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美少女転生-リリアーヌ・フロイデンベルクの華麗なる復讐劇  作者: 湯原伊織
第1章 転生者と復讐者による狂宴の幕開け
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第10話 戦略兵器と大魔術師の死闘

 フリードリヒ・ハノファード伯爵が居を構えるアルカザル城の庭園は有限とは思えない程に広々としている。今回はその広大さが忌々しい事に彼らを探す上でこの上なく不都合であるわけだが…


 伯爵を追いかけるためにオレは庭園を全力疾走して探しまわっていた。


 苦しい。駆けるオレの息はとうに乱れており、肩を大きく上下させて呼吸をおこなっている。彼らを見つけられないかもしれないそう脳裏に一抹の不安が過っていると東の方から凄まじい怒声と轟音が聞こえてきた。


 オレは怒声が飛び交う現場に向かうと木々を挟んだ向こう側で逃げる使者を追いかける兵士らの姿が見えてきた。おかしい。二人いた使者がなぜか一人しかいない。


「追うのだ。早く捕まえろ」


 伯爵が使者を追いかける命令を部下に出している声が聞こえてきた。そのハノファード伯爵を挑発するように先ほどクリストファーと名乗った少年が走りながら、ニヤニヤと笑っているのが見える。


「早く攻め込まれる前に城の守備に回ったらどうだい? 爺さん」


 その言葉を聞いた伯爵は苦虫を噛み潰したような顔をしながら口を動かす。


「先の戦役で、多大な功績を上げている貴様をここで殺しておかねば後で手痛い仕返しがあることは明白じゃ。悪いがここで死んでもらう」


 そう言うと伯爵は部下らに何事かを伝える。すると部下の兵士らが一斉に詠唱を唱えだした。兵らの重音な低音の詠唱の声が辺りに響き渡る。そして、気が付くと次から次へと炎がジークの部下二人に向かって放たれていく。


 凄まじまでに大量の魔術だ。普通ならば跡形もなく燃え尽きる事になるだろう。オレはそう思い、安堵していた。そして、ジークの部下の死を確認するために改めて視線を彼の方に向ける。おかしいな。見えない。


 なぜか、辺りが急に霧がかり、視界には人の姿が一人も見えなくなてしまった。こんな天気が良い日に霧が発生するのはおかしい。


 オレが訝しみながら、顔を歪めて考えていると突如として兵士らの悲鳴が聞こえてきた。


「…目が、目が!?」


 まったく周りが見えない中で、兵らの悲痛な叫びが辺りにこだましているように響き渡る。いったい、あの霧の中で何が起こっているのだろうか。オレは聞こえてくる悲鳴に戸惑いながらも、耳に意識を集中させる。


「身体が溶けてる。指が!?」


 兵士達から聞き取れた言葉を理解するにつれて霧の中での惨状が凄まじいモノだと思わざるを得なかった。生きたまま身体が溶かされているのか…


 そうか。オレの耳に聞こえてきた悲鳴はその苦痛に耐えきれなくなって、漏れ出た叫び声だったのか。余りにも酷過ぎる。


 しばらくすると霧が晴れて、視界は良好になり、辺りの様子が見えてきた。オレは目を凝らして伯爵の無事を確認する為に辺りを見渡す。するとそこには凄惨たる光景が広がっていた。


 先ほどまで、数えるのが面倒になるくらいに大勢いた伯爵の部下らの大半は骨と成り果て、既に息絶えていた。


 奇跡的に生き残った兵士らも所々皮膚が爛れて目も当てられない状態だ。伯爵は無事なのだろうか。オレは一生懸命に彼の安否を確認する為に視線を動かす。


 前世で義理の父親であった伯爵にはこんな無惨な死に方をして欲しくない。頼むから生き延びていてくれ。オレは彼を探す為に木々を分けながら、その惨劇があった場所まで駆け寄ろうと身体を動かそうとすると、


「よくも儂の可愛い部下をこのような非道な方法で殺してくれたな! この外道が!!」


 怒り狂った伯爵が辺りに向かって怒声を轟かせた。どうやら、伯爵はあの中であってもそれ程に酷い怪我をしていないようだった。


 クリストファーと名乗った少年は伯爵を見た後に一瞬だけ驚いた顔を見せたが、ハノファード伯爵の反応を見たあとにいったい何が可笑しいのだろうか笑いはじめる。


「あなたの性格は聞いていたがここまで愚かだとは…」


「何が言いたいのじゃ!?」


 伯爵はクリストファーの態度に苛立ったのだろう。彼に向かってハノファード伯爵は腹立たしそうにそう言う。


「ここで僕があなたを始末すれば今回の無益な争いは起きないだろうとジーク閣下がおっしゃっていたのさ。あなたが僕を追う事は閣下には最初からわかっていたのだよ」


 奴は伯爵を凄まじく嘲笑しているのだろう。ゆっくりと辺りの惨状を見ながらニヤニヤと笑ってそう言う。


「小童が!? 図に乗るな!! 儂を殺すじゃと? ならば、この魔術を受けてからその無駄におしゃべりをする減らず口を叩くが良い!!」


 そう言う伯爵はオレが聞いた事もないような詠唱を突如として唱え出す。


「ば、馬鹿な!? そんな大規模な魔術をこんな場所で展開するなど。あなたは気が狂っているのか!!」


 どうやら、オレが知らないだけで、ヴァルデンブルク少年兵団の団長であるクリストファーはこの魔術を知っているようだ。奴の顔が驚愕に染まる。


「うるさいわ。小童! 儂を侮辱するのは構わん。だが、儂の部下をこのような無惨な姿に変えたぬしを許してはおけんのじゃ!! ここで消えよ」


 そう言う伯爵から放たれた魔術は自らの居城であるアルカザル城の庭園を容赦なく炎に包み込んでいった。

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