第15話 年配の兵士と偽物の兵士
燃え盛るアルカザル城の門から行く筋もの煙が上がっている。燃える炎の勢いは衰えることなく徐々に城門を火に包んでいく。幾多の兵士達が桶に水を入れて消火活動に励んでいるが、その努力の甲斐もなく炎は燃え続けている。
オレは背負っているクリストファーを見た後に、
「さてと、兵士達が消火活動している今がチャンスね!」
そう言って微笑んだ。城門が燃えることによって、兵士達が消火活動に気を取られているうちに門から脱出しよう。
オレがそんなことを考えていたら、クリストファーがこう言ってきた。
「消火活動で兵士が慌てていると言っても、ガキがこんな場所にいたら怪しまれるだろ? どうやって、あの門をくぐる気だよ」
なんで、そんな怪訝な表情をしているんだよ。確かに、クリストファーが言うことは至極ごもっともな意見だ。だが、オレは既に城門に入る作戦を考えている。そう、オレたちが城門にいても、怪しまれない方法をね…
「私が無策にこんなことをしたと思っているの?」
オレはそう言って奴に向かって不敵に笑った。
「いきなり、城門に火を放つ奴にまともな策があるとは思えないから聞いたんだが…」
イヤミかよ。失礼な奴だ。オレはお前よりも、人生経験が豊富だから、たくさん策があるんだよ。
「…こうやってよ」
オレはムスッとした表情で、そう言うと懐からクリストファー少年が使っていた魔導具を取り出す。そして、自らの姿を先ほど見た兵士に似せる。
オレは変身した後に自らの姿を確認する。甲冑にはハノファード伯爵家のシンボルマークである火炎の紋章。
これならば、問題なくまぎれることができるな。姿を確認してオレは、そう思って口元が緩む。
「その魔導具は!! それをどこで手に入れたんだ!?」
奴はオレが持っている魔導具を凝視して、睨みつけてきた。
「女子の秘密を聞くのは野暮ってものでしょう?」
オレはそう言って奴に向かってウィンクをしてやった。
「いや、今のおまえは、おっさんじゃん。気持ち悪いわ…」
なぜか、ぐったりとして大人しくなったクリストファーをオレは背負って駆け出す。
しばらくすると年配の兵士がオレの方を見てきた。オレは慌てて視線を外す。
すると、そんなオレの動きを怪訝に思ったのだろうか年配の兵士が突如として声をかけてきた。
「おい、ガキを背負っている奴。止まれ。おまえだ。そこのおまえ!」
やばい、逃げないと。オレはそう思って、走る。
「あの兵士の方が足が早いぞ。どんどん距離が詰められている」
クリストファーの慌てている声がオレの耳にも届く。オレは振り返らない。無我夢中で走る。だが、それでも、徐々に近づいてくる足音。オレはそれに恐怖を覚えながら走った。
オレは城門の前まで走ってきた。ここを抜ければ、この城ともおさらばだ。あと、もう一踏ん張りだ。そう思って、さらに加速して走り出そうとした瞬間。
突然、オレの身体が後ろに引っ張られた。いったい、どういうことだ。オレがそう思い、顔を後ろに向ける。すると年配の兵士がクリストファー少年の肩を掴んでいた。
追いつかれていたのか。オレは舌打ちしたい気持ちを隠して、どうやって、この場を切り抜ければ良いのかを考える。
「…痛い、痛いよ」
少年の肩を力ずくで引っ張っているのだろう。クリストファーから小さな悲鳴が聞こえてきた。
計算外だ。こんな事になるなんて…
どうすれば良いのだろう。クリストファー少年の肩を掴んでいる手を無理矢理に引きはがして、逃げるべきだろうか。
「なぜ、逃げるんだ?」
そう、尋ねてくる年配の兵士の顔からは表情が読み取れない。怪しいオレを尋問しているのだ。無表情なのは当たり前か。さてと、オレはどうすればいいのだろうか。この状況を打開するには…
打開するには…
どうすれば良いのだろうか…




