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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第3章 暴走する者たち――その末路と未来
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第57話 時間との戦い

 <フィーリア>号の船外に出たエロスは、宇宙船ドッグの設備をひととおり見てまわった。

「なんとかなりそうだね」

 ぽつりと呟いたあと、エロスはドッグにあった巨大な多機能マルチプルロボット・クレーンを操作しはじめた。

 ドッグには<フィーリア>号をベースにした建造中の船があった。構造物が剥き出しの船は、まだ宇宙に飛び立てるような状態ではなかった。

 エロスはロボット・クレーンを動かして、基本構造メイン・フレームからエンジンを引きだして、<フィーリア>号のエンジンと入れかえていった。

「五基あるうちの三基か。とりあえず、なんとかなるだろう。つぎは……」

 鉄骨が丸見えになっているドッグの天井に、細長い円柱を吊り上げたまま動いているロボット・クレーンの作動音が届いていた。

「ブースターはできるだけ積んでおかないとだね。なにしろ主動力が死んじまってるんだから……」

 流線型のボディを誇っていた<フィーリア>号がどんどん不格好になっていた。何本も取り付けられたブースターがゴタゴタした印象を与えていた。<フィーリア>号が優れた船だと必死に思いこんでみても、できそこないの貨物船にしか見えなかった。

「われながらセンスのなさを感じるね。けど、仕方ないのさ。すこし我慢しておくれ<フィーリア>」

 エロスの呟きには船への愛着があった。

「よし、これでいいだろう。あとはロボット・アームにプログラムを入力すればいい。けど、両親が驚くだろうね。なんて説明するか。そこが悩みの種ってことか……」

 エロスはドッグの中央電算器セントラル・コンピューターの前に立って、換装したエンジンと装着したブースターの回路を接続する指示を、つぎつぎに入力していった。

「まだまだ修理しなきゃいけないところは山ほどある。……そんなことより腹が減ってぶっ倒れそうさ。それに熱も上がってきたみたいだね……」

 そのとき、エロスはコンピューターの制御卓コンソールにあるデジタル時計の進み具合が妙に早いことに気がついた。

「……時計、ぶっこわれてるのかい? 熱のせいかい?」

 彼女は腕にはめていたブレスレット型の多目的電子端末に視線を走らせた。

「こっちもか。艦橋で時間をきっちり合わせたはずなのに。何が起こってるんだい? そうか、むかし電子書籍デジタル・ブックで読んだ記憶がある……つまり、過去に来ちまったけど、時空があたしを異物だと受けとめて時間が進むのが早くなっている。そういうことかい? けどそいつは、あたしの中の時間だけかい?」

 エロスはそれまで体が接触していたコンソールから身を離してデジタル時計に視線を走らせた。

 時計に表示されていた「:」の点滅速度は変わらず早かった。

「あたしの読みは当ってるってことだね……。時間の進むのがやたらに早くなってるってことかい。まずいじゃないか。時間が足りなくなる。そうか、やたらに腹が減ってるのはこのせいだね。解熱剤も切れかかってるってことかい。なんともやっかいだね、時間旅行ってのわ。仕方がない、急ごう」

 とりあえず必要な指示をコンピューターに入力したエロスは、大急ぎで船内に走りこんでクルーザーデッキを目指しはじめた。エロスが予想したとおり、デッキには埃をかぶった上陸用クルーザーが放置されていた。

「たしか、動力は死んでいなかったはずだよ」

 コクピットのメイン・スイッチを押しこむと緑のランプが点灯した。

「よし、いけるね。このすきっ腹と熱は我慢ならないけど致し方ない。しばらくの辛抱だよ」

 クルーザーに乗りこんだエロスは額に汗を光らせながら離発着ハッチを強制開放させると、アクセルをめいっぱい踏み込んでエアロックの方へと急ハンドルを切った。

「まったく古風な代物だね。たいした乗り心地じゃないかい」

 クルーザーはエアロックの前で止まるまでに何度か跳ねて、エロスの頭を天井にぶつけさせた。

「けど、なんだか冒険心をくすぐられるね。こうじゃなくっちゃいけないよ。さあやるよ! あたしが生きていた時代に戻るのが早いか、あたしのほうが早いか、勝負さ!」

 力強い声と同時に、クルーザーは開きはじめたエアロックの隙間をくぐり抜けていった。エロスは宇宙の闇を突き進みながら時間との戦いを開始したのだった。

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