ひと夏の冒険
家の茶色のソファにくつろいでいたジタン。今日は日曜日。
「ああ、暇だな」
ジタンは呟くとガラステーブルの上の缶ジュースを乱暴に取った。
「どうしてイライラしているんだ」
缶ジュースのプルタブを人差し指で開けるとプシュという音とともにオレンジジュースの香りが鼻を刺激した。
すくっと立ち上がったジタンは筋トレを開始する。
若干10歳のジタンの肉体はまるで黒曜石のように、神秘的な洗練された美しさだった。
その時、2階から物音が聞こえた。ジタンの両親が起きたのだ。
ドスドスという音と共に両親は階段を降りてきた。
ドアが開かれる。
「あれ、ジタンちゃん。早いのね」
ジタンの母親が微笑みながら言った。
「うん。休みの日は早く起きちゃうんだ」
ジタンが言っていると、父親もドアから入って来た。
「健康的で良いな。うん。パパ、ハッピーだぞ」
父親は親指を立て片頬を吊り上げた。
「所で相談があるんだけど」
ジタンは眉を寄せる。
「なんだい? ジタン」
母親はジタンの悩ましげな表情に心配そうに答える。
「もうすぐ、夏休みだろ?」
「うん」
「俺、俺。もう十歳だし、このままじゃいけないと思うんだ」
「ほほう」と父親。
「だから……だから……世の中を知るべく旅に出たいんだ」
「なん……だと?」
父親の表情がみるみる変貌する。
「おお、我が息子よ。何て、何て強い子なんだ。だが、お前を旅に出すことは出来ん。だって未成年だからな」
するとジタンは反撃する。
「魔法を使えばいいじゃないか。だったら俺が10歳だってばれないよ」
「はっ!」
嘲笑する父親。
「お前が魔法を使えるとでも? 魔法が使えるのはまだまだ数年は無理だな」
「確かにまだ僕は魔法が使えない。でも、夏休みまでには変身の魔法を使えるようになるから」
ジタンは眼に涙を溜め言った。
「夏休みまでは、後一ヶ月。学校もあるし、不可能だ」
「じゃあ、学校が終わったら学校の裏山に住む魔女のお婆ちゃんに魔法を教わりに行く!」
「あの、地獄魔女に?」
父親は声を出して笑った。
「あんな、恐ろしい魔女、お前は会っただけでおしっこを漏らすぞ。パパだって怖くて漏らすかもしれん」
「俺、やる。魔法を覚えて夏休みの間世界を旅するんだ」
「じゃあ、好きにやってみろ! どうなっても知らんぞ!」
父親は吐き捨てるように怒鳴った。
次の日の月曜日、学校の授業が終わるとジタンは裏山にある地獄魔女に会いに行った。
地獄魔女の住処は洞窟で、ほの暗く何か墓場のような香りがした。
ジタンは持参した懐中電灯の灯りを頼りに洞窟を進んで行く。洞窟の天井からは山から染み出してきた水滴がぽたぽたと垂れ、ジタンのうなじや頬に当たり、そのたびにジタンはピクッとした。
原色の蛇やグロテスクな虫が洞窟内を所狭しと徘徊しジタンは地団太を踏んだ。
もう、洞窟に入り数十分は経過しただろうか。ジタンは進むにつれ不安感が心の奥底からゾンビのように這い出してきた。
そして、ジタンは脳に血流があまり行かなくなり貧血で気絶した。
「……ん?」
顔面にまとわりつくねっちゃりとした感覚でジタンは目が覚めた。ジタンは無意識にその感覚のあった場所を手の甲で拭う。ジタンはその液体を匂いを恐る恐る嗅いだ。クンスカクンスカと。
嗅いだことのない香りどこかアジアンテイストだ。
「おや、起きたのかい」
いきなり聞こえた声にジタンは少しだけ、ちびりました。少しだけ。
「お、お婆さん誰?」
ジタンは声に不安を滲ませて言いました。
お婆さんは横になっていたジタンを上から見下ろしていました。さっきのねっちょりとした液体はお婆さんの唾液でした。
「おや、私のことを知らないでここまで来たのかい?」
お婆さんはお歯黒でしかも歯が所々が抜け落ちていました。顔には深い皺があり皮膚はまるでゾウガメのように固そうでした。
「もしかして、あなたが地獄魔女ですか?」
ジタンの呼吸が荒くなります。
眼光鋭い視線でジタンを睨んだお婆さんは「フォッフォッフォッ」としわがれた声で言いました。
お婆さんの髪はボサボサで、汚れたちゃんちゃんこを着ています。しかし、ノーブラで垂れ落ちた胸がちゃんちゃんこからちらちらと覗きます。ジタンは目のやりばに困りました。足には擦り切れたサンダルを履いており、匂いはまるでどこかのお寺に来たかのような、線香に似た匂いがし、ジタンはお婆さんに向かって、「ナマステ」と両手を合わせ言いました。
お婆さんは「何しにきたんじゃ」と言いました。
しかし、言った拍子に入れ歯がお婆さんの口から勢い良く飛び出し、ジタンの耳に挟まりました。
「ふまん、ふまん」
お婆さんはそう言いながらジタンの耳にイヤリングのようにぶら下がっている入れ歯を回収し、再び口に戻しました。
「俺、地獄魔女に魔法を教えて貰いたくて来たんだ」
「何? なぜ魔法を覚えたいのじゃ」
「あと少しで夏休みなんだ。それで俺は大人に変身して、世界中を旅したいんだだって10歳じゃ補導されちゃうだろ」
「ほう。深刻な悩みじゃ。だがなお主に私の修行について来られるだけの精神力や体力があるとは思えん」
「ふっざけんな。俺はやるっていったらやるんだよ」
「威勢の良い子じゃ。ではこうしよう」
「何だ?」
「私が出す試験に合格したら修行を認めよう」
「試験に合格したら修行させてくれるんだな。やるよ。何をすればいいんだい」
お婆さんは目を瞑ると両手を上下にすり合わせ、体を小刻みに揺らし念仏のような言葉を発しました。
すると、ボワンという漫画チックな音がなり煙が出現しました。その煙が収まるとお婆さんは手をグーに握りジタンに言いました。
「私が今握っているのは毛じゃ。この毛はこの町に住んでいる誰かの毛じゃ。これが誰の毛か当ててみろ」
無茶な要求でしたが、ジタンは断りませんでした。
金色に光るちぢれ毛。独特の匂い。ジタンはお婆さんからその毛を受け取ると、早速捜索を開始しました。
洞窟を出るとジタンはまずは公園に行きました。小学生ぐらいの男女が数名ブランコやシーソー滑り台、鬼ごっこなどをして遊んでいました。ジタンとほぼ同年代です。
「ねえ、君達このちぢれ毛知らない?」
「え? どれどれ?」
小学生達はちぢれ毛を凝視します。
「僕は金色の毛じゃないしな」
「私も私も。あっ、美鈴は? 美鈴は金髪じゃん」
皆は一斉に美鈴と呼ばれる金髪の少女の方を見ます。
すると、美鈴と呼ばれた少女は「私まだ、ちぢれ毛なんて生えてないもん」と恥ずかしそうにうつむきながら言い、ごきちなく両腕を振りながら公園から去って行きました。
ジタンはがっかりし、再び縮れ毛を大事にかばんにしまいました。
次にジタンはコンビニを周ることにしました。
自動ドアを開けると「いらっしゃいませ」と元気な声で店員が言い、まるで二カッという音が聞こえるようでした。
ジタンは迷いなくレジへと向かうとちぢれ毛を店員に示しました。
「どうしたの坊ちゃん?」
若い女性店員がジタンに優しく語り掛けます。
ジタンは店員の諭すような口調に少し馬鹿にされた気分になり、むっとしました。
「このちぢれ毛の主を探しているんだ」
店員はその毛を見て「きゃっ」と小さく叫び従業員控え室に姿を消しました。
すぐに従業員控え室から店員と思しき数名の男女が顔に困惑や怒りの表情を浮かべながら出てきました。
「坊ちゃん。家はどこ?」
店員達はジタンのことを不審者と思ったようです。ジタンは面倒ごとに巻き込まれたくなかったので、さっさとコンビニを後にしました。
「ふうっ。なかなか思うようにはいかないな」
ジタンは呟き、近くの大きな川の土手で休憩することにしました。
土手の青々と茂った草の上に寝転がり、両手を組み頭の後ろへ回すジタン。
空は澄み切っていて風が何かの花の香りを運んで来て、ジタンは青春を謳歌していると感じました。
ジタンは目の端にある揺れる物を捉えました。……スカート?
