 転生者と復讐者による狂宴の幕開け
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第20話 魔女ルクレツィアの秘術

 城門の向かいにある山々に囲まれたこの森林地帯で、漆黒の少女が婉然と微笑む。


「私を楽しませて! 私にあなたの悲鳴をもっと聞かせて! 絶望したその顔をもっと見せて! あなたの顔を恐怖で染めたいの!!」


 そう言う彼女は微笑んだ後に突如としてオレと間合いを詰める。はやい。オレは彼女を目で追うのがやっとで額から落ちる。どうやら、冷や汗が止まりそうにない。


「遅いわ! 遅い。あなたは亀なのかしら? 愚鈍ね!」


 ルクレツィアは、掌底を連打でオレに叩き込んだ後に見下したように見てくる。ぐ、魔術で加速しているオレよりも明らかに速いなんて、嘘だろう…


「魔術で加速している私よりも速いなんてと言わんばかりの顔ね。言い忘れたけど、私はこれでも全力を出していないのよ? でも、安心して、あなたに全力は出さないわ。だって、必要ないものね」


 彼女が婉然と微笑むその姿はまるで、肉食獣が得物を前にした時に見せるような、獰猛な笑みのようだった。


 くそ、このままだと殺される。どうする。どうすれば良いんだ。こ、こんな所で、ジークの奴に復讐も出来ずに人生を終わらせるのか…


 悔しい。悔しくてたまらない。いや、死んで、たまるか!


 …肉体的に勝てないならば、魔術で挑むのみ。


「接近戦で勝てないから近距離から魔術で私と勝負をしようとしているのかしら?」


 こちらをバカにしたような口調で話しかけてくるルクレツィア。オレは苛立たしげに顔を歪めた後に魔術を放つ。火炎系の大規模魔術だ。通常の人間がこの魔術を受けたならば、一呼吸する間に死んでしまう程の魔力を持つ魔術であるが、


「あなたの魔力はこの程度なのかしら? ガッカリだわ。思ったよりも弱いのね」


 彼女はそれを軽くあしらう。そして、オレを見て鼻で笑いやがった。くそ、オレはこんなガキの女にすら勝てない程に落ちぶれてしまったのか。


 そんな風に落ち込んでいるオレを待っていたのは絶望と失望…


「ああ、良いわね。その表情。絶望! 堪らないわ!!」


 オレを見て、ルクレツィアは愉悦の言葉を次々と吐き出し、悶える。だが、暫くすると急に真顔になったかと思ったら、


「そろそろ、あなたとの戦闘も飽きてきたわね。とどめをさそうかしら?」


 と言って、突然にこちらに向かってきた。やばい、正直に考えて、向こうの方が明らかに肉体、魔力など戦闘能力が上だ。


 オレよりも強い相手に呪符の節約など考えている場合ではない。こうなったら、呪符をすべて使って…


 一気に止めを指すしかない!!

 オレの呪符にはたいした魔術は入っていない。だが、これだけの数があるのだ…


「再現せよ、再現せよ。地獄の業火ごうかよ。すべてを燃やしたまえ!!」


 オレは懐からありったけの呪符を取り出して、すべてに魔力を込めて詠唱する。オレの詠唱に答えるかのごとく魔術が次々と現れて、ルクレツィアを襲う。


「そんな、魔術では、私を楽しませる事はできないわよ?」


 最初のオレの魔術を軽く受け流したルクレツィア。


「 …え? なに!?」


 彼女の顔が驚愕に染まる。それは瞬だけではあったが、その後もオレから放たれる魔術に苛立ったように対応している。よし、思った通りだ。


 彼女は確かに強力な魔術師ではある。だが、高位な魔術師ゆえに魔導具まで最高の品質を求めてしまったのだろう。基本的に上位の魔術が使える魔導具は起動が遅いのだ。より強力な魔術が使えるように高位の魔導具には大量の魔力量が必要であり、さらに魔力を取り込むのに時間がたくさん掛かるからだ。


 つまり、彼女は起動が早い大量の魔術に対処することが困難な状況にあると言っても良い。さてと、ここからが正念場だ!!


「これならどうかしら? ルクレツィア!!」


 当たれ。オレは死にものぐるいで魔術を次から次へと彼女に放つ。ルクレツィアは慌てたように対応している。


 オレの魔術が全部奴に防がれている。くそ、これならばどうだ。オレは彼女の左右に火炎系の魔術を放つと同時に駆け出す。ルクレツィアはオレの魔術をなんとか自らの魔術で相殺。


 彼女の後ろに回り込んだオレはすかさず魔術をルクレツィアに叩き付ける。オレの魔術が奴を容赦なく襲う。


「う、嘘でしょ!?」


 よし、どうやら、彼女はオレの魔術を防ぎきることができなかったようだ。彼女の身体に魔術が当たり、辺りが煙に包まれた。


「痛い、痛いわ…」


 爆煙の中から彼女の悲鳴にも似た声が聞こえてきた。まだ、死でいなかったのか。煙の中らか現れたルクレツィアは魔術が当たった腕を押さえながら、


「よくも、私の美しい身体に傷をつけてくれたわね!! もう、お遊びはここまでよ!?」


 凄まじい目に睨んできた。


「もう、許さない。許さないんだから!?」


 そんなことを言う彼女の絶叫が当たりに響く。どうやら、怒っているようだ。戦闘中に冷静さを失うとは困ったものだ。だが、これはある意味好機かもしれない。


 魔術による攻撃がもう出来ないオレにはすでに関係の無いことかもしれないが…


 呪符をすべて使い切ってしまったオレ。敵がどんな状況だろうとオレの状況が改善する分けではない。どうする……


「あら? 先ほどまでの余裕はどこにいったのかしら?」


 オレはルクレツィアをさらに煽る。オレは別に彼女に勝つ事を目的にしていない。この場所からクリストファーをつれて逃げ出す事さえできれば良いのだ。


 呪符のないオレにはもう魔術は使えない。なんとかして、ここから逃げなくては…


「そんな、減らず口をいつまで叩けるかしら!!」


 彼女はオレの暴言に怒りを現しているのか、目を血走らせて、苛ついた声を上げる。そして、意を決したようにこちらを睨んでくると、おもむろに詠唱を唱えはじめる。


「祖は血塗られた血族の末裔。永遠を彷徨い続ける。孤高の存在。汝はその孤独と暗闇の前に…」


 彼女の目が赤く怪しく輝きだす。その姿はまるで人の形をした別の生き物のように怪しく蠢く。


「運命を恨むのね。私の前に現れたことを…」


 爛々と輝く赤い瞳で彼女は押し殺したような声でそう言ってきた。


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