表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第3章 暴走する者たち――その末路と未来
61/80

第61話 ドジっ娘ユピテール

 ユピテールの視界に白い簡易防護服タイベックス・スーツを着た人影が揺らめいていた。

 ――男? 女? それとも? なんであたしはこんな時にまで両性具有を選択肢に入れてるの?

 ユピテールは自分を嘲笑しながら、その白い服が近づいてくるほうに目を向けつづけていた。

「姉さん見える? ここからじゃ見えないんだけど……」

 セドナは怖いもの見たさから、物陰から少しだけ身を乗りだそうとした。

「ちょっと、ここにいるのがバレちゃうじゃない!」

「シッ! 声が大きいわゼンタ……」

 足音が止まった。

「誰だ? 誰かいるのか!?」

 相手も緊張しているのか、昆虫が鳴くようなキシキシとした声が通路に響きわたった。男の声らしかった。

 意を決したユピテールが大きな声で誰何すいかしかえした。

「そっちが先に名のりなさいよ! こっちはか弱い少女がふたり、それと……そうね、気の強い女がひとり、合計三人よ」

「ユピ、ユピテールか!?」

 ――なんで、あたしの名前を知ってるのよ……どういうこと?

 だが、ユピテールはその声に聞きおぼえがあった。

「俺だ、ニクスだ! 忘れたか?」

「…………」

 ユピテールは相手の顔が見える場所へと、そろりそろりと床を這いすすんでいった。

 そこには白い簡易防護服を着たニクスの姿があった。

「兄さん!……ニクス兄さんがなんでここに? ……って、そういえば今日ここで会う約束だったわね……」

 ――やだもう……姉さんここにきてから物忘れがひどすぎるわ……。

 ゼンタのかすかな囁きはセドナの耳にとどいていた。

 ――それはあるわね。でもそれって、さすがの姉さんも緊張してるってことじゃないの?

 セドナは胸のうちで「今日の姉さんがおかしい理由」を推理していた。

「執務室で会えると思ってたんだけど、あそこには誰もいなかった。トーヤの姿もなかった。で、ふと部屋の奥をみたら、エレベータに通じるドアが目にはいった。そういうことなんだ」

「ゼンタ、セドナ、もう大丈夫よ。聞いたとおりよ。もう出てきて平気よ」

 それからニクスとユピテールと二人の少女は床に輪をつくって座ると、暗黒物質や両性具有のことなどを話しあった。

「何にしても君の情報管理能力には舌をまいたよ。どんなに調べても機密にぶちあたった。で、その機密を探ると、このバベルがかすかに浮かび上がってくる。ずいぶん苦労したんだよ、ここに辿りつくまでには……」

「だって大事なことだと思ったから。ねえ……そうよね、ゼンタ、セドナ」

「うんまあね……」

 ――あたしやっぱり姉さんみたいになりたいな。黙って人のために尽くせる。素敵なことよね。

 ゼンタとセドナの気のない肯定には、そうした感情がこめられていた。

 だがセドナは――肝心なところでついうっかり(、、、、)したり、ドジを踏むところもまた姉さんの味といえば味なのよね。憎めないっていうのかしら。でも、おかげでこっちは寿命が三年は縮んだわ……。

 と、ユピテールを見つめながら楽しそうに注釈を付けくわえたのだった。

「しかし助かったよ。もし君がここまで調べてくれていなかったら、俺は軍の作戦に協力どころじゃなかったからね」

「パパはアインスのことで頭がいっぱいだった。わかるわ。あたしね、タラッサさんのところでシーさんに会って、アインスを抱かせてもらったの。感動したわ」

「そうかそうか……」

 ニクスは照れくさそうな顔をして微笑んでいた。

「でも兄さんも必死に調べてくれた。あたしの知らなかったデータもあったわ。あたしこそ感謝するわ。兄さんの情報収集力って凄いと思った」

「でも……惚れられても困るよ……」

 ニクスはユピテールの酔ったような眼光に――まだ俺に恋愛感情があるのかもしれない……――ということを確かめるかのように、そう言ってみせた。しかし、意外な答えがユピテールの口からほとばしった。

「それなら心配いりません。あたし、どうやら好きな人ができたらしいので」

 ゼンタとセドナが顔に疑問符を浮かべながら見つめあっていた。

「まだ本心かどうかはわからないんだけど、これから確かめてみようかなって……そう思ってるわ」

「…………」

「その話、機会があったら儂にも聞かせておくれよ、ユピ」

 それまで沈黙を守っていたヨハネスが興味深々といった口調で会話に参加してきた。

「まあお爺様ったら、意外と噂好きなのね」

「浮いた話のひとつくらいないと退屈するものじゃ。とくに儂のような存在はな。……さてと、儂は少し寝るよ。なにしろ古い型じゃからのお、新しい型より睡眠が必要なのじゃよ。用事があったらいつでも話しかけてきてかまわんがね」

「まってお爺様、執務室のセキュリティーを解除しておいてください。でないと……」

「ああ、わかっとる。あれは儂の一族以外を排除してしまうからな。もうそういう時代じゃないからのお。ではおやすみ、ユピテール、それにゼンタ、セドナ、それから……ニクス船長」

 ヨハネスの挨拶がきっかけとなって、ユピテールたちはエレベーターに乗って執務室へと引き返していった。

 それから四人は崩れてしまったお弁当をみんなで突つきあいながら、話の花をしばし咲かせたあと、それぞれの道を歩きはじめたのだった。

 ピュアホワイトの外装がなめらかに磨き上げられた<スフェーン>号は、夕焼けの中をニューオーリンズへと向かった。

 少女たちをタラッサの邸宅に送り届けたユピテールは、疲れもみせずに、すぐさまバベルへと取ってかえしたのだった。

 ニクスは愛娘をつれたシノーペの到着を待って、フーシコフとの作戦会議のためにバベルを出立した。社用ジェットは夜空に排気音を沁みわたらせながら、一路バミューダのヘプタゴンを目指したのだった。

 一人一人の足音は小さかった。それぞれの進んでいった方向も違っていた。だがその靴音も行き先も戦いを予感させたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