直後に、ジタンの目に飛び込んできたのはパンダ柄のパンツでした。
そして、そのパンダ柄からはみ出しているのは……金色のちぢれ毛!
ジタンはすぐに飛び起きます。しかし、そのパンツの持ち主は自転車に乗っていて、なんといつの間にかその人は彼方まで進んでいました。
「今の人の毛と俺の持っている毛はくりそつだった」
ジタンはまたしても地団太を踏みます。
気がつけば辺りはすっかり夜の帳の中でした。
とぼとぼと帰宅するジタン。
家のチャイムを鳴らすと母親がすぐに玄関を開けてくれました。
「遅かったわね。ジタンちゃん」
ジタンは母親に飛びつき泣きました。
「どうしたんだい? ジタンちゃん」
「ちくしょー。ちくしょー。俺、今日地獄魔女のところに行ったんだ。そして試験に合格したら魔法を教えてくれるって言われて、今まで試験をクリアする為に頑張っていたんだ」
「ジタンちゃん。地獄魔女の所に行っていたの? 本当にあなたは強い子ね。ところで、試験って何だったの?」
ジタンはカバンからちぢれ毛をそっと出し、母親に見せました。
「このちぢれ毛の主を探していたんだけど、結局見つからなかった」
「あら、このちぢれ毛、見覚えがあるわ……っていうかこの香りといい、ちぢれ具合といい、これはまさに私のちぢれ毛」
え? えええー? ジタンは母親のスカートをファサッとめくりました。
「いやん。ジタンちゃんのエッチ」
母親が履いていたのはパンダ柄のパンツでした。
ジタンの母親は自宅にある遺伝子解析マシーンで自分のちぢれ毛と地獄魔女からのちぢれ毛を解析しました。その結果、ほぼ100%の確立で母親のちぢれ毛でした。
まさか、母親だったとは。ジタンは驚くと共に喜びが沸き起こり部屋の中でへいへい! と言いながら数時間、奇妙奇天烈ダンスを踊りました。
次の日の放課後、ジタンは急ぎ足で地獄魔女の所へ向かった。ちぢれ毛の件を報告する為だ。
相も変わらずの不気味な洞窟の空間だったが、今は不気味よりも期待の方が大きかった。
「このちぢれ毛の主が分かりましたよ」
ジタンが自信気に言うと、地獄魔女は鋭い双眸でジタンを射抜いた。
「ほう。では、誰のちぢれ毛じゃ?」
「俺の母親のだ」
ジタンが言うと、地獄魔女は目を少し見開き「うむ。なかなかやるの」と呟いた。
「じゃあ」
「いいじゃろう。魔法をお前に教えてやろう。ただし、修行は並外れたものじゃないぞ」
「よっしゃー」
そして、地獄魔女による修行が開始した。
「まず始めに、お前には基礎を学んでもらう」
「基礎ですか」
「そうじゃ。全ては基礎があってこそじゃ。基礎が出来ていないといくら良い魔法を覚えても、ちょっとした精神の乱れで、呪文を紡げなくなり魔法が出せん」
「確かに。では、基礎から頑張りたいと思います」
「良い心がけじゃ。では、いくぞ。まずは世の中にある全てのスポーツや格闘技、将棋、囲碁などをある一定以上マスターしてもらう」
「いやいや。無理だから。時間ないから」
「大丈夫じゃ。私が魔法で宇宙の時間の流れを緩やかにするから」
「そんなこと出来るの? あんた何者だよ」
「閻魔大王から使わされた地獄からの使者、美少女戦士地獄魔女じゃ!」
「いや、美少女じゃないし! 熟女だし!」
「まあよい、では宇宙の時間の流れをゆるりとしよう。ホンジャラホイ!」
簡易的な呪文を唱えると、世界の流れがジタンと地獄魔女以外緩やかになった。
さっそく、ジタンは世の中のあらゆるものをマスターする為の修行を開始する。
剣道、空手、柔道、グレイシー柔術、ムエタイ、軍隊格闘術、合気道、気功、ボクシング、レスリング、スキー、スノボー、ヒップホップダンス、一輪車、二輪車、三輪車、自動車、タクシー、大型トラック、フォークリフト、船舶、ジャンボジェット、ロケットの訓練、水泳、忍術、コスプレ、クレーン、球かけ、ブルドーザー、クイズ、カポエラ、声優、漫画、男優、ボディービルダー、牧場、折り紙、カラオケ、歌手、スノボー、スケボー、キックスケーター、カルタ、将棋、囲碁、麻雀、オセロ、ギャルゲー、チェスとまあまだまだ数えきれないほどマスターした。
「だいだいどれ位の時間修行したのと同じなんですか」
「世間的には半日じゃが、お前はもう百年分ぐらい修行したの」
「え? じゃあ、俺は110歳?」
「いや、お前の肉体もゆるりと流れたから、まだ実際は半日しか経っていない。宇宙はスローになったが、お前と私だけ精神だけが変わらなかったのじゃ」
「じゃあ、まだ俺は10歳?」
「無論じゃ。しかし、精神的には110歳生きておる」
「お爺ちゃんか」
「嫌じゃったか?」
「いや、それも悪くない。色々とマスター出来たしね」
ジタンは覚えたヒップホップダンスとブレイクダンスで喜びを表現した。
そしていよいよ魔法修行が始まった。
訓練に訓練を重ねるジタン。流石精神年齢110歳、弱音は吐かなかった。
そして、毎日特訓を重ねた結果。
「うむ。素晴らしい出来じゃぞ」
地獄魔女がいつになく、微笑んで言った。
「ありがとうございます。もうこれで、免許皆伝ですか?」
「そうじゃ。もう、世の中のあらゆる魔法を使えるし、使い放題だ。透明人間にもなれるし覗き放題だ」
「ぐへへへ」
「渇!」
地獄魔女は召喚した巨大ハリセンでジタンの頭を力強く叩いた。
「い、いてててて。何するんだよ」
「馬鹿モン。何を本気にしておる。お前に魔法を教えたのはお前が世界中を安全に旅行出来る為にだ。そんなことの為に使うんじゃない」
「でも、俺、思春期で性欲がそこそこあるんだけど」
「たわけ! お前に地獄の修行をして教えた魔法は強力で、使い方次第では世界を破滅に導くかもしれん。それなのに当の本人がそんな、自覚がなくてどうする」
「自覚って覗きぐらいいいじゃん」
「甘い! 正しい心や信念を持たぬ者はいずれ知らず知らずの内に悪に取り込まれ利用されるぞ。心の中にマウント富士を立てるのじゃ」
「ちょ、意味わかんねえし」
「心が万華鏡のように揺れ、ルービックキューブをやっている時のように思考が混乱し、迷う時がお前にもいずれくるだろう。だから、常日頃自分の心に何事にも動じない富士山を立てるのじゃ」
「いや俺、ルービックキューブ10秒代で完成させられるから」
「そういう話をしているのではない。まあよいいずれ分かる時が来る」
「じゃあ、今は分からなくてもいいんだな」
ジタンは地獄魔女から魔法だけじゃなく、人間性、精神性も学び終え修行は完了した。
家へ帰る途中、ジタンは透明人間に変身し女風呂に入り、周りの女子を観察した。そして帰る時、脱衣所から女のパンツを数十個拝借した。
「あら、ジタンちゃんお帰り」
「ただいま、母ちゃん」
ジタンは家へ帰ると、元気良く返事をした。
クンクン、クンクン。母親がジタンの匂いを嗅ぐ。
「あら、良い匂いね。お風呂でも入って来たの?」
「う、うんそうなんだ。銭湯でね。修行でいっぱい汗かいたから」
「あれ、ジタンちゃん。ポケットが膨らんでいるけど、何が入っているの?」
ジタンはギクッとした。ポケットの中には銭湯から拝借した女のパンツがいくつも入っているからだ。
「ああ、これ? 地獄魔女から修行が終わったご褒美にプレゼントをくれたんだよ。手作りの毛糸のセーターなんだ」
