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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第2章 男と女――そして……
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第24話 ケレス星域会戦――タルタロス、タルタロスⅡ占拠される

「エロス様! 偵察団が敵を捕らえました!」

「規模は?……」

「どうやら偵察隊の模様です……」

「なら見て見ぬふりをするんだ……。本隊を発見するまでは、絶対にステルスの解除も攻撃も許さないよ。そう伝えなさい」

「御意!」

 双方の偵察勢力はいきなり本隊と接触した。

「おい! 冗談じゃないぜ! 退避、退避だ!」

「地球軍の本隊だ! すぐに高速駆逐艇を出せ! エロス様に伝えろ!」

 地球軍の偵察隊は自艦の安全を確保すると、電波を発信した。だが、聖戦団は見えざる者となった駆逐艇が、待機していた「アズライール」「マフムード」団のスクリーンに捕らえられる宙域までくると、発光信号で地球軍の位置を知らせてきた。

「なんたる古風なやりかたじゃ! エロスは何を考えておるのか!」

「はあー……わたくしにはわかりかねますがー……」

 新たにヒドラの副官となったイブリスが眉を曇らせて呟いた。

「エロス様より入電、全艦ステルス航行に移行せよ――とのことです……」

「うんむー……解せぬ……」

「どうされますか? ヒドラ様……」

「ここは、あの女に従おう……ステルス自体は有効であろうからな……」

「はは! 御意のままに!」

 聖戦団は密集隊形のまま、ステルス機能のある艦船が次々に姿を消していった。

「提督! 偵察隊が本隊を発見しました! 方位α0β1γ3です!」

「ほぼ真正面じゃないか! 全艦、魚雷戦用意!」

 第二、第三艦隊はそれぞれ「アズライール」「マフムード」団を正面に見て、ノズルを点火して距離を詰めようとした。

「スクリーン最大望遠です!」

「数が少なすぎるぞ! 偵察隊規模じゃないか……。どういうことだ? 本隊は別にいるんじゃないのか?」

 スクリーンには間隔の開いた、だらしのない敵戦団が映し出されていた。

 ――だが逡巡は許されない……――。

「全艦、魚雷発射!」

 ミマースの指令で、第二、第三艦隊は、一千八百本もの魚雷を放った。

「えっ、エロス様! ぎょ、魚雷が来ます! たっ、多数です! 非常に、多数です!」

「うろたえるな! 馬鹿めが! BH砲をチャージしつつ反重力フィールドを展開せよ!」

「ははー!」

「魚雷、到達時間です!」

 副官の声がしたかとおもうと、広大な宇宙空間に数百の火の玉が膨れ上がった。

 ――……おかしい……すべて敵戦団の前方で爆発しているようだな……――。

 ミマースは冷静に戦況を把握していた。聖戦団はかすり傷ひとつ負わずに、ゆっくりと前進していた。

「ミサイル戦、用意!」

 ミマースは迷うことなく手順書どおりの戦法を選んだ。

「サルボー!」

 銀色の戦闘艦から一斉にミサイルが撃ちだされた。その数、一万発を超えていた。

「みっ、ミサイルです……エロス様……」

 こんどは数千の火球が宇宙の闇で瞬いた。だが、聖戦団は何の損傷も受けていなかった。

「……ったく……眩しくてしかたがないじゃないか……」

 ――奴ら……反重力フィールドを展開しているな……ならば……――。

「曲射ミサイル戦、用意! ……サルボー!」

 第二、第三艦隊から、真上に向けて打ち上げられたミサイルは、しばらく上昇すると向きを変えて前進し、聖戦団の頭上から降り注いだ。

「フィールドを上に向けるんだ! 急げ! 急ぐんだよー!」

「はっ……はー!」

「まだBH砲の射程には入らないのかい!? あと何秒なのよ!? 報告しなさいよ!」

「はー……あと十秒ほどで……」

 エロスは無能な通信士に苛立って、唇を噛みながら閃光と爆炎と火球の中に佇んで、じっとチャンスを待っていた。聖戦団は曲射ミサイルの攻撃で、十隻ほどが戦闘不能に陥っていた。

「おいおい……ミマース……無駄弾が多すぎるぞ……。しかし、この状況じゃーこっちも何もしてやれん……」

 ギュゲスは真っ向から陣形を保ったまま距離を詰めてゆく、両軍の配置をモニターで確認しながら呟いた。

「BH砲、射程に入りました!」

 エロスは――勝負あった!――という光をダークブルーの瞳に宿らせながら号令した!

「撃てーっ!」

 主砲から火花を纏った黒いビームが伸びて、宇宙の闇を突き進んでいった。

「提督、何か来ます! 高質量体かと思われます!」

 質量センサーをモニターしていた士官が、悲鳴のような声をあげた。

 ――まずいな……――。

「全艦、反重力フィールドを展開!」

 だが、BH砲から放たれた高質量エネルギーは、反重力フィールドを引き寄せて突き破り、第二、第三艦隊を襲った。黒いビームの直撃を受けた船は、その部分に強大な引力が発生して、まっぷたつに引きちぎられてしまった。ビームが舷側をかすめた船は、その引力の影響を受けて、様々な機器が故障した。各艦から被害状況の報告が相次いぎ、轟沈、撃沈を含めて、三十数隻ほどが戦列を離れていった。

