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美少女転生-リリアーヌ・フロイデンベルクの華麗なる復讐劇  作者: 湯原伊織
第1章 転生者と復讐者による狂宴の幕開け
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第11話 人体実験の被験者

 焦げ付く臭いにつられて、辺りを見渡すと庭師の手入が良くいき届いた荘厳な庭園が見るも無惨な姿に変わっている。


 確かにそこは先ほどまで見渡す限りに広大な庭園だった。しかし、今はただ真っ黒に焼けた大地へと変貌をとげてしまっていた。


 これはとんでもない大魔術で使者を跡形もなく燃やし尽くしただろうと思って、辺りを確認していたら、焼けこげた大地に何かがもぞもぞと動いているモノが視界に入ってきた。


 何が動いているのだろうか。オレは怪訝に思いながら目を凝らしてよく見るとそこには真っ黒に焦げた人間の顔らしきものが付いた物体があった。物体と言っていいのかわからないが既にその黒い固まりはどう見ても人間であった時の原型をとどめていない。


「うご、ぐが、グハァ!!」


 どうやら、それでも、まだ生きてはいるようだ。苦しそうに呼吸をしているのか苦痛を叫ぶような声が聞こえてきた。それにしても、あんな状態になっては、どうあっても助からないだろう。


「フン、命を粗末に扱ったモノの末路としては相応しかろう。じゃが、そんな姿でいつまでも苦しんでいるのはさすがに哀れじゃな。一思ひとおもいにとどめをさしてやるわい!」


 そう言うと伯爵はおもむろに詠唱を唱えて魔術を少年に向かって放つ。これで少年も安らかに眠れるだろうとオレは気軽に考えていたら、


「儂の魔術を避けるじゃと!? いったいどうやって?」


 ハノファード伯爵が驚きの表情で見ているが、黒く焦げた少年が伯爵から放たれた魔術をいとも容易くかわしたのだ。


 あんなに黒こげでまともに呼吸すらできない状態の少年がどうやって動いたんだろうか。


 なぜだろうか? オレがそう疑問に思い、まじまじと少年を確認する。すると少年の黒く炭化した体が徐々に人間の本来の色を取り戻していくように見えた。どういうことだろうか。


 オレがしばらく観測をしていると凄まじいまでの速度で肉体が再生しているのだろうか、黒く炭化した体が元の状態に戻ってく光景が見える。


「僕を見くびっていたね」


 先ほどまで炭化していたヴァルデンブルク少年兵団の団長であるクリストファーがそう言うと素早く詠唱を行い、伯爵に向かって魔術を放つ。


「ぬしは誠に本当に人間か!? 」


 クリストファーから放たれた魔術の水柱を避けた伯爵は驚愕で顔を染めながらそう口を動かした。


「僕は腐った貴族どもを根絶やしにするために人間をやめたのだ!!」


 伯爵からの言葉を聞いた少年はそう言って、自らの首元にある魔導具である宝石を見せる。どうやら、オレを襲ってきたこの前の奴と同様に少年兵にも、魔導具が埋め込まれているようだ。


「ブランシュタットの倅は戦争孤児にこんな惨いことを…」


 その発言を聞いた伯爵は気分が悪くなったのだろう。少し伏せた顔がますます悲しげに歪んでいる。


「ジーク様は酷いことなどしていない。あのお方は僕ら戦争孤児達を救済してくれたんだ!! それに見ろよ。僕はあんな大怪我をしたのにすぐに回復しているんだぞ!」


「儂がぬしを見て悲しむ理由は童のそちにもそのうち分かるじゃろう。それにしてもそんな風に恩を着せて、人体実験をしていたとは…」


 伯爵はクリストファー少年の発言を受けても、哀れみの籠った視線を送ることをやめなかった。


「何を言っているんだ!? 僕が孤児になったのは、おまえのような貴族がいるからだ! 貴族がいちいち戦争なんて馬鹿げたものをやるから僕たちがこうなったんだろ!!」


 苛立ち怒鳴り散らすように少年が声を荒げてそう言う。


「なんじゃ!? 今回のような無益ないくさを起こすような奴の部下とは思えない発言じゃな?」


 訝しむように伯爵がそう少年に尋ねると、


「おまえのような奴とジーク様を一緒にするな! 孤児達が平和に暮らせる国をジーク様は作ってくれると約束したんだ!!」


 クリストファーは叫ぶようにそんなことを言ってきた。


「そうやって、利用されているとも知らないで…」


「うるさい。うるさい! うるさい!! 早く爺さんくたばれよ」


 少年は次々と魔術を連続で伯爵へ向かって放つ。


「童に負けるほど儂は耄碌もうろくしておらんよ。どうやら、儂は冷静さを少しだけ欠いていたようじゃな。こんな年端もいかぬモノに熱くなるとは…」


 頬をかきながら、そう独りごちる伯爵。


「ジーク様を侮辱した爺さんを生かしてはおけない。ここで死ね!」


「頭に血が上るというのはいつ見ても酷いものじゃな」


 激高している少年を見て、伯爵はそう言うと、


「なにを講釈たれているんだい? ここでお前は死ぬんだ! 死ね!!」


 と喚くように少年が声を張り上げる。


「講釈か…。さてと、では年寄りからささやかなプレゼントを送ってやろう。経験の差というものをぬしに教えてやる!」


 ハノファード伯爵はそう言うと口元を上げて微笑むのだった。

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