「あら、地獄魔女さん、案外優しいのね。噂で聞いたのとは大違いだわ」
「そうだね。じゃあ母ちゃん俺疲れたから少し眠るわ」
「うん。じゃあ、1時間ぐらいしたら、起しに行くわね。ご飯食べなくちゃ」
「そうだね。分かった」
ジタンは母親に背を向け、2階の階段を上り始めました。
「よっしゃ。よっしゃ。くくくっ。パンツパンツ」
ジタンの頭の中はパンツでいっぱいでした。するとその時。
「ジタンちゃん……これ何?」
「え?」
ジタンは母親の方を振り向きます。すると母親は人差し指で廊下のある場所を指差しています。母親が指差すその先には、ジタンが拝借した苺柄のパンツが落ちていました。パンパンになるまでパンツを詰めていたので、ジタンが歩いた、ふとした弾みでポケットからパンツが落ちたのです。
「これ、パンツじゃない。しかも女の子のよね。見た目汚れているし、もしかしてジタンちゃん路上でひったくったりしてないわよね」
母親は人差し指と親指でパンツを掴み持ち上げ言いました。
「違います。これは地獄魔女がくれたんです。修行に良く耐えたわねウフって言って頬を朱に染めながらくれたんです」
「本当かしらジタンちゃん。ねえ、そのポケットの中全部私に見せてくれない?」
「い、いやこれはだめです。だめです」
母親は力ずくでジタンのポケットの中身を漁りました。
ジタンのポケットの中から次々と出で来る女の子あるいは熟女のパンツ。
「ひっく、ひっく」
母親はジタンの予想だにしなかった行為に嗚咽を漏らし続けました。
ジタンは下を向き続けます。
すると、異変に気づいた父親が2階から降りてきました。
「どうした。母ちゃん。何を泣いているんだ」
母親は起こった全てのことや、やり場のない気持ちを父親に話しました。
「馬鹿野郎ーー!!」
父親はジタンの顔を力いっぱい殴りました。
ジタンはその威力で勢い良く壁に打ち付けました。
しかし、100年間鍛え続けてきた体には蚊が刺すほども効きませんでした。
しかし、知恵を付けたジタンは痛いふりをし、泣きました。
「い、いたいよ。父ちゃん。ごめんよ、ごめんよ。俺が悪かったよ」
しかし、ジタンの心中は『ちっ見つかっちまったか』でした。
両親は許してくれると思っていたジタンでしたが、甘くはありませんでした。
「おい、ジタン。お前もう勘当な。もう家には入るなよ」
「え、でも。学校もあるし。義務教育だし」
「ふん。こんな不良少年。我が家にはいらん。まあ、学校のことは心配するな。こんなこともあろうかとお前の遺伝子の一部を拝借していた。それを使い我が家自慢のクローン作成装置でお前のクローンを作るからなんの問題もない」
「まじかよ。親父」
「もう、私はお前の父親ではない。好きに世界中のどこへでも行くがよい。地獄魔女の修行に耐えたお前なら私達がいなくても、へのかっぱだろ。ここから先はお前の自由だ。エロ本を買おうが、風俗に行こうが、犯罪を犯そうが、私達の知ったことではない」
「か、母ちゃんはそれでもいいの?」
ジタンが母親に尋ねます。
すると母親は、中指をピンと立てて言いました。
「GET AWAY」
ジタンは10歳(精神年齢110歳)にして一人身となりました。
一人身となったジタンは地獄魔女にそのことを報告に行くことにしました。
しかし、今は既に夜中です。こんな時間に地獄魔女の所に行ったら、どんなにぶち切れられるか分かりません。なので、ジタンは透明人間になり、女子高に侵入し眠りました。
次の日、朝目覚めるとゾロゾロと女子高校生が登校して来ました。ジタンは目を凝らしなら、登校する彼女達を眺め続けました。
時刻は午後4時。女子高生に見入ってしまい、ジタンは時が経つのを忘れていました。
ジタンは地獄魔女の元へと向かうことにします。
地獄魔女の洞窟の入り口の所へ行くと、地獄魔女が待っていました。
「フォッフォッフォッ。勘当されたのか。それにしても女子高で一夜を過ごすとは中々将来性のある変態じゃのう。ええ?」
地獄魔女は心の底から笑うような声で言いました。
「何で知っているんですか。遠隔透視ですか? プライバシーの侵害ですよ」
「まあ、堅い事言うな。どうせお前は行くところがないんだろう? それにお前だって無断で女子高に侵入したじゃないか。それはいいのかい?」
「くっ。そ、それは。一身上の都合で」
「いい訳はいい。それにしても深夜の学校で女子高生の私物の数々を漁るとはな。お前さん心が荒んでおるのではないか?」
「いや、これは健全な男なら誰しもが持っている願望って、それも見ていたのかよ」
「うむ。私はお前のいわば師匠じゃからな。お前の私生活の全ては把握済みだ。お前の体の隅々やトイレまで、全て観察させて貰っている」
「ぐ、なんて魔女だ。地獄魔女と言われている、ゆえんが分かった気がするぜ」
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃろ。今日はここへ何しに来たんだ? 私の養子になりに来たのか?」
「違うわ。ただ単に勘当されたから報告に来ただけだよ。って地獄魔女は心の中までは読めないのか?」
「いや、お前には教えるの忘れた読心術で読めるが、人の心が読めるというのは中々に大変なことじゃからの。喜び、悲しみ、憎悪など様々な感情が頭にダイレクトに伝わるというのはけっこうこたえるもんじゃ」
「確かにそうだな。って俺に読心術教えろよ」
「いや、お前は犯罪に使うから絶対に教えん」
「じゃあ、教えたらまずは何に使う?」
「うーんそうだな。町を歩いている欲求不満な奥様方を探して声をかけようかな、って今のは嘘だからな。う、嘘に決まっているだろ」
「いや、今読心術でお前の心を読んだがお前の本当の気持ちじゃった。やはり、お前には読心術を教えんで正解じゃった」
「ちっ」
「まあ、よい。せっかく私を頼ってきたことだし、何か出来ることはないかな?」
「金くれよ」
「自分で稼げ」
「でも、まだ10歳だし」
「大人に変身出来る魔法を教えたじゃろ。それで、日雇いのアルバイトでもしろ」
「かったるいな」
「他には何か相談はないか?」
「そうだな。これから、世界中を旅するにあたって仲間が欲しいな」
「ほう、仲間か。私はどうだ? 伝説の地獄魔女だぞ」
「いや、もうちょっと優しい人がいいな」
「私は十分優しいぞ。わがままな奴じゃ。しょうがない、ではお前の好きな物を仲間に変えられるように変身させてやろう」
「本当? マジ感謝」
「目上に対する言葉遣いに気をつけるんじゃ。これじゃあ旅に出ても苦労するぞ」
「そうかもしれないな。分かった。気をつけるぜ。ところで、何を仲間に変えられるの?」
「基本人間の大きさぐらいまでの物や、植物じゃ」
「物や植物か。本も仲間に出来るの?」
「出来るぞ。エロ本も仲間に出来る」
「でも、やっぱり俺はマツタケが好きだからマツタケを仲間にしよう。いい?」
「ほう、なかなかのセンスじゃ。あわびじゃなくていいのか?」
「いや、地獄魔女変な想像はしないでくれ。俺はただ単純にマツタケが好きなんだ」
「うむ。そうか、分かった」
地獄魔女はジタンの要望を聞き、魔法を唱えた。
すると、目の前に立派でぶっといマツタケが出現した。
