表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美少女転生-リリアーヌ・フロイデンベルクの華麗なる復讐劇  作者: 湯原伊織
第1章 転生者と復讐者による狂宴の幕開け
20/90

第7話 マリーの機転とリリアの逃走

 蝋燭の明かりが廊下を照らし出している。扉を開けるとそこには護衛兵とは名ばかりのオレが部屋から出ないように見張る為の兵士が威圧するように立っていった。


 音がしないように静かに扉を閉めたあと、化粧台の近くにある椅子に座る。オレたちはセリアが来るまでここにいるように言われて、ジークに呼ばれて来るはずのない彼女を待っていた。


 オレが椅子に座るとマリーがオレのもとまで歩み寄ってきた。


「先ほどから、頻りに外を覗いたりして、何かありましたでしょうか?」


 マリーは不安げにオレの様子を訪ねてきた。どうしたものか。先ほど、使者から届いた手紙の内容について彼女にどう説明したものだろうか。


 オレはそんなことで悩んでいたが、子供一人に取れる行動などたかがしれていると思い直して、彼女に話すことにした。なぜならば、彼女の協力なくしてここから脱出できるとは思えないからだ。


「実はマリー、この城にヴァルデンブルク公爵から早馬で使者が来たのです」


「そんなに慌てるような用件で使者がこの城に来たのですか。なにか大きな問題でも発生したのでしょうか?」


 マリーの当然の疑問を受けて、オレは先ほどあったことをありのままに話すことにした。


「その使者が言うには私を誘拐したヴァルデンブルク解放戦線とハノファード伯爵が裏で繋がっていると言うのです。そして、彼らを引き渡さなければこのアルカザル城に攻め込むと言っていたわ!」


「そ、それは大事件です!? 下手をしたらここが戦場になるではありませんか」


 マリーはオレの話を聞いたとたんにパニックになったように慌ただしく周りを見る。その後、彼女は部屋に置いてあった荷物を手にして外にオレを連れて出て行こうと大声でそう言ってきた。


「マリー、落ち着きなさい。ここから単純にこの部屋から出れば屋敷に帰れると思わない方が良いわ」


 オレはマリーを落ち着かせるために極めてゆっくりと言葉を吐き出す。


「なぜですか? リリア様、私たちは今回の件には一切関係がないことです。伯爵も私たちを人質にしもメリットはないはずです。帝国とことを構えることになります!」


「マリー、ハノファード伯爵がヴァルデンブルク公爵に歯向かうということは、帝国に反旗を翻すことと同じなのよ? それにヴァルデンブルク解放戦線と伯爵が手を組んでいるならば、私は都合の良い人質でしかないの」


 急なことで若い彼女には受け入れがたい現実かもしれないが、オレは極めて冷静な態度を装って、マリーに話しかける。


 正直に言ってオレも、今回のような展開は想像していなかった。オレとしては、こんな所で無意味な争いに巻き込まれて、ジークに復讐も出来ずに死にたくない。


「アルカディア帝国でも力があるフロイデンベルク家の者を人質に取っていれば、ヴァルデンブルク公爵はこの城に攻め込むことが難しいわ。ただでさえ、彼は新参者で帝国内に力がないのですから…」


「リリア様、早くここから帰りましょう!」


 マリーはオレの話を聞いていたのだろうか。それともいなかっただろうか。それはオレにはわからなかったがそう言って、オレを連れて部屋から出て行こうとする。


「リリア様、どうなさいましたか?」


 部屋の外で待機していた兵士がこちらに気がついて、駆け寄ってきた。


「こんなに長いこと待たされては溜まったものではありません。帰らせて頂きます」


 マリーは怒ったようにそう言って、私を連れて部屋を出ようと試みるが、


「主より、そのことについては許可を頂いておりません。お戻りください」


 そう言って、兵士がオレたちの通行を妨げてくる。


「あなたの主であるハノファード伯爵よりもリリア様のお父上であるフロイデンベルク公爵の方が位は高いのですよ!? わかっていますか?」


 マリーがイライラとしながら、伯爵と公爵と言う所に力を込めて兵士にそう言うが、彼は聞く耳を持たなかったのかこう言ってきた。


「私は主の命令に従っているに過ぎません。部屋にお戻りください」


 オレたちはそう言う兵士に部屋まで押し戻されてしまった。


「これは、らちがあきませんね」


 オレは先ほどの兵士の行動を見て、そう呟く。


「リリア様、明らかに閉じ込められています! どうしましょう!?」


「落ち着きなさい。マリー、今はここで慌てても仕方がありません。ここから脱出して、屋敷に帰る方法を考えましょう」


 城から逃げるために思考に耽るオレとマリーの間にしばらく沈黙が続く。オレは必死に頭を回すが、力技以外で脱出する方法が思いつかない。魔術で兵士を黙らしてこの部屋から出て行く。もう、この方法以外に全く浮かばない。もう、この方法しかないだろう。オレがそんなことを思っていたら、


