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Track.02 偶然と偶然が重なって

「僕とバンドを組んでくれませんか?」


「私と……ですか?」


(って、僕はいきなり何を言い出してんだ?!)


 いくら心が揺さぶられたからって、いきなりバンドを組んでくれなんて、あまりにも失礼すぎる。本来なら最低限のコミュニケーションを取ったあとに言うべきなのに、何にも知らないのにこんな事を言ったら引かれてしまうに決まっている。


(彼女少し引いちゃってるし、完全に失敗しちゃったな……)


 折角始めたばかりのオンラインゲームを早速手放すことになるかもしれない。


「あ、え、えっと、す、すいません。いきなりこんな事を言ったら失礼ですよね? ごめんなさい、失礼します」


 恥ずかしい思いをする前に、さっさと退散するのが得策だ。これで僕は悪い意味で有名人になってしまったに違いないだろう。こんなにも沢山の人がいるなかで、こんなやり取りを見られたら、もうこの世界に僕の居場所はない。だから早速ログアウトして……。


「あの、待ってください」


 そそくさとログアウトしようとしたところで、先程の彼女に呼び止められた。ああ、これは絶対に怒られる上に、もっと恥ずかしい思いをする。そうに違いない、絶対に。


「あの、今の話なんですけど……」


「あ、えっと、ですから、つい出来心でやっただけなんで、忘れてください。何でもしますから」


 もう全てがパニックになっているので、とにかく今浮かんできた言葉を全て並べる。恥を掻く前に、早くこの場をしのがなければ。


「私でよろしかったらですけど、組んでも……いいですよ?」


「え?」


■□■□■□

 まさかのOKに僕は若干戸惑いながらも、彼女の案内で近くの休憩場みたいなところに座って詳しく話をすることにした。


「カオル君は今日始めたんですね」


「はい。ほんの十分前くらいに」


 丸い机と二つの椅子に、向かい合って座る僕と彼女。ここに座る前に軽く自己紹介を済ませ、彼女の名前がリアラだという事が分かった。どうやら彼女はこのゲームを初めてまだ一ヶ月くらいしか経っていないらしい。だというのにあそこまで綺麗な言葉を出せるとは驚きだ。でももう一ついい点が、声だけでなく彼女自身の容姿もすごくいい。アバターとは言えこのエメラルドの髪型が、すごく似合っていて、こんな子が現実世界にいたら十人中全員が可愛いと言うに違いない。


「楽器は何を選んだんですか?」


「一応ドラムです。ただ、軽音楽系の知識が全くと言っていい程ないので、確実に足を引っ張ることになると思うんですけど、それでも組んでくれるんですか?」


 先程彼女が了承したことが本当なのか再確認するため、あえて自分の悪い点を言って(全部において悪い気がするけど)もう一度聞く。これで断られても仕方ないと思うけど、彼女は違った。


「私だってまだまだ初心者ですよ。ですからお互い勉強しながら頑張りましょうカオル君」


「は、はい」


 思わず返事をしてしまったが、果たしてそれで本当にいいのだろうか? あの歌声がだせる彼女が初心者とは思えないし、僕も不器用だから成長できるか分からない。それで本当にこの先、彼女とバンドをやっていけるのだろうか? 少し不安になってくる。


「とりあえず優先してやるべき事は、仲間集めですかね」


「まずは仲間か……。そう簡単に見つけられますか?」


「簡単には見つからないと思いますけど、日付を重ねていけば動きにも慣れてきますから、もっとコミュニケーションを取れると思いますよ。そうすれば思わぬ出会いがあったりしますから」


「思わぬ出会いなんかあるのかな。人が多いゲームだからそんなのないような気がするけど」


 先ほどリアラさんに尋ねてみたところ、どうやらこのゲームの登録者数は既に二万を超えているらしい。その中で思わぬ出会いをするなんて確実にないと思うんだけどな……。


「人数が多いほど、そういった出会いがあるかもしれないじゃないですか。今日みたいな出会いみたいに」


「あ、あれは、本当に偶然ですからね? 本当に」


「分かっていますよ。私だってしょっちゅうあんな所で歌っていませんから。だから偶然同士が重なって、今回の出会いが生まれたんですよ」


「そ、そうなのかな」


 確かに僕がこのゲームを始めたのも偶然だし、彼女の歌を聴いたのも偶然だ。何もかもが偶然で繋がっているのだとしたら、この先もその偶然が続いていくのだろうか?


「まあ、とにかく、この先なにが起きるかわかりませんけど、末永くよろしくお願いしますね」


「え、あ、はい」


 彼女のしっかりとした言葉に、だらしない返事をしてしまう僕。果たしてこの先、本当に大丈夫なのだろうか? 彼女を天才と例えるなら、僕はまぎれもないど素人。この先仲間が増えるとは言え、始まりから雲行きが怪しくなってきている。


(早いうちにやめておいた方がいいかな……)


「カオル君」


「な、なに?」


「今から私と来て欲しいところがあるんですけど、よかったら来てくれませんか?」


「来てほしいところ? どこですか?」


「それは着いてからのお楽しみです」


「あ、ちょ、ちょっと」


 僕は彼女に強引に連れられ、ある場所へと向かった。



■□■□■□

「うわぁ。す、すごい」


「いかがですか? このゲームの絶景ポイントの一つなんですよ」


 僕が連れて来られたのは現実世界を思わせるような、夕日を眺めることができるちょっとした高台だった。


「ここ、いつも練習場として使わさせてもらっているんです」


「ここで歌の練習を? 恥ずかしくないの?」


「人があまりいない時にこっそり練習しているから、その点は問題ないです。よろしければ一曲聞いていきます?」


「え? ほ、本当?」


 またあの歌声が聴けるとは、何て幸運なんだ僕は。


「はい! バンド結成のお祝いとして、私から一曲、聞いてくださると嬉しいです。『始まりの唄』」


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