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Track.55 リハビリハイスクール

 カナリア二度目のライブは、初めての試みがあったものの無事成功の内に幕を閉じた。ステージを降りて、緊張の糸が解けたからか、僕の目からは何故か涙が溢れ出していた。


「ちょっ、何泣いてるんやカオル」


「カオル君?! 何か嫌なことでも」


「違う、そういうわけじゃないんだよ。緊張が解けて……」


「カオルさん、えらく緊張していましたからね」


「観客があんなに近く感じたのは初めてだったからさ」


 未だに少し前まで自分があの場所で歌っていた実感が湧かない。それだけあの数分間は僕にとっては非現実的で奇跡みたいなものだった。


(この勇気を外へ出る勇気に変えれば……)


 僕は引きこもりから脱却できるかもしれない。現実には奇跡なんてものもないし、ゲームみたいに歌で人を元気にする力もない。


 そんな僕がまたあの場所に戻ったら……。


「まあとにかく今日は本当にお疲れ様ってことやな。これから打ち上げといきたいところやけど、ウチ今日これから用事があるからログアウトしないといけないねん」


「あ、俺もなんです」


「じゃあ打ち上げは明日にしましょうか」


「そうだね。それぞれ休みたいだろうし、今日はこのまま解散しようか」


 一通り片付けも終わり落ち着いたところで、僕とリアラさん以外の二人がそれぞれログアウトする。残された僕達は、一度家へと戻り改めて今日の反省を二人だけで行った。


「リアラさんってすごいですよね。あの場所で堂々と歌えるなんて」


「そんな凄いことなんて何もないですよ。カオル君こそよく頑張りましたよ」


「いやいや」


 反省会と言っても、何故かお互いに健闘を讃え合う事しかしないので、全く意味はなさないんだけど。


「約二ヶ月、外はもう梅雨の時期ですか。早いですね時間が経つのは」


「もうそのくらいになりますね。僕達がバンドを組んで」


「凄いあっという間な時間でしたけど、これからカオル君はどうするんですか?」


「どうするとは?」


「私はともかくとしてカオル君は私のようにこの時間を過ごすわけにはいかないんですよ」


「……それは、僕も分かっていますよ。でも僕は好きな人と一緒にいる時間の方を大切にしたいんです」


「は、恥ずかしい事言いますね。でも私はあえて聞きますよ、カオル君は本当にそのままでいいんでふか?」


「いいとは……思っていませんよ」


 もう何度も聞いた言葉に、何度も同じ答えをする僕。結局同じことを繰り返してばかりで、何も成長してない。今回のライブで気持ちが少しは変わると思っていたけど、やはり込み上げてくるのは、恐怖の二文字。


「仮に僕が……今の生活をやめて普通の生活に戻った時、自分が今の自分でいられるか分からなくて怖いんです。また逃げ出してしまうんじゃないかって考えると尚更」


「お友達がいるじゃないですか」


「いますよ。でも僕がこうなってしまった原因に彼らも含まれているんですよ」


「信じられないんですか? 私達を信じてくれているように」


「信じていない訳じゃないんです。でもその場所に安心して居ることはできません」


 僕が今求めているのは誰も傷つくことのない場所。けどそんな場所が存在しない事は分かっている。だから思うんだ、僕にはここ以外の居場所がないんだって。


「なら.......少しリハビリをしませんか?」


「リハビリ?」


「元の生活を送れるためのリハビリです」


 ■□■□■□■□

 二日後

 ライブが終了したので、一週間練習休みと言うことになり、僕達はそれぞれの時間を過ごすことになった。そしてその一週間を利用して、僕がリアラさんに連れられてやって来たのは、マセレナードオンライン内にある、所謂初心者学校みたいな場所だった。


「実際の学校生活とはかけ離れていると思いますが、私も入学届けを出しましたので、ここでリハビリをしましょう」


「入学届けって、別にここそういうのは必要なかったですよね」


「雰囲気で言ってみただけですよ、雰囲気だけで」


 マセレナードオンラインはその特殊なジャンル性から、初心者向けにこういった学校が用意されている。僕自身が初心者なので、まずはここに通うべきだったのかもしれないけど、それどころではなかったのでこれはある意味いい機会かもしれない。

 ちなみに好きな時に好きなだけ学べるので、実際の学校とはかなりかけ離れているが、サービスが始まって間もない事もあって、この学校には多くの生徒がいた。


「カリキュラムなどは予め私が選んでおきましたから、学びながら多くの人とコミュニケーションを取ることから始めましょう」


「コミュニケーションって、何を話せば」


「まずは三階の教室に向かいますよ、カオル君」


「ちょっと引っ張らないでくださいよ、リアラさん」


 腕を捕まれ戸惑う僕。忘れちゃいけないが、僕はともかくとしてリアラさんは有名人なので、先程から僕達はものすごく目立っていた。


「り、リアラさん落ち着いてください。すごく目立っていますから」


「いいんですよ、学校では目立ってこそですから」


「何か趣旨変わっていませんか?!」


 あとリアラさんの性格も。

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