「リリア様!! お手洗いにいきましょう!」


 突如として、マリーがトイレに行こうと言い出す。こんな時に便所かよ。そんなに我慢できなかったのだろうか。


「こんなときにですか?」


「先ほど、確認をしたのですが、お手洗いの窓は少々大きめで、リリア様ならば通っていくことができると思います」


 どうやら、トイレの個室にある窓から逃げようと言っているようだ。ここは1階なので、城からの脱出は可能かもしれない。オレは彼女の案に賛同しようと思ったが…


「本当ですかマリー? でも、あなたは!?」


 彼女は、私ならば通ることができるとだけ、言っていた。つまり、このプランには体が小さなオレしか脱出ができない。それはマリーが戦場になるかもしれないここに残ると言うことを示している。


「私はリリア様にお仕えする一人の使用人に過ぎません。リリア様、どうかこの城から脱出をしてください」


 そう言うマリーの目には少しだけ涙が見える。体も震えているようだ。こんなに怯えているのにどうやら、彼女は最初から自分は脱出するつもりがないようだ。はじめから、オレを逃がすために残るつもりだったのだろう。


「マリー」


 オレが彼女の名前を呼ぶと、マリーは最後まで守れない私をお許しくださいと言って顔を俯かせる。


 しばらくの沈黙の後にオレたちは頷き合って、先ほどのプランを実行することにした。


「すみません。兵士さん。すこし、お化粧直しに行かせて頂けないでしょうか?」


 マリーが扉を開けて外に待機している兵士にそう言う。


「化粧ならば、この部屋でも直すことができるのではありませんか?」


 部屋にある化粧台を見て兵士が首をかしげている。


「無粋な方ですね。察してください。リリア様が行きたい場所がわからないのですか?」


 マリーが兵士の反応に呆れ返るようにため息をついてさらに言葉を続ける。


「女性にそのようなことを聞かないで察して頂きたいものです」


「……手洗いに行きたいのですね。わかりました」


 そう怒鳴られた兵士はようやく合点が言ったのか、オレとマリーを手洗いまで案内するという名目の下に勝手についてきた。兵士が手洗いの中までついてこようとすると、


「あなたは女性のこのような場所まで入ってくるのですか? 最低ですね」


 そう言うマリーを兵士が一瞬だけ睨んだ後にあきらめをはらんだような声でこう言ってきた。


「我々もそんな無粋ではありません」 


 マリーがその兵士の言葉を聞いた瞬間にオレの方を振り向いて早く言ってくださいとばかりに手を振ってきた。オレは彼女の好意を無駄にしないようにトイレに急ぐ。


 オレは伯爵の部下らが怪しむ前にマリーの稼いだこの時間にを有効に活用して窓から脱出をしないといけない。


 トイレの扉を開けて、個室に入るとそこにはオレがちょうど通れるくらいの窓が設置してあった。オレは窓から外の様子を見る。そこは花々で彩られた庭園が続いて光景があった。


 よし、どうやら、誰もいないようだ。オレは窓から出て、大地を踏みしめる。マリーのためにもここから脱出をして、逃げなければならない。オレはそう思って走る。


 ガキの頃から何度も来たことがあるとはいえ、さすがのオレも兵士に見つからずに脱出ができる道など知る訳もない。そうなると魔術による強行突破でこの城の敷地から脱出する以外の方法が思い浮かばないな。


 オレがそう思って正門の方に走っていくと城の方から怒声が響き渡ってきた。オレはその声が気になり、窓の外からカーテンの隙間越しに部屋の中を見る。


 覗き込むとそこには伯爵と公爵の使者が向かい合ってなにやら会話をしているようだ。オレは彼らの話に聞き耳を立てる。目を凝らして彼らを見る。すると、そこには意外な人物がいたのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