「おお、すごいマツタケだ。これを仲間にするんだな」
「うむ」
地獄魔女は続けて魔法を唱えた。マツタケは地獄魔女が呪文を唱え続けるごとに大きく変化し、手足や性器が生え、おしり、顔も出現し、瞬く間に人間のように変化した。しかし顔の上にはマツタケのカサが乗っかっている。
「ふう、終わったわい」
地獄魔女がふんどしをタオル代わりにして、顔面に浮かび上がった汗を拭く。
「地獄魔女、それふんどしだよ。誰の?」
「私がいつも着用している由緒正しきふんどしじゃ。お前も使うか? っと、マツタケが目覚めたようじゃぞ」
地獄魔女に言われ、人間になったマツタケの方を向く。マツタケは永い眠りから醒めたようにゆっくりと立ち上がった。
「私はマツタケ人間です。私は人間の仲間になるべくこの世に生を授かりました。なんなりと、ご用件をお申し付け下さいませ」
「おお、マツタケ人間よ。そこにいる10歳の子供の仲間になりなさい。そして世界中、一緒に旅をしてやってくれ」
「お安い御用です」
マツタケ人間は大きなカサがついた頭を大きく頷けた。その拍子にカサからマツタケの香りが漂い、地獄魔女とジタンの鼻をそっと撫でた。
「美味しそうなマツタケじゃ。今日の晩飯はマツタケ人間のカサを使い、マツタケの土瓶蒸しと、マツタケご飯にしよう」
「ちょっと、地獄魔女。そんなことをしたらマツタケ人間死んじゃうんじゃない?」
「いや、ジタン。こいつの頭の上にあるマツタケのカサは採っても採ってもまた生えてくる。トカゲの尻尾のようにな」
地獄魔女が言うとマツタケ人間も「そうです。僕の頭のことは心配しないで下さい。いつでも私の大きなマツタケを食べてください。なんならそのまま生でいかがですか?」
「なんかどこか卑猥な言い方だけど、まあ、食べても心配ないっていうんなら、ありがたく頂くか」
ジタンはそう言うと、マツタケ人間のカサを力一杯使い、もぎ取った。
「い、痛い。や、優しくしてーー」
「やかましいわ」
ジタンはマツタケ人間に柔道の絞め技をかけ気絶させた。
マツタケ人間は恍惚の笑みを浮かべていた。
こいつはMだな。ジタンはそう思った。
その夜、地獄魔女の洞窟で豪勢なマツタケ料理を堪能した3人は満足しぐっすりと眠った。
朝ジタンが起きると、ジタンのパンツがずらされていた。ジタンはまさか地獄魔女がやったのかと思い、顔面蒼白になったが、話を聞くとマツタケ人間の仕業だということが分かった。
「ジタンさんのマツタケを見てみたくて」
マツタケ人間は悪気なくそう言った。
ジタンは呆れ果てたが、これから一緒に旅をし昼夜を共にする相手だったので諦めた。
「じゃあ、そろそろ世界の旅に出かけようと思う」
ジタンが言うと、地獄魔女は顔をくしゃくしゃにし、「行かないでおくれ」と涙を流した。
しかし、ジタンはマツタケ人間と洞窟を後にしようとする。すると、地獄魔女がジタンの袖をひっぱった。
「考え直しておくれ。私は一人じゃ寂しいんだ」
ジタンはその声を無視し、地獄魔女を振り切る。
地獄魔女が微かに見えるぐらいの所までジタンが行くと、遠くから地獄魔女が「ちっ、家事炊事洗濯にこき使おうと思ったのに」という声がジタンの耳に届いた。
ジタンはやはり、地獄魔女は恐ろしい奴だと肝に銘じた。
まずはどこへ向かおう。俺が出来る移動手段はタクシー、バス、電車ぐらいだな。
ジタンはそう考えマツタケ人間に聞いた。
「どこに、行きたい? マツタケ人間は」
「僕は京都に行きたいです。京都の料理人なら僕の価値も分かってくれる」
「いや、価値があるのはただのマツタケで、お前は何の価値もないと思うよ」
「そ、そんな。ジタンさん酷い」
するとその時マツタケ人間の頭に変化が生じた。
マツタケ人間の頭のカサがへにゃとなり、萎れているではないか。
「うわ、なんか気持ち悪い。もしかして、ショックを受けるとカサがへにゃとなるのか?」
「そうです。だから今の僕は元気がない状態です。とても元気な時はカサがピンとなり、まっすぐ上を向いて固く丈夫になります」
「お前を仲間にしたのは失敗だったかもしれない」
ジタンはマツタケ人間に聞こえないようにぼそっと呟いた。
ジタンは結局電車で移動することにした。しかしお金は持っていなかったのでマツタケ人間の頭のカサを何度ももぎ取り、採取したマツタケをフリーマーケットで売りお金を得た。
いい金づるを見つけたぜ。ジタンは口元を僅かに歪め笑った。
稼いだ金でジタン達は早速電車に乗った。
「なあ、お前の名前呼びづらいんだけど」
「そうですか。では、ジタンさんが適当に名付けて下さい。なんでもいいですから」
「そうか、じゃあちょっと考えるわ」
ジタンは電車の車窓からの外の景色を眺めた。すると、たまたま全国チェーンのスーパーが目に入った。
「名前決まったぞ」
「え、なんに決まったんですか? ワクワク」
「スーパーマツタケだ」
「かっこいい名前ですね。ヒーローみたいですね」
マツタケ人間改めスーパーマツタケはジタンに感謝をし、頭を下げる。喜びで元気になったスーパーマツタケのカサが勢いを増し、太く大きくピンと張った。
「きゃー!!」
それを見ていた女性達が悲鳴を上げる。
「こ、この人はある特殊な体質なんですよ。変な人では決してありません」
ジタンは焦って言った。
どうすればいいんだろう。ジタンは悩んだ結果、スーパーマツタケのカサをもぎ取った。
「この人はね頭にマツタケが生える体質なんですよ。理解してあげて下さい」
ジタンはそう言いながら、さっきもぎ取ったマツタケを女性達に配り始めた。
「マツタケですよ。しかも国産です。味も香りも最高級です。ただであげますからどうかこの人のことは許してやって下さい」
女性達はマツタケを受け取るとマツタケを鼻の付近に持っていき、大きく鼻から息を吸った。
「まあ、なんて素敵な香りかしら。本当にこのマツタケくれるの?」
「なんて立派なマツタケかしら。眺めているだけで、癒されるわ」
女性達の態度はがらりと変わった。
そして、女性達はおもむろにマツタケを口にほお張り始めた。
「まあ、なんて美味しいんでしょう。こんな素敵なマツタケを下さってどうもありがとう」
ジタンはその様子を見てほっと胸を撫で下ろした。
ジタン達はある片田舎の駅で降りた。
「ちょっと買い物でもしよう」
ジタン達は本屋に行くことにした。本屋に入る前にジタンは自販機の陰で大人のハンサムボーイに変身した。
ジタンとスーパーマツタケが本屋に入るとレジにいた店員の女性2人がジタンを見て、顔を赤くした。
「ねえ、あのハンサムボーイ、かっこよくない?」
「そうね、どこか中性的な顔だしハーフっぽいしね。でも隣にいる頭にマツタケみたいなのが付いている奴はなんなの? 公然わいせつにあたらないの?」
「本当よね。ハンサムハーフボーイがいなかったら、通報しているところよね。ところでどんな本を買うのかしら。たぶん私達じゃ理解できないような難しそうな本でも買うんでしょうね」
女性店員のひそひそ声はジタンの耳に届いたが、ジタンは気にせずエロ本が置かれているコーナーに向かい、SM物を手に取った。
「ジタンさん。そんな本に興味があるんですか?」
スーパーマツタケは言った。
「ああ、俺も年頃だからな」
