第18話 狂気に取り憑かれた黒い瞳の女の子
オレは魔力が切れかけているクリストファーを置いて、城門の前まで駆けていく。そして、オレが門の前に出ると、
「あ、危ない!?」
突如として、こちらを襲ってきた凄まじい疾風。それは、咄嗟の事で、オレの顔は強ばり、口から悲鳴が漏れる。
だが、偶然だろうか。無意識だろうか。こちらを襲ってきた疾風を紙一重の所でオレは避ける事ができた。
先ほどまで、オレがいた場所は大地が風によってエグレて、その魔術の破壊力を物語っていた。あと少しで、オレの肉体もあんな風になっている所だったのか…
「あの魔術を避けれる人を久しぶりに見たわ」
鈴を鳴らしたような、高く軽やかな声に反応して、オレが振り返るとそこには美しい黒髪を左右に揺らしながら、こちらに向かって歩み寄ってきている少女がいた。
彼女の瞳は焦点があっていないのか、どこか虚ろであった。
「あら? この強い魔力の波動を持つ子の正体がこんな可愛らしい女の子だったなんて…」
そう言う少女を見ると先ほどまで虚無しか映し出していなかった瞳が怪しく光っている。そして、どことなくだが、今の彼女は嬉しそうだ。
「ルクレツィアどうしたの? …女の子がいるわね」
他の少女達もこちらに気が付いたのか黒髪の少女がいる所まで駆け寄ってそう言う。
「エリー、あなた達は先に行っていてください。私は後で行きますわ」
「なにを言っているの? 私たちの任務を遂行するにはあなたが不可欠なのよ!?」
エリーと呼ばれた少女は黒髪の少女の発言内容が予想外だったのか、慌てたようにそう怒鳴る。
「落ち着いて。私たちの任務には城門の破壊も含まれてなかったかしら?」
「た、たしかにそれも入っているけど」
「そうでしょう。それとあなたの大好きなクリストファー君の生死を確かめたいのでしょう? だったら、なおさらよ」
そう言って、ルクレツィアと呼ばれた少女はウインクをして、エリーを見る。
「ば、バカを言って…」
エリーは照れたのか、顔を俯けたままにしていたが、
「早く、行きましょう」
と他の小隊員に言われて、顔を上げる。
「し、仕方ないわね。いいわ。あなたがいないと任務は達成する事が難しいのよ。早く来なさいよ」
彼女らはルクレツィアを一瞬だけ、見た後にそう言って、門まで駆けていった。
「さてと、邪魔者はいなくなったわね」
そう言って、少女達がいなくなったのを確認した後にこちらに話しかけてきた。
「私は奇麗な少女が大好きなの」
どこか陶酔したようにそう言う彼女は狂気に犯されているのではないかと思わずにいれないくらいな禍々しく笑う。
「そんな、奇麗な少女がボロぞうきんのようにズタズタに切り裂かれる姿を想像しただけで……」
彼女はまるで、恋いこがれた相手と話すように顔を真っ赤にして、そんなことを言う。狂ってやがる…
「…堪らないわね。そして、そのボロボロの姿を剥製にしてあげるのよ。すばらしいでしょう?」
「……」
年端もいかぬ者が傷だらけにされて剥製にされているのかと思うとやるせない。
「あら? 無視かしら? それとも、恐怖でなにも言えなくなったの?」
オレが無言なのをいい事に舐め回すように見てくるルクレツィア。
「でも、安心して、あなたも私のコレクションに加えてあげるわ」
そう言って、少女は微笑んできた。