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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第2章 男と女――そして……
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第32話 シェルショック

「おい、またか?……もううんざりなんだ……。ヒドラ様からはなんの連絡もないのか!?」

 ヘルメスは寝不足で疲れ切った顔を怒らせて、副官を罵声で殴りつけた。

「卿、ここは安全です。落ち着いてください」

「それはわかっておる。だがな、この地震のような揺れには我慢がならんのじゃ……」

 ヘルメスはフードの頭巾を下げてベッドに横たわったまま、バタバタと身をよじらせた。

「定期便でしょう……じきにおさまります。少々ご忍従くださいませ」

「あーあー、あーぁー、イライラして眠れないのじゃー! この揺れのせいで……。貴様はなんで平気でいられるのじゃ!」

 地球軍の爆撃は定常化していた。火星のギザ基地に毎日決まった時間に決まった数の爆弾の雨を降らせていたのだ。メンカウラー、カフラー、クフという、三つのピラミッドとスフィンク像以外は、地球軍の絨毯爆撃を受けて建物はすべて破壊され、荒れ果てた赤い大地を曝けだしていた。だが、ピラミッドの防御をになう反重力フィールドは劇的に強化され、重要な基地施設はかすり傷ひとつ受けていなかった。しかし、一ヵ月以上におよぶ連日の爆撃に、戦闘員はもちろんのこと、指揮官のヘルメスさえ精神的に参っていたのだ。シェルショックである。

 厳寒の世界といえども、数日に一度窓の外の景色を眺めたり、退屈しのぎに火星探検に出掛けることさえできなかったヘルメスの戦団は、ただただピラミッドにこもり、爆音と閃光と振動に耐え続けていた。

「死なないことはわかっておるのじゃ! だがな、寝れないのは辛いのじゃ!」

 副官は困っていた。我が儘な子供のように声を裏返らせては怒鳴りつけるヘルメスに参っていたのだ。ヘルメスショックである。

「卿……睡眠薬をお持ちしましょうか?……」

「んむー……あれは不味いのじゃ……もう少し味のいい薬はないのか?」

「ヘルメス様……良薬は口に苦しといいます……我慢なさって、ゆっくりお眠りになってみては如何ですか?」

「仕方がないのー……持ってまいれ……」

「御意のままに……」

 ギザ基地のクフにある司教室では、毎日こうしたことが行われていたのだ。

「諸君、爆撃による火星の制圧はうまくいっている。そこでだ、艦隊の戦力も整ってきた以上、攻勢に出るべきと考えるが、どう思うかね?」

 ムーシコフの声が、ヘプタゴンの作戦参謀室に響きわたった。

「問題はどちらを先に叩くかですね? 火星か? ケレスか? その二択になるかと思います」

 セキ大佐がまっさきに発言した。

「君の意見は? セキ君……」

「は! 小生の思うところはこうです。ギザ基地の防御力は強大です。新兵器の反重力爆弾や全方位ビームボムさえ弾き返しておりますからね。それゆえ、ケレスをまず奪還することが望ましいと考えます。もしもケレスにギザのような防御施設を作られてしまったなら、何もかもが手遅れになりかねない。そう思われます」

「しかし君、それでは我が軍の補給線の確保は火星を制圧されたときと状況は変わらないままだよ……」

「それは心配いらんでしょう。潜宙艦の輸送力は大幅に上がっています。それに、火星への定常爆撃を続けている以上、ツァオベラー勢の補給線を犯すような出撃は抑え込めていますからね」

 セキ大佐は自信に溢れた声でそう述べた。 

「ニクスからの報告によると、敵はケレスの施設にあるデータが目的だと推察されるということだ」

 技術将校のひとりが、議場にある天秤をケレス攻略へ傾けようと、すかさず意見をさしはさんだ。

「敵のBH砲だな。あれが強化されうるデータがケレスにはある。そうニクスからの報告書にはあったな」

 ムーシコフの意向ははっきりしていた。

「しかし、奪還後の維持を視野に入れん限り、早計な攻撃は無謀ではありませんか!?」

「それはある……。というよりも……そこが問題なのだよ……」

 総長は議題が本質に迫ったことに頷きながら、一同の意見を待った。

「作戦的には問題ないのです。我が軍にとって致命的なのは、戦術面の不利なのです……DOXAの兵器開発はどうなっているのですか?」

「まあ、そういうな、提督。彼らとて出来ることはしてくれているんだ。だがね、ここから先は軍の意向ひとつなのだよ。……例えば核だ……。そいつを使うつもりがあるかないか……そういうことによっても、DOXAの兵器開発の方向は違ってくるのだよ……。ゆえに、軍の決断がいるのだよ……」

 ムーシコフは最大の難関である議題をそこに集った面々に投げかけた。

「核か……誰だって使いたいなどとは思わんわな……」

「…………」

「トロイヤからの報告によると、現状で限定的に核利用した兵器の開発は可能らしい……それが戦争終結の決定打となることもありえるそうだ。だが、その兵器がもたらす惨禍に関しては、保障できない……とのことだ。となると、実戦に投入できるようになった完全ステルス機能と、機動力のある第一、第七艦隊を上手く使うしかないというところが現実的なのだよ……」

 ムーシコフの声は低く重かった。

「長官、この際ケレス奪還に核を使ってみてはどうですか? 火星のお返しをしてやるのです。EMPでタルタロスの機能さえ奪っておけば、奴らとて再奪還には出てこんでしょう……」

「それは既に考えてみたことなのだよ……だが、私の一存では決めかねるのだよ……」

「…………」

 議場に厚く重い雲が立ち込めていた。

「急ぐようであれば、採決を取っても構わんのだ。だが、わたしとしては、全会一致を望んでいるのだよ。なにしろ核だからねー……」

「DOXAはタルタロスの機能停止を容認しているのですか?」

「イエスだ……彼らもまた戦争の早期終結を望んでいる……」

「…………」

「海兵隊の上陸で何とかならんのですか? もしそれで敵が奪還に乗り出してきたならば、海兵隊を撤退させて核を使う……。それまでは核の使用は控えるべきです……。敵が使うなら仕方がありません。しかし、地球軍が核のボタンに手をつけてしまったなら、それは悪になりかねないのです。この戦争を無制限な核戦争にしかねないボタンを、地球軍が押すべきではありません!」

 それはセキ大佐の声だった。

「しかし君……しかしだねー……。君の国は世界ではじめての被爆国かもしれん……。だかそれは遠い過去だ。いつまでもそれに拘っていて、太陽系にまで広がった戦争にそういう感覚を持つというのは、どうかと思うがね……」

「そうかもしれません……。遠い祖先たちの歴史かもしれません。お恥ずかしながら、それに拘っているのかもしれません。ですが、わたくしは核の使用には反対です……」

 セキ大佐はひるむことなく自らの意見を披瀝すると、シートに腰をおろした。

「わたしはセキ君の意見に賛成だ……」

 ムーシコフの声だった。

「どうやら決まりのようですな……」

「では諸君、作戦の検討にはいってくれたまえ。以上だ」

 白い第一種軍装に身を包んだ参謀総長のムーシコフは、ケレス奪還作戦――シチリア作戦への裁可をくだしたのだった。

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