ジタンはスーパーマツタケにそう答えると一直線にレジに向かう。
レジにいた女性店員は顔を火照らせレジの対応をする。
女性店員はジタンの魅惑の瞳に見入られ、SMの本を包装する際、自分のちぢれ毛をこっそりと本に挟んだ。乙女心から出た出来心だった。
ジタンは店を後にすると、さっそく本を開いた。開いた際ちぢれ毛を発見したジタンはこれは幸運の証かもしれないと思い、バックに付いていたお守りにちぢれげをはさんだ。
この世界の全容はあまりよく分かっていない。なぜなら結界が所々にはられていてそれ以上進むことが出来ないからだ。あと数十キロ先に進めば結界のある所へ行き当たり行き止まりになる。それ以上先に進むには数千年前に見つかった異次元ワープと呼ばれる穴をくぐらなければならない。しかし、そこは厳重に管理されていて、莫大なお金を持つ者しかくぐることは出来ない。だが、最近ではお金持ちでもその異次元ホールをくぐるものはいない。なぜならその異次元ホールをくぐって帰ってきた者は一千万人中3人だけだからだ。その3人はいずれも違う場所に飛ばされたらしく、帰ってきた時の持ち物もまったく違う物だった。一昔前は死刑囚などが罰として異次元ワープに送られたことがあったが帰ってきたというのは聞いたことがない。しかし、その制度も人権団体などからの猛反対によりなくなった。
「異次元ワープに入るのにいくらかかるかは分からないが一度その場所までいってみよう」
「そうですね。ジタンさん。私もその意見に賛成です」
スーパーマツタケは興奮し、マツタケのカサから湯気を立てた。
こうして2人は目的地目指して歩き出した。
2人の瞳には希望という名の光がきらきらと光っていた。
「異次元ワープの場所は遠いんですか?」
スーパーマツタケが自分の頭のマツタケをなでなでしながら言った。
「まあ、電車であと二日はかかるな」
「そんなにかかるんですか?」
「ああ、最果ての駅で降りて田舎道を進んでいくとデカイお寺があるらしい。そのお寺に異次元ホールが住職や警備員達によって管理されているんだ」
「そうですか。でも異次元ワープに入る金はあるんですか?」
「いやない」
「じゃあ、別世界にいけないじゃないですか」
「そうなんだよ。だけど、まずは行ってみることに価値があるだろう?」
「そうですね」
ジタン達は電車で二日間寝泊りをし、最果ての駅まで直行した。途中お腹がすいたがそこはスーパーマツタケのマツタケをもぎって空腹を紛らわした。
「まもなく終点、終点の最果ての駅でございます」
電車がゆっくりと停車し、車内に終点のアナウンスが流れた。
「着いたようだな」
ジタンがくっくっくと少し笑いながら言う。
「どうして笑っているんですか?」
「だって楽しみじゃないか。これから行くところは別世界への入り口だぜ。わくわくするだろう。こんな狭い所に閉じ込められている俺達はまるで動物園で飼われている動物だ。異次元ホールはまさにそんな世界から抜け出す為の鍵、いわば自由への扉だ」
「たしかにそうかもしれませんが、どこへ行くのか分からないんでしょう? もしかしたら宇宙空間に飛ばされるかもしれませんよ。心配じゃないんですか?」
「多少は心配だが俺は地獄魔女に様々な魔法を習ったので酸素がなくても死なないから平気さ」
「そうなんですか。そういえば今思いついたんですが、お金は魔法で作れないんですか?」
「ん? おお、ナイスアイデア。そうだなその手があったか。だがお金を作るのは面倒くさいから、銀行からスチールの魔法で金を頂くとするか」
「スチールの魔法?」
「ああ、この魔法は遠くにある物を盗むことが出来るんだ。この方法なら金に困ることはない」
「でも、それって泥棒じゃ……」
「異次元ワープに入るのに泥棒もへったくれもあるか。それにもうこの世界へは帰って来れなくなるかもしれないしな」
「たしかにそうなんですが、この世界に戻ってこられた時のことが心配です」
「うるせえ奴だな。異次元ワープから戻ってきた奴は3人ともいずれもヒーロー扱いを受けている。だから俺達がもし戻ってこられたら、特赦でお咎めなしだ。異世界からの品々をこの世界に持ってくれば誰も文句の一つも言わないだろう。たぶんな。それに俺はまだ10歳だし」
「年齢を盾にするんですか。ジタンさんは鬼畜ですね」
「頭にマツタケの付いているお前こそ頭がイカレているじゃないか」
「いやこれはジタンさんがマツタケを仲間にしようとしたから僕が生まれたんじゃないですか」
「そ、それはたしかにそうだが」
2人はこんなたあいもないやり取りをしながら、異次元ホールが管理されているお寺へと向かった。
ごろごろとした石がたくさん転がっている歩きづらい田舎道を歩いている途中、小さなお店が目に入ったジタン達は立ち寄ることにした。
「なんのお店でしょうかね」
スーパーマツタケが興奮し頭のマツタケが元気になった。
「なんだろうな。あ、店の入り口に看板があるぞ」
ジタン達は看板に近づき目を凝らして見た。
『新鮮な地元で採れた食材をふんだんに使った焼きたてのパンです。旅の思い出に一度立ち寄ってみてくださいな。パン屋アリスパリス』
「パン屋か。まあ、俺はいつも朝はパン派だからな。この世界で食事できるのもこれが最後かもしれないし、買っていくか。なあスーパーマツタケ?」
「はい是非。ジタンさん、僕パンって食べたことがないんですよ。まだこの世に生を受けて間もないし、早く食べてみたいです~」
どこかギャルのような口調でスーパーマツタケが言った。
店内に2人が入るとパンの香ばしい香りが充満していた。店内は質素ではあるがこ綺麗でいて自然な色合いの飾りやカーテンが施されていて2人を心地よい気分にさせた。
「どんなパンがあるんでしょうね」
ジタンは興奮を抑えることなく、三段のテーブルに所狭しと並べられているパンの数々を見て回った。
「おいおい、そんなに興奮するなよ」
今だ絶賛変身中のハンサムボーイジタンはそんなスーパーマツタケの様子を子供を見るような優しく温かい目で見守った。
「これ、これがいいです」
ジタンは瞳孔を大きく開き、初恋の人に出会った時のような胸キュンの瞳である一つのパンを指差し言った。
「どれどれ」
ジタンはスーパーマツタケが指差した、パンを見た。
「げ、なんだこれ。ザリガニパン?」
スーパーマツタケが指差したパンはパンの丸い生地の上に焼かれたザリガニが一匹まるまる威嚇する姿勢のまま乗っかっているパンだった」
「お、美味しそうじゃないですか。これに決めました。これどこのパン屋でも一般的に売られているんですかね」
「い、いや初めて見たよ。こんなパン。ザリガニが威嚇しているし。怖くないか?」
「いや、可愛いです。僕この子に一目ぼれしました」
「まあ、お前がいいっていうのならいいか」
ジタンはそう言うと、自分が食べる他のパンを探した。
「なんだよこれ」
ジタンは大人の手の平ほどもある黒い甲虫の上にカブトムシの成虫が乗っかっているパンを見つけ、呟いた。
「どこにパンがあるっていうんだよ」
ジタンが不満げに呟くと、店員が近づいてきて「この黒い甲虫の中に味が付いていないパンが詰まっていますわ。でも、この味付けされた黒い甲虫やカブトムシと一緒にボリボリと食べると美味ですことよ」と店員はセレブ口調で言った。
