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第1話 帝王の最後

 オレは自らの玉座を中心に部下であったジーク・ブランシュタットの兵士どもによって包囲されていた。


「王よ! あなたの命運もここまでだ!」


 薄茶色の髪を揺らしながら、兵士たちを従わせてた巨漢の男が進み出る。この革命の首謀者であるジーク・ブランシュタットだ。


「この恩知らずが! 貴様を取り立てやった恩を忘れたのか!? この売国奴が!!」

「もう、この国も終わりだ。だから、これが我ら民に取っての最善の策なのだ。あなたにはわからないかもしれないがな!」


 なにが民に取っての最善策だ。敵国に用意された爵位に目がくらんだ成り上がりものめ。オレは込み上げる怒りで歪みそうになる顔を叩いて無理矢理に不適な笑顔を作る。


「はっ、なにが民の為だ! お前の私欲を満たす為だろ?」

「民は私を選んだ。あなたではなく私を! アルカディア帝国に勝てるわけがない。それをあなたは…」


「ジークよ。どれだけ、お前が御託を並べた所でお前は民の名を借りたタダの薄汚い盗人だ!」


 俺は国賊であるジークに向かってそう言ってやった。ジークは顔をイヤらしい笑みで愉快そうにしてやがる。


「最後までわかり合えなかったか」

「お前のような外道とわかり合うことなどないわ」


 本当に上面だけは良い奴だな。顔をふせて、玉座の間の下に控えている部下どもにはこの俺を最後まで説得している心優しい大将を演じているのだろう。本当に腐ってやがる。


「外道? 心外だ。ああ、そう言えば、あなたの妻のイレーヌ妃と娘のセリア姫は裁判によって死刑になったぞ。民達が民主的に選んだんだ。しかし、本当に酷かったな。目玉をくり抜いた後に皮を剥いで豚の餌にするというとんでもない処刑法だったよ。本当に民は惨いことをする」


 俺だけに聞こえるように小声でとんでもないことを言ってきやがった。このゲスが! お前は生きている価値もない。俺は憤怒のあまりに気が狂いそうだった。だが、唇を自ら噛むことで得た痛みによってそれを押さえ込む。この野郎だけは絶対に許さん。


「き、貴様! 妻と娘を…。許さん、絶対におまえだけは許さん。いずれ、貴様らに災いをもたらす。呪ってやる!」


「死に行く人になんと言われても気にしない。この暴君を取り押さえろ」

ジークの命令で俺を次から次へと兵士どもが囲んで取り押さえようとしてくる。


 捕まってたまるか。できるだけ、多くの奴らを道連れにしてやる。オレはそう思って腰にあった剣を抜き取り、兵士どもに斬りつける。オレは暴れるだけ暴れたが、多勢に無勢で取り押さえられてしまう。


「この裏切り者どもめ! 死ね!死に絶えてしまえ!!」

「殺せ!」

 ジークは、取り押さえられてもなおも暴れ回るオレを見て、拘束して連れて行くのは無理だと判断したのだろう。


 オレの殺害命令を出してきた。ジークの命令でオレに向けて一般兵士の剣が降りおろされる。オレは首のない自らの胴体を見て笑った。


 喉がない為だろうか声がでないが目だけはジークを見て笑ってやった。呪ってやる。オレから妻と娘を奪い、そして国を掠め取ったこの男を! オレの意識はここで消失した。


そして…


          ・

          ・

          ・


…ここはどこだろうか。オレがそう思って周りを見るとどこも白い天幕で遮られて、白を基調とした天井と天幕が目に写った。


 そして、オレを囲むように見知らぬ3人がいた。いったいここはどこなんだ。これが噂に聞いた天国なのだろうか? そんなことをオレが考えていると急に声が聞こえてきた。


「可愛らしい。女の子でございます」

「おお、なんと可愛らしいことよ。よくやった!」


 何だ!? この豚のような男は。オレを豚が上から覗き込んで微笑んでいるぞ。や、やめてくれ。オレを愛おしそうな目で見るな。


「あなたに似て凛々しいわ!」

クリーム色の髪を持つ可愛らしい女が俺を見て笑っている。


 豚と可愛らしい少女という組み合わせか。いったいこいつらは誰だろう。それに何だこの小さい手は。オレの目には小さな手が見えた。まるで赤ん坊のようなその小さな手はすごく可愛らしい。


 オレは自らの手を軽く握りしめる動作をした。すると小さな手がオレの意思通りに動くではないか。まさか…………


 この小さい手はオレの手だとでもいうのか!? どういうことだ。オレは巨漢でマッスルな帝王ヴァハドゥール・ド・ヴァルデンブルク様だぞ。どういうことなんだ。


 どう考えてもオレが赤子であることには変わりはなく。1つの結論にたどりついた。そう、転生だ。これが噂に聞いた転生なのだろう。


「リリアーヌちゃん。かわいいよ。手をグー・パーさせて」

「あなたったら、貴族の威厳がありませんよ?困った人ですね」


 オレの名前はリリアーヌか。リリアーヌだと? その名前は女だろ。まさか、オレは女に生まれ変わったのか!? この帝王であるオレが女だと…


 なぜかはわからないが性別が変わってしまったことを受け入れ難いオレがいた。そんなことで少なからずショックを受けていたら。


「リリアーヌちゃん。パパでちゅよ」


 やめろ。顔を近づけるな。オレをつかんで頰摺ほおずりしないでくれ。オレは豚のようなおっさん(オレの父親であろう貴族)に頰摺りされ、テンションが下がりながらも現状把握に努めた。


 きっと、復讐の女神がオレにもう一度チャンスをくれてのだ。そうとわかったら…

「うー、うーうううう〜〜〜!! (待っていろよ。ジークよ。必ず、貴様の息の根を止めてくれるわ)」

「あら?この子が可愛い声で私たちに反応しているわ」


…声が出ないの忘れてた。

こうして元帝王のオレが第二の人生を歩みはじめた。しかし、性別が女になるとは…


 まぁ、チャンスがあるだけラッキーと思って、細かいことは復讐を完了させてから考えることにしよう。


 ひとまず、豚のような親父に頰摺ほおずりされている現実からどうにかして逃避したい。本当にもうイヤだ。なんなんだこの状況。


 そんなことを考えていたら、俺のまぶたが徐々に閉じてくる。そして、俺の意識が徐々に霧散して保てなくなってきた。どうやら、子供らしく眠くなったようだ。起きたらまた考えよう。


 ひとまず、今はこのまどろみの中に落ちるとしようか…

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