第17話 少女達による狂宴のはじまり
鬱蒼と生い茂る深い森がアルカザル城の裏門を超えた先に見える。そして、そこには複数の可愛らしい少女達がいた。彼女達は、なにやら楽しげに話しているのだろうか、様子を伺っているこちらまで簡単にその談笑の声が聞こえてくる。
「あの城門を見張ってるお兄さん。けっこうかっこ良くない?」
そんなことを言った赤毛の少女は城門で立っている兵士を指差した後に可愛らしく微笑む。く、普通の男だったらその笑顔を見るだけで虜にできそうだな。
しかし、発言の内容だけを聞くと馬鹿な女の典型にしか思えない。だが、あの女から感じる魔力の波動は並ではない。油断は禁物だ。
それにしても、これほどの魔力を持つ人物をオレがしらないとなると、彼女はオレが死んだ後に現れた大魔術師というところか。
「えー? 微妙かな」
軽やかな声と共に細身長身の少女が小さく首をかしげた。彼女もスカーレット・フィーユ魔導独立小隊のメンバーなのだろう。彼女の魔力も通常では考えられない量だ。
「エリーには聞いてないし」
エリーと言われた少女の言葉を聞いた赤毛の少女は不満があったのか、頬を膨らませて彼女にそう抗議を述べる。
「そう、そう」
すると、赤毛の少女に同調したのか、他の少女達が相づちを打つ。
…一人、二人、三人。小隊の構成人数は全員で五人だろうか。少なくともオレの視界には各々が個性的な魅力を持つ少女達が五人確認できた。
そして、彼女達はそれぞれが強力な魔力を持っているように思える。
「エリーの好み偏ってるもんね」
「ねー」
エリーと呼ばれた少女を見ながら、そう言って、微笑み合う少女達。それにしても、彼女達の会話はとてもこれから戦争に向かおうとしている部隊の会話内容に思えない。
いや、寧ろ、本当はタダの城下町に住む少女と言われた方が納得してしまいそうなオレがいる。
もしかして、オレの魔力検知能力が疲労によって、誤認識でもしたのだろうか。いや、そんなことはないと思うが…
「おい、どうするんだよ。これからさ。策があるんだろ? あいつらはあんな風に見えるが、この地方では最上級の魔術師達が集まっている集団だ。可愛いからと言って油断するなよ」
この少年は、なにを言っているんだろうか。オレはそう思って、彼をジト目で見てしまった。だって、彼は最後に可愛いからと言って油断するなってオレに言ってきたんだぞ。わざわざ、こんな非常時に言うことだろうか。オレが一生懸命に策を練っている時にだぞ…
「可愛い女の子にあなたが夢中なのは置いておくけど。私が油断するように見えるの?」
「ぼ、僕は見た目で判断をするなと言いたかったんだ! あの部隊はもともと…」
「はい、はい、彼女達がこちらまで来ているからね。ひとまず、もう少し様子を見るためにあちらの扉の裏に隠れましょう?」
ぼ、僕は君のためを思ってとブツブツと何かを呟くクリストファーを背負いながら、オレは移動して隠れる。正直に言って、オレはこいつにカッコいいことを言ったが…
この足手まといのクリストファー少年を背負って、彼女達とまともに戦うことはできないだろうな。
ここは気配を消して、彼女達が去るのを待つのが上策だろう。
「なにか策があるんだろ?」
「ええ、あるわ。ここに隠れて彼女達が去るのを待つと言う策がね」
オレはそう言って得意げに微笑んでやった。そうだよ。オレは無策だよ。なんか文句あるか。
「それ、策って言わないから…」
オレの発言を聞いたクリストファー少年が呆れて、そう呟く。うるさいな。そんなことはおまえに言われなくてもわかっている。
「うるさいわね。そんなうるさい奴には…」
そう言って、オレは懐にあるクリストファー少年が落としていった魔導具に魔力を込める。対象物はクリストファー少年で、イメージはマリーだ。
「え!? 何やったんだ! 僕の手が白くて奇麗!? いや、それよりも、すごい違和感が…」
どうやら、無事にオレが発動させた魔術はクリストファー少年をマリーの姿に見えるようにできたようだ。やはり、この魔導具の効果は、触れている対象者の見た目を変えるモノだったのだ。
「ま、まさか、この胸の辺りにある膨らんだものは…」
オレが彼を魔術で女性に姿を変えたために奴は慌てふためいているようだ。膨らんだモノと言って、マリーの姿で胸を揉む仕草はやめてほしい。いや、やめろよ。
「さすがの彼女達も兵士でもない一般人は襲わないでしょう? なら、その格好でいなさい。それといつまで、そんなことをしているの?」
「ちょ、ちょっと待てよ!? 僕は女になってるの? なぜだ!?」
オレに言われて、胸を揉む行為はやめたが彼の頭の中は混乱しているのだろうか、頻りに首をかしげている。そして、突如として、彼はメイド服のスカートをズラし、下半身を確認するように見る。
「…ない。下にあれがない。僕はもう、お婿に行けないのか」
クリストファー少年は瞳を閉じてそんなことを口走っている。やはり、混乱しているのだろう。自分が持っていたら魔導具の効果すら、思い出せないなんて…
「なにを言っているの? そんなことよりも、静かにしてくれない? 向こうの様子を確認したいから」
オレがそう言って、睨むように射竦めるとクリストファー少年は何もかもが終わりだと言わんばかりな表情で空を仰ぎ、静かになる。最初から静かにしてれば良いものを…
静かになったクリストファー少年から視線を外して、少女達の様子を伺うと、
「ここは非常事態宣言が出ていてね。申し訳ないが通行証を見せてくれないか?」
どうやら彼女達は、門の前まで来てハノファード伯爵の兵士と話をしているようだ。
「通行証?」
門番の言葉を聞いて、少女達が首をかしげる。
「通行証をもってないのかい? どこの領地からここにきたかはわからないが、今は通行証がない人物は通せないんだ。申し訳ないが自分の町に帰ってね」
そう言って、門番が少女達に帰るように促す。しかし…
「ああ、通行証ね」
目鼻がはっきりとした黒髪長髪の少女がそう言って、前に進み出て微笑む。
「あるのか。それならば、早く!? グガぁ…」
通行証と言う言葉に反応した門番が彼女を振り向いた瞬間。彼の頭は飛んだ。顔が無くなった体は首元から血を流して、その場で崩れ落ちる。
黒髪の少女は微笑みながら、門番の頭を拾い上げて、兵士の体の方まで歩いていく。そして、血に濡れた彼の頭を持ち上げながら、
「これでいいかしら? お兄さん? お兄さんのこの顔が通行証よ。顔パスって奴ね? あら、返事がないわね。皆さん、いきましょうか。」
死んだ門番にそう言って、優しく微笑む黒髪の少女。それを見て、笑い出す少女達。狂ってやがる。やはり、まともな神経で戦争に参加はできないのだろう…
やばい、こんな奴らを相手に一般人だから見逃してくれといっても通用しないだろう。見つかったら、殺されるぞ。どうすれば…
オレがそんなことを考えていると、
「ねぇ? そこに隠れているでしょう? 出てきなさい…」
そう言って、こちらの方向を見て微笑み出した。やばい、どうやら見つかってしまったようだ!