「ところでこの黒い甲虫は何の虫なんですか? 見たことないんですけど」
「さあ、よく分かりませんことよ。でも、この地元によくいる虫ですことよ。森の木に舌で穴を開けて中にいる幼虫を貪り食っているんでございますわよ」
「地元の食材ってそういうことか。でもそんなよく分からない虫をお客に出していいんですか?」
「あら、でもとても美味で常にリピーターが絶えない商品でございますことよ。今日はたまたま売れ残っているでございますが、いつもは売り切れでございますわよ。それに毒は入っていませんことよ。旦那に食べさせてもまだ元気ピンピンでありますわ。それどころか夜は狼のようになって私は体がもたないですことよ。ぽっ」
「うーん」
ジタンが考えているとスーパーマツタケがそのパンをお盆の上に乗っけた。
「ジタンさん心配しすぎですよ。ジタンさんだっていつも得たいのしれないマツタケを食べているじゃないですか」
スーパーマツタケは自虐ネタを披露した。
「分かった」
普通のパンも置いてあったので、ジタンはザリガニと黒い甲虫の上にカブトムシが乗っているパンの他にいくつかのパンを買った。そしてお金を払い店を出た。
歩きながらガリガリとザリガニパンを嬉しそうにほお張るスーパーマツタケを見て、自分も買えば良かったと思ったジタンは黒い甲虫パンを手に取り一口勢い良くかじった。甲虫を歯が割るガリガリとしたした音が田舎道に響き渡った。
田舎道をひた進んでいると立派な金色に光り輝く寺が彼方に見えた。
ジタンはあれに間違いないと思いその寺を写真に収め、待ちうけ画面にした。
「なにしてるんですか。ジタンさん緊張感が足りないですよ。これから異世界に行こうっていうのに」
「思い出、思い出」
ジタン達は金色に眩く光り輝く寺へ向かって進んで行った。
近づくと数千段はありそうな階段が目に入った。その階段の頂上に金色のお寺がドン! と威風堂々とした様子で建っていた。
「ジタンさん。魔法でお寺まで行きましょうよ」
「ああ、その手があったか」
ジタンはそこら辺に落ちていた枯葉に魔法をかける。すると枯葉はみるみる大きくなった。
「これに乗ろう」
「ファンタスティックですね」
スーパーマツタケは感激した。
2人が枯葉に乗ると枯葉がゆっくりと浮上し始める。そしてゆらゆらと動きながら階段を上昇していった。
ものの十分もしない内に階段の頂上まで上がった二人は枯葉からふわりと降りた。
「それにしても素晴らしい造りですね」
スーパーマツタケは感嘆しっぱなしだ。
「俺もこんな綺麗で豪華な建物は生まれて初めてみた」
ジタンも両腕を組み、うんうんと唸る。
「どちら様かな?」
突如聞こえた声にジタンとスーパーマツタケは驚いた。
「だ、誰だ?」
ジタンは声をかけた男に問いかける。
「私ですか? 私はこの寺のなんの変哲もない住職です」
「ほう。何の変哲もない住職が気配を完全に消せるとはな」
「うん? なんのことでしょうか」
「白々しい嘘を付きやがって。本当は貴様何者だ」
「いや、本当に私はただのこの寺の住職ですよ。ただ、悪しき者からこの寺を守る為に物凄い修行はしましたが」
ジタンはその住職の頭からつま先までをさっと眺めた。
「なんて、洗練された体つきをしてやがる。無駄が一つもない。まるで、まるで俺のようだ」
ズコー。スーパーマツタケは盛大にずっこけた。
「ジタンさん、どれだけ自分が好きなんですか」
「本当のことを言ったまでだ」
「ところで、旅のお方。何をしにこの寺へ? 参拝ですか? それとも寄付を下さるのですか? それとも他の目的で? ……」
「この寺に異次元ワープがあるんだろ? それをくぐりにきたんだよ」
「ほう異次元ワープとな。確かにこの寺に異次元ワープはあります。しかし、それをくぐるには膨大なお布施金がかかるのですよ。ご存知ですか?」
「ああ、知っている」
ジタンはハンサムボーイの面のまま鼻くそをほじりながら言った。
「見たところそんな金を持っているとはとても思えないのですが」
「ああ、今は持っていない。でも、これからここに出せばいいだろ?」
「ほう、あなたは魔法が使えるんですか?」
「ああ、地獄魔女直伝の魔法をな」
「なんと、地獄魔女に魔法を教わったのですか。ほほうそれは素晴らしい。では早速お金を出して貰いましょう。ああ、でも銀行から奪うというのはだめですよ。すぐに足が付きますからね」
ギク!
「なななななんのことかな。ははははは」
「なんて分かりやすい人なんでしょう。それなら金でもいいですよ。ゴールドです」
「ゴールド? なるほど。それなら錬金術魔法でいくらでもなるな。スーパーマツタケの頭のマツタケを売らなくても手っ取り早く大金を手に入れることが出来のか」
ジタンはそこら辺に落ちている石をたくさん集め魔法をちょちょいのちょいとかけました。
すると、石がパッと輝いたと同時に見事な光り輝く黄金に変わっていました。
「おお、素晴らしい」
「これでいいだろ。じゃあ異次元ワープに案内しろ」
「ああ、ちょっと待って下さい。この黄金はいかにも石が黄金になったみたいな形をしているので、これを溶かして金の延べ棒にして下さい。魔法で黄金にしたと思われたくないので」
「なるほどね。疑われるのは嫌ということか。この生臭坊主め。お主も悪よのう」
「そういうお主こそ。くっくっくっ」
ジタンは石の形をした黄金に灼熱の魔法をかけました。すると石の形の黄金がドローっと飴細工のように溶けます。ジタンはその溶けた黄金を混ぜて一つの金塊にすると、さらにそれを魔法でカットし金の延べ棒の山を作りました。
「おお、素晴らしい」
住職は喜びの声を上げます。
「じゃあ、もういいだろう。早く案内してくれ」
「はい。喜んで」
住職は金の延べ棒をお寺の地下にしまうとジタンとスーパーマツタケをお寺の中へと案内しました。
寺の中を歩き、住職の後に付いて行く。
案内された場所は体育館のような巨大な空間だった。
「なんだ、この場所は」
その空間はまるで、ネットカフェとカプセルホテルの個室を足したかのような天面まで届く、いくつもの部屋が重なり合っており、異彩を放っていた。
「この一つ一つの部屋は全て異なるトイレです」
「トイレ?」
「そうです。和式、洋式、ボットン便所からロボットがお尻や恥部を拭いてくれる多機能便所まで全て取り揃えております」
「なんでこんなにトイレがたくさんあるんだよ。それに俺は異次元ワープに案内しろと言ったはずだが……。??ってまさか、ここが?」
「その通りでございます。ここが異次元ワープのある入り口でございます」
「でもなんでこんな所に?」
「この寺のセキュリティーは完璧と言えるので心配はないとは思うのですが、それでも万が一セキュリティーが破られたことを考えて時間稼ぎですね」
「たしかにこれだけの数百、数千を超えると思われるトイレの個室から異次元ワープの入り口を当てるのは骨が折れるどころではないな」
「そうですね。一つ一つ開けるのに時間もかかるので侵入者を足止めする時間稼ぎにもなります」
「なかなか素晴らしいアイデアだな」
「お褒めに預かり光栄です」
