Bonus Track.2 本番前日の出来事
話は少し戻って、初ライブの前日。
いよいよ本番が明日に迫っているという事で、全員リアラさんの家に泊まる事になった。勿論目的は本番前の最後の練習のため。合宿みたいな形で朝から練習に励んでいた。
「なかなか様になってきとるなぁカオルも」
「そ、そんな事はないよ」
「ここまで練習してきた甲斐がありますね」
「り、リアラさんまで」
練習の最中、二人に褒められる僕。褒められることに慣れていない僕は、少し照れはしたもののまだまだだと思っている。他の三人が上手い分僕の腕前は、到底及ばない。
「それにしても暑いですね。いつの間に季節が夏になったのでしょうか」
「いや、リアラさん。多分それは何度も練習しているから、自然的に部屋の温度が上がっているかと思うんですけど」
「確かに暑いなぁ。というより、少々暑すぎへんか」
「俺ちょっと外で涼んできます」
アタル君が暑さに耐えられず外へ出て行く。確かに言われてみれば、熱中していたからという説明では足りないくらい部屋は暑い。クーラーとかそういう機器はないので、外に迷惑かからない程度に窓は開けている。もしかして原因は外にあるのだろうか。
「この暑さだと練習に集中できませんし、少々水浴びに行きますか」
「水浴び?」
「この家の近くに川が流れている場所があるんです。そこへ行ってみましょう」
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どうやらこの暑さの原因は外にあったらしく、外はゲームの世界とは思えないくらいの暑さだった。僕達はその暑さに耐えながら、リアラさんの言う川がある場所へ。
「へえ、こんな近くに川があったんですね」
「ここは私のお気に入りの場所でもあるんですよ。暑い時はここに来るのもいいかもしれません」
「おっしゃ、泳ぐで」
「この深さだと泳ぐのはよした方いいかと思いますけど、俺」
川に涼みに来ただけなのに、何故か泳ぐ気満々のナナミ。男の僕やアタルにとっては、ラッキーイベントではあるかもしれないけど、泳げる深さではないのは確かだ。
「それでもうちは泳ぐで」
「でも水着とか持ってないんじゃ」
「そんなの関係なしや」
まるで野生化のごとく川へ飛び込むナナミ。顔面を打ったりしてなきゃいいけどと心配しながら、僕は一人でに涼んでいるリアラさんの元へ。
「リアラさんのお気に入りでしたっけ、この場所」
「はい。こういう静かな場所でゆっくり時間を過ごすのが好きなんです。まあ、今は静かではないですけど」
少々苦笑いをするリアラさん。その視線の先では、アタルも巻き込んで水遊びをするナナミの姿。どうやら泳ぐ事は諦めたらしい。
「でもこういう時間もいいと思いますよ、僕」
「私も嫌いではないですよ。見てて楽しいですし」
「リアラさんは行かないんですか?」
「私はここで見ているだけでいいんです。涼しんでいるだけでも充分楽しいですから」
「そうですか」
折角なので二人に混ざって僕達も水遊びをしようと思っていたのだけど、どうやらリアラさんはそういうのは苦手らしい。ゲームの世界とはいえど、こういうイベントは大事にしたかったんだけどなぁ。
「カオル君? どうかされましたか」
「あ、いえ。折角だからその、リアラさんも一緒の方がいいかなって思いまして」
「え?」
自分で何を言っているか分からなくなる。たかだか川遊びで、何を言っているんだ僕は。
「あ、えっと今のはその」
バシャァ
弁明をしようとしたところで、突然僕の顔面に水がかけられる。
「うちらを差し置いてイチャイチャしとるやつには、お仕置きや」
水をかけてきたのはナナミだった。
「イチャイチャだなんて、僕はしてないぞ!」
僕は仕返しと言わんばかりに、川へと向かいナナミぬ水をかける。
「きゃ、何をするんや。うちを怒らせたら止められへんで」
「何をー!」
結局この後僕達は本番前日である事を忘れて、夕方近くまで水遊びをするのであった。
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家に戻った後は全員が納得できる形になるまで練習を重ね、日付を変わる前には無事完成。明日に備えて僕達は早めに寝る事に。
だけどなかなか寝付けなかった僕は、リアラさんが部屋にいない事に気がつき、彼女を探しに。
「あ、リアラさん、明日早いのにこんな所で何をしているんですか?」
しばらくして彼女を見つけ、声をかけたが返事もなく、仕方がないので手を置いた時に僕の中に何かが流れ出した。
(今のは……何?)
バラバラな情報だけが流れてきたので、それが一体何なのかは分からなかった。その後リアラさんは何事もなかったように僕に話しかけてきたので、今起きた事は無視する事にした。
「普段はあまりここには来ないのですが、明日が本番なので少しばかり精神の集中をさせていたんですよ」
「それにしては随分遠くに来ているんですね」
「ここが一番なので。カオル君は?」
「僕は単に眠れないだけで。リアラさんがいない事に気がついて探しに来たんです」
「心配おかけしましたか? すいません」
「いえいえ」
ちなみにリアラさんがいたのは、彼女の家からそこそこ離れた丘の上。ここを登るのも大変だけど、ここなら確かに人目も気にせず精神集中させるのにはうってつけの場かもしれない。
「昼間とは比べものならないくらい涼しいですね。ここ」
「だから私のお気に入りでもあるんですよ」
「もしかして涼しん場所が大好きなんですか?」
「意識した事はないんですけど、もしかしたらそうかもしれませんね。心が落ち着くんですよ」
「なるほど」
それは少し分かるかもしれない。今ここにいる僕も、少し気持ちが落ち着く。明日本番という事で緊張していたのだけれど、その気持ちも少しだけ和らいだ気がした。
「カオル君、明日は緊張すると思いますが、頑張りましょうね」
「はい。リアラさん達の足を引っ張らないように、そして千由里達に理解してもらえるように頑張りたいです」
「上手くいきますよ、きっと」
「僕も信じています」
色々気になる事が残ったけど、僕はリアラさんと静かな夜のひと時を過ごした。