 ――一体いまのは何だ!? 奴らの新兵器か!?……だが、あの火花のビームはチャージに時間がかかるはずだ――。

 ミマースは怯まなかった。

「全艦、全速前進ー! 各砲門、砲撃戦用意!」

 地球軍の二個艦隊は、ノズルから長大な炎を吐き出すと、猛烈に敵との距離を詰めにかかった。

「ヒドラ様、奴らが罠にかかりました。あとはビームの撃ちあいでカタがつくでしょう。どうぞお楽しみくださいませ……」

「よかろう……ご苦労であった、エロス……」

 ヒドラは身振りで全砲門を射撃準備に入れさせた。

 やがて、双方は敵を射程距離に捕らえると、各艦一斉にビームを放った。だが、その戦いは一方的な展開に傾いていった。

「なぜだ……何故こうもこちらばかりがやられるんだ……何がおこっている?」

 豪傑なミマースも、その光景に動揺を露わにしていた。

「いいかい、密集隊形を崩すんじゃないよ! こっちの射程は短いんだからね!」

「ははー!」

 エロスは、時おり崩れそうになる陣形を、叱咤激励して維持させていた。

 ギュゲスにとって、それは見たこともない負け戦の光景だった。地球軍のビームは敵艦を殴っていた。だがその威力は弱く感じられた。聖戦団の発するビームは細く非力に見えた。だが、地球軍の船を貫いては爆炎をあげさせていたのだ。

 ――なんだ? どうなっているんだ?――。

 唖然として突入する機会も場所も見つけられずにいた第八艦隊に、その時、聖戦団のふたつの偵察団が襲い掛かった。間近までステルスを維持していた聖戦団の攻撃に、第八艦隊は遅れを取ってしまった。

「防御砲火、撃て、撃てー!」

「ビームのチャージはまだかー?」

「魚雷庫への防御シールドの展開、完了しました!」

 さすがの海兵隊員も動揺を隠しきれなかった。

 ギュゲスの眼の前で、一隻の船が集中砲火を浴びて大爆発を起した。

「ハンニバル隊を出せ! 奴らを船とともに死なせるな! 各隊発進しだい、前方のツァオベラー本隊に突っ込めー!」

 それは相当に強引な命令であった。しかし、その強引さが地球軍の全滅を退けたのだ。ハンニバル隊は編隊を組んだまま敵戦団に突入していった。そして、敵艦を射程に捕らえるやいなや、一本棒になって肉薄するとビームを浴びせて、聖戦団を混乱に陥れたのだ。

「こちらも、ゴルゴダを出せ! 何をしておるか!」

 ヒドラが激昂して肘掛けを叩いた。

「それが……この密集隊形では、発進出来んのです……」

 イブリスが怯えてオロオロしながら、くぐもった声を出していた。

「えーい、機雷をばら撒きつつ、密集陣形を解け! ビームの射程距離はそのままじゃ! 射程外に出た奴らにはミサイルをぶちこめ! いいか!」

「ははー!」

 ハンニバル隊の活躍もそこまででだった。

「おい、ミマース! 撤退だ。撤退せんと全滅するぞ!」

「ああ、わかっている。ギュゲス! そっちのハンニバルも下げてくれ。これ以上の損害は致命的になりかねん……」

「…………くそめ!」

 地球軍は全力撤退に移った。隊形と陣形が崩れるギリギリのところで、戦場を離脱していった。

「追うんじゃないよ! 馬鹿が! 放っておけばいいのさ……。あたしにはまだやることがあるんだよ……」

 エロス揮下の「マフムード」団は追撃を中止して、密集隊形を維持し続けた。だが血気にはやった「アズライール」団は、一部の艦船が深追いして隊形が乱れていた。

「一矢報いるぞ! 艦尾魚雷を撃てる船は、Dエリアに向けて持てる限りの魚雷をぶちこめ!」

 ミマースの怒号が消え去ると、地球軍は各個に魚雷を撃ちだした。すでに、反重力フィールドを切って追撃戦に移っていた聖戦団の艦船は、ここで痛い思いをしたのだった。瞬時に十数隻が撃破され、撃沈されたのだ。

「馬鹿めが! 引けー! 引かんか!」

 ヒドラの命令でようやく冷静さを取り戻した各艦は、隊形を整えて追撃戦を中止したのだった。

 地球軍の大敗だった。戦力の四割を失い、多くの船が損傷を受けていた。一方、聖戦団は一割ほどの戦力を失い、作戦の目的である小惑星ケレスにある、タルタロス、タルタロスⅡを苦も無く占領したのだった。

 科学技術が生んだ兵器が、勝敗の行く末を決めた戦いだった。地球軍はBHブラックホール砲や、射程を制御した高エネルギービームによって、苦渋を舐めたのだった。

 ――アグリオス……あたしを惚れさせようたって、そうはいかないよ。……あたしはねー、この程度のことじゃー満足しない女なのさ……そう、欲深い女なのよ……あんたはまだあたしの一部だって、知ってはいないのよ……馬鹿な男ね……――。

 エロスは、艦長室の豪華なソファーに身を沈め、ひとりワイングラスを傾けて、口辺に笑いを浮かべながら、勝利の美酒に酔っていた。星々は誰彼に味方することなく、窓の外で粛然と輝いていたのだった。

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