気分が良くなった住職は、てかてかと光る頭をポケットから出したタオルでキュッキュと音を立てて拭いた。
「ところでどこのトイレに異次元ワープがあるんだ?」
「試しに当ててみてください」
「ふざけんなよ。面倒くさいだろ」
すると、スーパーマツタケがわくわくしたような口調で言った。
「ジタンさん、探しましょうよ。なんか楽しそうじゃないですか。宝探しみたいで。それにもうこの世界とはおさらばかもしれないですし。記念にやりましょうよ」
「なんでお前はそんなに子供のように無邪気なんだよ。疲れるな」
「僕はまだ生まれて数日なので許してください。ってジタンさんも子供じゃないですか」
「子供?」
住職が怪訝な顔をする。
「何訳のわからないことを言っているんだ。スーパーマツタケ」
ジタンは変身の魔法でハンサムボーイに変身していたので住職はジタンが子供だと気づいていなかったのだ。
「分かった。分かったよ」
ジタンは疑惑を悟られまいと思い、その話題を終わらせる目的でしぶしぶ、トイレの個室に隠された異次元ワープを探すことにした。
まずは一番近くにある個室を開けるジタン。
「うおー。いきなり黄金部屋トイレか。壁から便器、スリッパやトイレットペーパーにいたるまで黄金色だ。なんとなく幸先がよさそうだぜ」
「ほほう。いきなり黄金部屋を開くとは、中々の運をお持ちの様で。この部屋は全て金で出来ております。トイレットペーパーも金箔ですし、手洗いで出てくる水にも砂金が含まれております」
「すげぇな。ところでこのトイレ本当に使用できるの?」
「もちろんですよ。使用できなければカモフラージュになりませんからね。実際に使用してみますか?」
「いいのか?」
高級感のある黄金トイレを使用出来ると知って、ジタンは少し緊張気味に答えたが、そんなジタンをしりめにスーパーマツタケが意気揚々とした口調で言った。
「ジタンさんが入らないなら僕が先に入りますよ」
スーパーマツタケはジタンが戸惑っている隙に黄金のトイレ部屋へとさっと入って行った。
しばらくすると個室が開かれ、スーパーマツタケがすっきりした顔で出てくる。
「どうだった?」
ジタンが不機嫌な様子で眉を少し、しかめて言う。
「スリッパこそ黄金の重さで動かなかったですが、それ以外は最高の使用感でした。心の宝箱に黄金という思い出をしまった気分です」
「ちっ、先に入りやがって」
「ジタンさんも、どこかのトイレに入ってみて下さい」
住職がそう言ったのでジタンは「ああ」と軽く返事をした。
ジタンはきょろきょろと辺りを見渡す。すると少し先に行った右の所の個室横にある梯子を上って三階と思われる場所のトイレに目を止めた。
「何か個室の壁がピンクで、満開の薔薇の絵がドアにかかれている部屋があるな」
「あそこにしますか」
「そうする」
ジタンは木の廊下を歩き、個室の横にある梯子を昇る。個室三階まで行き、薔薇の絵のドアを開き中に入る。
「いらっしゃいませ。ご主人様」
メイド服を着たピンクのポニーテールの髪型をしたおなごがいた。
「あなたはどちら様ですか」
ジタンは敬語でおなごに語りかける。
「私はこのトイレに従事ているメイドです。トイレに入りに来たのですよね。じゃあズボンを下ろしますね」
メイド服のおなごはジタンのズボンを下ろすと、大か小かを聞きました。
「しょ、小だよ」
「かしこまりました」
メイドはそう言うとジタンの大事な部分を素手で持ちトイレの便器に向かって狙いを定めました。
「ナ、ナイス」
ジタンは寸分たがわぬ命中率を誇ったメイドに対し、感服の声を漏らしました。
「他には何かすることはありますか?」
「い、いや。ありがとう」
「どういたしまして」
メイドはそう言うとジタンの大事な部分をトイレットペーパーで丁寧に拭き上げ、ズボンを元に戻しました。
ジタンは満足した表情でトイレを後にしました。
トイレを終えたジタンは住職の元へと戻りました。
「どうでしたか?」
住職がジタンに聞きます。
「いやー。良かったですね。また、機会があったら入りたいです」
住職は満足気のジタンを見て笑みをこぼします。
「さあ、ではそろそろ異次元ワープの場所を教えるとしましょうか。お2人とも私に付いて来て下さい」
住職はそう言うと歩き出しました。
住職はある個室トイレの前で立ち止まりました。
「この個室トイレの10階部分に異次元ワープがあります。
住職が上を指差し言いました。
「どきどきしてきましたね、ジタンさん」
「ああ、そうだな」
住職が個室トイレ脇の梯子を上り始めたので二人もその後を付いて行きます。
そして、10階部分に辿り着いた住職は、その個室トイレのドアノブをそっと開け、中へ入りました。
「さあ、お2人ともこちらへ」
住職が手招きをして、2人を中へ呼びます。
ジタンとスーパーマツタケは個室トイレに入りました。
中は飛び散った汚物が散乱していて酷い悪臭を放ち、ジタンとスーパーマツタケは鼻と口を両手で押さえ、目から涙を流しながら咳き込みました。
「ゴホッ、ゴホッ。殺人的な悪臭ですね。目を開けるのもつらいぐらいですね」
ジタンは胃から内容物が込み上げてくるのを必死で押さえ言いました。
「住職さん、これはきついですよ。掃除ぐらいして下さいよ。これじゃあ僕の頭のマツタケの風味も損なわれますよ。勘弁して下さいよ」
「お2人とも申し訳ありません。しかしこれも侵入者をカムフラージュする為の仕様なのですよ」
「本当にここに異次元ワープの入り口があるのか? 早くワープの仕方を教えてくれよ」
「いや、もうお2人の前に異次元ワープは出現していますよ。ほっほっほっ」
「は? どこに? ……ってまさか、まさかあそことは言わないよな」
ジタンは悪い予感を抑えながら聞きました。
悪い予感は的中しました。
「そう、そのまさかです。異次元ワープの扉はボットン便所の排水部分です」
「ぎゃー!!」
ジタンとスーパーマツタケの2人は絶叫して言いました。
「まじかよ。どうやってこんな所に入ればいいんだよ」
「そうですよ。住職さん。これはひどいですよ」
「そんなに深く考えなくても大丈夫です。頭から便器に突っ込めばいいんですよ。そうすれば自然と体も異次元に入って行きます」
ジタンとスーパーマツタケは便器に飛び散っている汚物を見て額に右手を当て「おお、神よ」と祈りました。
なかなか便器に飛び込む勇気が出ない二人。それを見かねた住職がいい方法がありますと2人に話しかけました。
「良い方法?」
「そうです。この方法なら迷わずに異次元に行けます」
「そんな方法があるなら、最初に言って下さいよ」
スーパーマツタケが少し怒って住職に言いました。
「じゃあ、2人とも目を閉じてください。すぐに終わります」
2人は住職に従い目を閉じる。
「ギャー??」
叫び声が聞こえたのでジタンは目を開けました。
すると、住職がスーパーマツタケの頭を力ずくで便器に突っ込んでいました。
みるみると吸い込まれていくスーパーマツタケ。あっという間にスーパーマツタケは便器に飲み込まれていきました。
「さあ、今度はジタンさんの番ですよ」
不敵な笑みを浮かべる住職。
「分かったよ。覚悟を決めて自分で入るよ。でもその前に」
ジタンは魔法を使い全身をシャボン玉のような薄い膜で覆いました。
