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第13話 〜エピローグ〜 愛娘

 馬車は馬蹄を響かせて、凄まじい速度で駆けていく。揺れる馬車の中は簡素で、軍で使われているためだろうか華美装飾が一切ない。そこには、座席と荷物を置く場所が確保されているのみであった。


 馬車の中にはオレとセリア、そして、ゲオルグと御者らしき人が数人いた。


 セリアは見た事もない大人達を前にオレが動揺すると考えたのか子供を落ち着かせるように優しく抱きしめてきた。


 馬車が走っているとオレの住む屋敷が見えてきた。オレはセリアに抱きしめられながら、彼女に果敢に会話を試みたが、取り留めのない会話しかできなかった。


 本当は彼女の現状をもっと詳しく聞きたかったが、なぜだろうか聞こうと思う度になぜか不安になり、口からその問いがでなかった。


「着きましたよ。リリアーヌ様」


 オレがぐずぐずとしていため、彼女とまともな会話ができないでいるうちに気がつくと屋敷の門の前に着いたようだ。ゲオルグがオレの屋敷に到着したことを告げてきた。


「どうやら、お別れのようね。またね」


「セリアお姉ちゃん、またね」


 オレを抱きしめていたセリアがそう言って、微笑んだあと頬にほおずりしてオレから離れていった。オレも彼女に微笑みを返し、別れの言葉を述べる。オレ達が一通りに別れを済ませたことを確認したゲオルグがオレを馬車から降ろす。


 屋敷の門の前で降ろされたオレは馬車の中にいるセリアに目がどうしてもいってしまう。

 

 そして、考えてしまう。ここで彼女と本当に別れてしまっても良いのだろうか。また、前世の時のように急な別れがあるかもしれない。やっと、娘と会えたのに。


 オレがセリアとの別れを名残惜しく思っていると馬車を発車させようとゲオルグが御者に声をかける姿が視界に入ってきた。


 セリアが連れて行かれる。イヤだ。待ってくれ。オレはもっと娘と話がしたいんだ。オレは馬車に乗る彼女のもとに気がついたら、走り寄っていた。


「セリア!!」


 オレは何故か娘の名前を叫んでいた。多分、別れたくないという気持ちが無意識に彼女の名前を呼ばせたのだろう。


「ゲオルグ、待ってください。リリアが何事か言って追いかけて来ています」


 オレが馬車の下まで走り寄って行くと彼女はオレに気が付き馬車から降りてきた。


 何故か頬につたう雫が溢れ出して止まらない。そんなオレをセリアは力強く両腕で抱きしめてきた。オレも彼女を抱きしめ返す。


 ああ、娘の方が大きくなってしまったが、彼女の腕に抱かれてセリアの生を実感できる。生きていてくれてありがとう。


 彼女はオレが泣き止むのを抱きしめながらゆっくりと待ち、オレと再び会う約束を交わしてくれた。そして別れを告げる。


「また、会いましょうね。リリア」


「はい、お姉ちゃん、必ず会いましょう」


 そう互いに言い合うと、どちらからともなく、抱きしめていた腕を離したあとに顔を見合わせて微笑む。


 オレは彼女の優しい笑顔と抱きしめたこの温もりを生涯忘れないだろう。彼女は妻イレーヌとオレが、かつて生きた証であり、誇りなのだから…


 セリアを乗せた馬車はオレから徐々に離れていく。オレは、どんどんと距離が開いていく馬車を見送ったあと、愛娘と抱きしめ合えたことの喜びを噛み締めながら屋敷の門をくぐった。


「リリアーヌ!」


「リリア様」


 門をくぐると母やメイドなどの使用人が大勢駆け寄ってきた。警備兵、庭師、料理長といったいどれだけの人がここにいるのだろう。


 オレはどうやら愛されているようだ。心配をかけてすまなかったね。みんな。ただいま。オレはそう言って、家族に抱擁するのだった。

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