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Track.13 嘘と解決策

 翌日、僕はゲームにログインはしたものの練習には参加せずに、部屋にこもっていた。何度かアタルやリアラさんが呼びかけに来てくれていたが、それにすら答えなかった。


(僕は何をしているんだ……)


 これじゃあ、現実の自分と全く変わらない。どうすればいいか分からず、一人で部屋にこもる。誰とも接触しなければ、楽だからとこうして引きこもる。その生活を僕はずっと続けていた。それは今だってそうで……。


「カオルさん、どうかされたんですか? 皆さん心配していますよ?」


 またしばらく時間が経った後、リアラが部屋の外から声をかけてきてくれた。それに対して僕は……。


「ごめんリアラさん、今日少し調子が悪いので寝かせて」


 嘘をついてしまった。つく必要なんてないはずの嘘を。


「それならそうと言ってくださいよ。どうして早く言わないんですか?」


「かなり寝ていたから、反応できなかったんだよ。ごめん」


 これも嘘。ずっと起きていたくせに。


「皆さんにはちゃんと伝えておきますから、しっかり休んでください。あまり無理されると本番出れなくなりますから」


「うん」


 そう言い残すと、リアラさんは練習に戻ったのか、再び静かになる。


「はぁ……」


 こんな嘘をついたところで、何にも変わらないというのに、本当に自分は何をしているのだろうか。どうせなら誰かに相談した方が気が楽になれるのに、それを自ら拒んでしまっていては、何の解決にもならない。


(とりあえず今日は、作詞だけでもしておこう)


 結局僕はこの日、一度も練習に顔を出さなかった。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 翌朝、リアラさんが練習前に話がしたいと僕の部屋を訪ねてきた。


「カオル君、体調の方はいかがですか?」


「昨日よりは大分良くなったよ」


「そうですか。それならちゃんと話せますね」


「話すって何を?」


「昨日どうして嘘をついたのかを」


「え?」


 突然そんなことを言われた僕は、思わず動揺してしまう。


(もしかして嘘だって分かってて)


「その顔だと、やっぱり私の思った通りなんですね」


「えっと、いや、その。僕はそういう訳じゃ」


「カオル君、隠し事は良くありませんよ。一人で抱えるより誰かに話した方が、気が楽になりますよ?」


「そんなのは分かっているよ。けれど、これは僕自身が何とかしなければならないから」


「せめて話しだけでも聞かせてくださいよ。皆さん本当に心配しているのですから」


「じゃあ話だけなら……」


 僕は少し悩んだが、結局話すことになった。このままだと絶対にリアラさんは引いてくれなさそうだし、何となく彼女なら話してもいい気がした。


 だから僕は、ここまでの経緯を全て話した。


「それじゃあつまり、カオル君は……」


「うん。出れなくなるかもしれない。初めてのライブ。というか、もしかしたらこのゲームにすら戻って来れないかも」


「どうしてそんな大事な事を黙っていたんですか!」


 話し終えると、リアラさんはすぐに怒りをあらわにした。


「さっきも言ったけど、これは僕自身が解決しない話だったから、誰にも話せなかったんだよ。それに、折角作ったバンドを抜けるかもしれないだなんて言えなかった」


「だからといって、黙っていようだなんてずるいですよ」


「それは分かっていたけど……」


「ともかく、これはカオル君だけの問題ではありません。私達の、カナリアの問題です。ですから、皆で話し合って解決策を見つけましょう」


「解決策って言われても……」


 あるのだろうか? そんなの。


 ◼︎◻︎◼︎◻︎◼︎◻︎

 昼頃になって全員が集まり、リアラさんが二人にさっきの事を話した。その間僕は黙っていたけど、話が終わったところで口を開いた。


「ごめん二人とも。自分からバンドを組んでくれって頼んだくせに、こんな事になって」


 二人に向かって頭を下げる。正直情けないと思ってしまった。言い出しっぺの自分が、こんな不甲斐ないことをしている事を。そんな僕に対して二人は、


「それであんたはどうしたいんや?」


「どうしたいって?」


「バンドを諦めるんか? こんな中途半端のままで」


「僕にとってはどっちも大切だと思うから、どうしたいって言われても決められないよ」


「どっちも大切だって思っているなら、答えなんて決まっているだろ」


「決まっているって何が?」


「どっちも成功させる。それ以外ないだろ?」


 リアラさんと同じ答えを出してきた。間違っていない結論ではあるけど、僕にはそれが同時にできるかなんて考えられなかった。


「いくらなんでもそれは難しいよ。同日に別々のことを成功させるなんて」


「どうしてそんなに弱気なんですか? どちらかを選べないなら、両方すればいいじゃないですか。例えばその二人をこのゲームに呼ぶとか」


「二人をゲームに?」


「そうやな。それが得策やと思うで」


「でもそんな事可能なのかな」


「可能だよ。別に一人用の機器を使っているわけでもないんだからさ」


「そっか。確かにそれなら……」


 けどそれで二人は来てくれるかな。こんな逃げてばかりの僕の為に。


「そこはカオル君が信じる以外ないですよ。信じてみてはいかがですか?」


「二人を信じる……」


 つまり僕次第って事か。



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