「これなら直接肌に触れないですむ」
「おお、ナイスアイデアですねジタンさん。それでは行ってらっしゃいませ。よい旅を」
住職が片手を便器の方にピンと伸ばしながら言いました。
「ああ、世話になったな」
ジタンは住職に向かってそう言うと、ボットン便所の便器に頭を突っ込みました。
その途端ジタンは頭から、どんどん便器に飲み込まれて行きました。
「ここは? ……」
ジタンは目蓋をゆっくりと開けました。
「か、体が重い」
ジタンは辺りの景色を360度ぐるりと見渡します。
「どこかの部屋か?」
ジタンは目に映ったベットや、いくつかのつぼ、空気が流れていないのを感じてそう言いました。
その時「もう具合はいいのかい?」という声が聞こえました。ジタンは声のした方に顔を向けます。すると何者かがカーテンような布の隙間から覗いていました。
「誰だ?」
声を荒げるジタン。
「おやおや怖がらせてしまってごめんのう」
声の主は言い、布を右手を使い大きく持ち上げその布を潜り中にジタンのいる部屋に入ってきました。
「私は、この村の長老のミミチャという者じゃ」
長老と名乗るお婆さんを不審な目で見るジタン。
「ここはどこだ?」
「ここは、スパークリング村の診療所じゃ」
「診療所?」
「そうじゃ。お前さんが空から急に降って来て、地面に激突し気絶していたのを村の者が発見しこの診療所に連れてきたのじゃ」
「空から降って来た? ということはついに俺は異世界に来たっていうことなんだな」
「そのようじゃな」
「驚かないのか?」
「うむ。こんな現象はしょっちゅう起こっているからのう」
「しょっちゅう?」
「うむ。空からよく糞便が落ちてくるからのう」
「糞便?」
ジタンは異世界ワープの場所がボットン便所だったことを思い出し納得した。
「そういえば、スーパーマツタケは知りませんか?」
「スーパーマツタケ?」
「はい、頭にきのこが生えているいかれ野郎です」
「ああ、お前の知り合いだったのかい。その子なら無事に保護しておる」
「そうですか。それはよかった」
ジタンはホッと胸を撫で下ろした。
長老はジタンが落ち着くのを待ってから、この世界についておもむろに話し始めた。
「この世界には巨人おるのじゃ。そいつらは悪くてのう。農作物を荒らしたり人間を食ったりして我ら普通の人間はもう絶滅の危機にあるんじゃ」
「へえー」
そっけない返事をするジタン。ジタンは嫌な予感を感じた。
「どうか、異世界から来た旅のお方。そいつらを退治してくれませんか」
逡巡するジタンだったが結局了解した。なぜなら断ったらこの異世界から出られなそうだからだ。
「おお、それはまことか!」
長老は歓喜の声で叫んだ。
その夜、スーパーマツタケと合流したジタンは村で開かれた歓迎の宴を心ゆくまで楽しんだ。そして遊牧民のテントのような部屋で就寝した。
次の日の朝、ジタンとスーパーマツタケが寝ていると、ドスン、ドスンという大きな音が聞こえた。
すぐに村の若者が2人の元に駆けつけた。
「大変です。巨人です、巨人が来ました。お二人様助けてください」
ジタンは眠い目を擦りながら、「しょうがねえな」と呟いた。
「行くぞ、スーパーマツタケ」
「はい」
2人はカーテンを開け外へ出る。そこには見たことのないような巨人がいた。まるで山のようだと2人は感じた。
「でけえな」
「そうですね。ジタンさん。でもジタンさんなら問題ないでしょう? 魔法が使えるし」
「まあな。お前は俺の活躍でも目に焼き付けておくんだな」
ジタンはそう言うと、巨人に向かって言った。
「ほんじゃらほいったらほんじゃらほいっ」
ジタンが呟くとジタンの手にギラリと光る長刀が現れた。
「楽に退治しちゃうよー」
ジタンは素早い動きで巨人の体をメッタ切りする。切り刻まれた巨人はすぐにドスンという大きな音を立てて大地へと仰向けに倒れた。
「ジタンさん凄い。流石です」
「うむ」
ジタンは巨人に背を向けスーパーマツタケの元へ向き直り帰り始める。
その時、スーパーマツタケの顔から血の気が引いて行った。
「ジ、ジタンさん。う、後ろ」
「ん?」
ジタンはその声を聞き、後ろを振り返る。すると、やっつけたはずの巨人が起き上がっていた。
「な、なななんで?」
焦るジタン。
その時、横から長老が来て「この巨人はバンパイアなんじゃ。並大抵の攻撃ではすぐに傷が回復してしまう」と言った。
「バンパイア巨人? 反則だろ」
ジタンは再び巨人と対峙する。
この吸血鬼巨人は太陽の光やにんにくも平気で、切っても切ってもすぐに傷が回復するので埒があかなかった。
するとぞくぞくと遠くから巨人がやって来た。その数数万人かとジタンは思った。
「ああ、もうおしまいじゃ」
長老はその様子を見て絶望に暮れた。
「あの巨人は、羽の生えた空が飛べる巨人じゃ。別名天使巨人。そしてあっちに見える巨人は攻撃魔法が使える魔法巨人。そして、あの巨人は身体能力がずば抜けているアスリート巨人じゃ」
長老のお婆さんは巨人が一斉にやってくるのを見てショックで死んだ。
「なんだよ。この世界は……。ムチャクチャすぎるだろ」
嘆くジタン。スーパーマツタケは恐怖で震えている。頭のマツタケもなぜか縮みこんでいる。
ジタンは意を決して巨人に向かって行った。まずは巨人に対して灼熱の炎を使い巨人の服を焼く。すると巨人の体が全裸になった。そしてその中から男の巨人だけを標的にし、巨人の睾丸目指して灼熱の魔法を再び唱え、睾丸を焼き切る。
焼き切られた睾丸は再生しなかった。
それを見たジタンは巨人の男の睾丸を狙い次々に攻撃する。
「これで巨人は繁殖できまい」
様々な男の巨人は股間を押さえながら撤退して行った。
女の巨人もそれを見て撤退して行った。
安堵するジタン。
巨人が去るのを見て村人達が2人に近寄って来た。
「あ、ありがとうございました」
「ああ」
ジタンは心底疲れた様子で言いました。
「それより、もう俺この世界から出たいんだよね。異次元ワープの穴ってどこにあるの?」
「異次元ワープですか? 異次元ワープはこの世界には数十あると言われていますが、そのいずれも今しがた戦ったいずれかの巨人の肛門にあると古くから言い伝えが残っています」
「巨人の肛門にあるの?」
「はい」
やけくそになったジタンは今さっき去って行った巨人をスーパーマツタケを抱えて空を飛びながら追いかけました。
そして、巨人の肛門目掛けて迷いなく次々と侵入して行きました。
1000人ぐらいの巨人の肛門に侵入した時、ジタンとスーパーマツタケの体が光に包まれました。
「異次元ワープだな」
ジタンは悪臭に顔をしかめながら言いました。
たどり着いた先はジタンが生まれた元いた世界でした。
ジタンは世界を旅するのがふと怖くなりました。まだまだ自分の知らない世界がたくさんあると知り、心の中に恐怖がどんどん拡がっていきました。そしてジタンは急に寂しくなりました。ジタンはスーパーマツタケを連れて真っ先に勘当された自宅へと帰りました。そして、今までの数々の無礼を両親に謝りました。両親は悩みましたがなんとか許してくれました。ジタンは「ママー」と言い、涙をこぼしながら母親の胸に飛び込みました。
ジタンのひと夏のちょっとした冒険は幕を閉じました。




