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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第1章 生と死――秩序と怨念
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第4話 火星基地占領される――作戦会議

 フロリダ半島にあるDOXA宇宙センターから、ひたすら大西洋を眺めて北東に千三百キロのところに、美しいサンゴ礁に囲まれた島々がある。イギリス領バミューダ諸島である。

 その一島、セント・デイビッス島の滑走路脇に大きな七角形をしたビルが建っていた。通称ヘプタゴンと呼ばれる建物は、地球軍の統合参謀本部となっていた。七角形の一辺の階層はそれぞれ、宇宙軍部、海兵隊部、軍令部、参謀部、情報・諜報部、兵站・技術部、広報・宣伝部となっていた。

 こうした編成からみて、地球軍がいかに情報や作戦、技術に特化した組織であるかがわかる。そのヘプタゴンの南側に面したビルに参謀本部はあった。

 三階にある会議室には宇宙軍の参謀たちと各部の代表、そしてDOXAの技術部顧問などが揃って会議に参加していた。

「といったところにになるだろうか……」

 参謀総長のムーシコフが苦々しい口調で現状を述べたあと、口を閉じた。

「しかし、火星を制圧されたことは見過ごせませんね……」

「ムーンベースとセレーネの確保が遅れていたら……そう考えると背筋が寒くなるよ……」

 宇宙軍の司令官たちが、眉をひそめて独り言のように感想を漏らした。

「そこだよ、諸君。つまり、木星を基点とする三個艦隊ならびに、火星外縁の軍施設および、DOXAの施設が危険に晒されているということだよ。……もちろん、まず第一に補給が大問題なのだよ。何か妙案はないのものかね?」

 白い第一種軍装に身を包み、胸にたくさんの勲章を下げたムーシコフが議場に声を響かせた。

 しかし、静寂を破るものはいなかった。

「ふむ……DOXAとしてはどうみるかね? ニクス君」

「はあ、そうですねー。補給はなんとかなるでしょう……」

 とたんに不機嫌な唸りが部屋を満たした。

 ニクスは自分が指名された意味を推し量りかねていたが、歯に絹を着せている場合ではないことは、誰よりも知っているつもりだった。

「どういうことかね?」

「皆さん、はじめにお断りしておきたいのですが、私はDOXAの職員であり、軍の参謀顧問という微妙な立場です。それゆえ、提案はできますが決裁権はございません。その点を加味して頂いて、気楽にひとつの案として聞いて欲しいのです」

 そこまで発言したニクスは席を立って、先を続けた。

「木星への補給は、潜宙艦を使います。投入できる数は惜しまずに使うのです。地球軍のステルス技術が遅れている以上、これしか手はありません」

「しかし君、それでは地球周辺の哨戒はどうするのだね?」

 軍司令官のひとりが疑問を呈した。

「大将、ツァオベラーとて無謀ではありません。いきなり本星である地球を襲うほど愚かではないでしょう。まずは木星との補給を断ち切り、そこにある施設を奪取し、駐留している三個艦隊を撃破する。それが彼らの狙いでしょう」

「……まあ、そうだな……」

「よって、本星の防衛はステーションと二個艦隊を持ってする。それでよろしいかと思います」

 ニクスは議場の反応を見るように、そこで言葉を止めた。

 ざわつきは起こったが、なにも質問がないことを確かめると、ニクスは再び口を開いた。

「私の戦略はこうです。我が方はまず彼らに技術的に追いつくのが先決かと思います。ムーンベースの悲劇にしろ、ギザ基地の制圧にしろ、技術の遅れが招いたものです。戦火を広げるのは容易なんです。――しかし、無意味な戦火の拡大は敗北を早めるだけです。今は耐え忍んで体制を整えてから反撃に出るべきです。敵の戦術もまだまだ不明です。そうした研究も必要でしょう。――ゆえに、木星宙域の戦力を維持しながら、少しずつ地球に帰還させる。ゆくゆくは三個艦隊全てを呼び戻して、現在編成中の第七艦隊の準備が整ってから、全戦力をもって反撃すべきです」

「それでは時間がかかりすぎる……」

「いいえ、そこはこちらの狙いでもあります。現在我が社が開発中の反重力装置が完成すれば、機動力が飛躍的に向上するのです。それまでは忍従するべきです。他にも開発中の技術は多々あります。それを待ってください。時間は我々の敵とはなりえません」

「…………」

 実戦を指揮して名誉を得たい者、できれば戦いを避けたい者、日和見主義の者、それぞれの将軍が思惑を秘めた意見を述べて議場に火花が散った。

「そもそも、いま攻勢をかけて火星を奪還したとして、何になるのですか? あのEMPの威力。せめて、あれに対抗する装置の開発が済まなければ、我々は無力ともいえるのです。百や二百の戦艦が何になりますか……」

「核か……まさかこうも早期にああした使い方をされるとは、予想だにしていなかったからな……」

 ムーシコフはニクスの背中を押すような低く重い声を放った。

「そこです。それゆえ小官は忍従をお願いしているのです」

 会議での使命は済んだ。そう判断したニクスはゆっくりと椅子に腰をおろした。

 地球軍の数人の司令官は戦術レベルまで研究しつくされた優れた案を提示したが、どれも技術的な問題が解決しない限り、天秤を傾けるほどの作戦は不可能と判断され、当面は本星とルナの防御力の強化を前提とすることが決定された。

 地球は<アメリカ>と<ロシア>と名付けられた宇宙ステーションと二個艦隊の周回軌道上での哨戒で防衛。一個艦隊は地球に残して新装備の充実をはかる。ルナにあっては、早急にEMP防御の措置をこうずる。火星外縁の軍とDOXA拠点は、潜宙艦の全戦力をもって補給線を確保し、戦力の維持をはかるということが決定されたのだ。

 しかし、問題は山積みであった。まず何より問題になったのは補給量の絶対的不足であった。潜宙艦の貨物搭載量は少なかった。もともとそうした任務に使用することが考えられていなかったのだ。そのうえ、潜宙艦は鈍足で機動力が悪かった。

 何度も同じポイントでの補給を繰り返すことは危険を伴うことだった。それは、即ツァオベラーの標的とかすことを意味したからだ。そのため、艦隊は常に移動しながらの補給が必要であると判断されたのだ。そうしたことを鑑み、軍はDOXAの艦艇を補給任務に投入することを依頼してきたのだ。DOXA艦艇の輸送量と高機動力に期待をかけたのだ。

 ニクスとしては苦渋の選択を迫られた。軍に優先的に装備や技術を提供する以上、DOXAは武器一つ持たない探査船で輸送任務につかざるをえなかったからだ。そこには同時に、これまで育ててきた科学者や技術者を多数失う危険性があり、かつまた現在の開発力を下げるという重大な問題があったからだ。

 だが、ニクスは躊躇せずそれに同意した。彼にとってみれば、軍の説得はさしたる問題ではなかったのだ。

 問題は別にあったのだ。

 ――さて、トロイヤとユピテールがなんというか……俺自身を守るEMP防御服でもあれば、気が楽なのだが……。

 ニクスはDOXAの水爆とも綽名される二人に会うという気重さを抱えて、社用ジェットのタラップを登っていったのだった。

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