第19話 狂気の魔女ルクレツィア
眩い閃光が城門に降り注ぐ。その光の正体は、城門の扉に向かって放たれるスカーレット・フィーユ魔導独立小隊による絶え間ない魔術の連撃によるものだった。城門の壁が徐々に崩れ、辺りに轟音が鳴り響く。
「敵戦力による大規模魔術攻撃です!!」
「消火班を除いて、総員、緊急戦闘配置に付け! 急げ!!」
城門から慌ただしい声が聞こえてくる。
「なにか、おっさんたちが、ギャアギャア喚いているけど。煩いわね」
赤毛の髪を後ろにまとめた出で立ちの少女が眉毛を嫌そうに寄せながら、指で頬をかく。
「お、反撃してきた!?」
城門から真っ赤に燃える火球が少女達のもとに飛来。赤毛の少女はどこか嬉しそうに微笑み、詠唱をはじめる。
「…地を照らせ暁の炎。まつろわぬ愚か者共を滅却せよ!!」
赤毛の少女から凄まじいまでの熱量を持った魔術が放たれる。あれは、低位の火炎魔術ニーダー・ブレンネン。伯爵の兵士らが放ってきた魔術よりもかなり下位の魔術。
何がしたいんだ。あの赤毛の少女は…
そんな小さな炎だと伯爵の兵士らが放った火球に飲み込まれておしまいだろうに。オレがそう思っていると火球が突如として爆散し、跡形も無く消え去る。
何が起こったんだ。火球とあの下位魔術で相殺したとでもいうのだろうか。嘘だろ!? 魔術は魔導具に依存した効果はある程度ある。
だが、魔導具に書込まれた術式は体系化されているので、上位の魔術に対して並大抵では対抗することなどできない。
例外として、凄まじいまでの魔差がない限りだが…
オレは赤毛の少女の魔術が引き起こした衝撃的な光景を見て驚愕で固まっていると、
「あら? よそ見をしている場合かしら?」
ルクレツィアがオレを見てニコリと微笑みかけてきた。
「まぁ、いいわ。それにまだ、自己紹介が終わってませんものね。私の名前はルクレツィア・ゾルムス・ラウバッハ。ルクレツィア様と呼んでね。あ、ご主人様でも良いわよ?」
「馬鹿なこと言ってないで、さっさと消えなさい」
オレは呪符を取り出して、雷撃の魔術を放つ。よし、奴にオレの魔術が直撃したぞ。次は…
「うーん、痺れるわね。気持ち良いわ!」
この女、オレの雷撃の魔術を受けて、笑ってやがる。その光景を見たオレは自らの顔が引きつっているのを自覚できるくらいに驚愕せざる得なかった。
「お礼に私からも、魔術をあげるわ」
黒髪の少女から水泡による魔術攻撃がこちらに向かってくる。オレは慌てて火炎系の魔術で相殺し、辺りを見渡す。奴との間合いを詰めておかなくては…
「やっぱり、魔術は得意なのね?」
「魔術だけ? そんなわけないでしょ」
オレはそう言うと呪符を取り出して、自らに貼付けて筋力を増強する。これで遠距離系の攻撃を得意とする魔術師は楽に倒せるはずだ。オレはそう考えて拳を相手に叩き付ける。だが、奴に当たらない。それどころか、黒髪の女から拳がオレに向かって飛んできた。
「い、痛い…」
「驚いた? 私は武術もできるのよ。魔術師は格闘技ができないとでも思っていたのかしら?」
さらに追加攻撃と言わんばかりに魔力によって、動きを加速させているオレを軽く上回る速度で掌底を放ってきた。オレの右肩に衝撃が走る。本当に痛い。
「あら? 絶望? 魔術師が魔術しか使わないと思っていたのかしら。私はどんな可愛らしい子でもコレクションに加えれるように武術も相当つかえるのよ?」
こいつ、ふざけた言動の割に本当に強い。殴られた衝撃で口の中を切ってしまったのだろうか。口内から血の味。こいつは格闘まで出来るのか。化け物か。いったいどうすれば…
「いいわ。その表情。たまらない。ゾクゾクしちゃう」
そう言うルクレツィアは恍惚の表情を浮かべてこちらを見てくる。その表情を見ただけで、誰もが思っただろう。こいつは狂ってやがると…
オレの顔の表情が嫌悪感で歪む。だが、奴はそれを見て、愉悦を味わっているのだろうか興奮気味に、
「もっと、美しい悲鳴を聞かせてね。そして、私を楽しませてね!」
彼女はそう言って笑う。オレにはそんなルクレツィアがとても同じ人間には見えなかった。そうまるで狂気を孕んだ化け物であるかのように。オレにはそう思えてならなかったのだ。
旧第2章の学園編を『美少女転生-男は転生で9割変わる〜身体は女でもオレは男なんだ〜』に再度大改変してあげます。よろしかったら、読んで頂けると幸いです。




