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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第2章 男と女――そして……
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第21話 多国籍のクルーたち

 月の周回軌道に乗った<パビエーダ>号とその姉妹艦は、計画通り搭載機器の試験を始めようとしていた。

「ではカロンさん、まずは反重力フィールドの展開からいきます」

「だが、ハヤト君、何もない空間でテストは出来ないのではないか?」

「主任、それなら大丈夫です。ムーンベースから、ターゲット・ドローンを打ちだしてもらいますので」

 主通信士のコンソールに向かって座っていた、リアレスが振り返って、カロンに報告してきた。

 女でありながら、大柄な体躯を誇っているリアレスが座っているシートが、やけに小さく見えた。それは、リアレスがギガンテスである証拠であった。

「そのー、なんなんだね? ターゲットなんとかというのは?……」

「……主任は民間人でしたね。あたしは軍出身なもので、つい……。つまり、模擬標的ってことです」

「そうかそうか、納得したよ」

「そのドローンが、ムーンベースから射出されたようです」

 黒い肌の男が、副通信士の席からそう声をかけてきた。ムンボバだった。

「今回はスルーですね、本船の速度が速すぎます。次の周回にフィールドを展開します」

 電子技術士の席に陣取っていたアマルティアが、訛りの強い英語で報告してきた。

「なあ、君の国はコンピューター技師が多いのだろう? 君もその口かい? ムンボバ?」

「いやーわたしの国はまだそこまでは……どちらかといえば、人的資源で貢献してますね。今も昔も……」

「今は技術者、昔は奴隷としてか……。なんだかしおらしいし、申し訳ない気分だよ……」

「奴隷なんてのは遠い遠い昔の話です。わたしの曾祖父でもそんな記憶なんてありゃーしませんよ。主任はいささか回顧主義なのかと疑いたくなりますね」

 黒人独特の短く刈ったカーリヘアーの頭に、帽子を乗せているムンボバが、カロンに笑顔を見せながらそういった。

「電子技術者といえば、地味に見えますが、我が国は早くから電子立国として国連に貢献していましたよ」

 アマルティアが得意そうな顔をして振り返ってみせた。

「君の国のイメージはブッダだ。やはりそういうイメージが強いのだよ」

 カロンはこの世界人種が入り乱れたクルーたちが、とても気に入っていた。

 <アキレウス>号時代が遠い過去に思え、強いノスタルジーを抱かせたが、それにも増して世界がひとつになったという感慨を、深いところから湧きあがらせて、彼の心を喜ばせていたのだ。

「そういわれて悪い気持ちはしませんがね。どちらにしろ、うちの国の人間は控えめですからねー」

 アマルティアは浅黒い顔をカロンに向けて、ニコニコしていた。

「船長、フィールド発生器に異常はありません。オールグリーンです」

 達者な英語で、まくしたてるように話す女の声がした。装備品技士席に身を沈めた、小柄な純華チュン・ファの声だった。

「歴史ある国の乙女さん。報告ありがとう。君らは我が国の恩人だからねー」

 ハヤトがそういってチュン・ファに親指を立てて見せた。

「どうやら、わたしはまだまだ退屈な時間を過ごさなければいかんようですね……」

 整った顔立ちのトレチャコフがそういって会話に加わった。

「自分はリアレスと同じように軍出身ですからねー。こうした民間船にはまだ慣れておらんのです。それに、DOXAの船が武器のテストをすること自体、異例中の異例ですからねー」

「時間がない。上がそう決断したんだから、俺達はそれに逆らうわけにもいかんのだよ。勤め人の運命さだめとでもいえばいいいかな……。それはともかく、まあ時期に慣れるさ、民間のやり方にもね。なにしろこの船の乗員は我々だけってわけでもないからね」

 カロンはもったいぶった口調でそう軍需品技士の、トレチャコフに告げた。

「と、いいますと?……」

「まだ呼びかけていなかったが、ここまでの航行のほとんどを制御していた存在がいるのだよ。なあアマルティア、そうだろう?」

「ええ、そうですね。ムッターにファーターがそれですね。人格型コンピューター、我らが両親てわけです」

「みなさん、よろしくお願いしますね」

「どうぞよろしくお願いします」

 ムッターとファーターの声が、立て続けに艦橋に響きわたった。

「いまさら説明することもないんだが、彼らはオレ達の守り神みたいなもんさ」

「そんなものですかー。自分にはまだピンときませんがね……」

 トレチャコフが慎重さを垣間見せながらも、それとなく納得した表情をみせた。

「ターゲット・ドローン来ます。チュン・ファ、照準とカウントダウンは君に任せるよ」

「了解したわ、ムンボバ。……インサイト確認。カウントダウンを開始します。二十秒前! ……船長、トリガーをそちらに回したほうがいいですか?」

「いいや、わたしは君らを信頼している。できればわたしは主任と見学していたいのだがね」

「了解しました。カウントダウンスタート、十秒、九、八、七、六、安全装置解除、三、二、一、フィールド展開します!」

 コンソールのインジケータが緑から青に変わった。と同時に、前方の宇宙の闇の浮かんでいた星とドローンが歪んで、クネクネと動いて見えた。

「フィールド、ドローンに接触します!」

 チュン・ファの報告と同時に、円柱形をした銀色のドローンが弾かれたように方向を変えて、<パビエーダ>号から離れていった。

「成功です!」

「うん。見ていたよ。データの収集はオーケーかな? アマルティア?」

「ええ、完璧です。ファーターにデータも転送されています」

「どうやら成功のようだね、ハヤト君」

「ええ、次は反重力推進ですね。すぐに取り掛かりましょう」

「ああ、そうしてくれ」

 カロンとハヤトは反重力フィールド展開の成功を喜ぶ暇もみせずに、次の予定に移っていった。

「反重力エンジン始動します!」

 チュン・ファが心得ているといった機敏さで、次々に報告をよこしてきた。

「うん。続けてくれ。今日中に一通りの試験が済めば、明日はムーンベースでゆっくり休めるからね」

「了解です。エンジン始動します! 五、四、三、二、一、点火!」

 何の振動もなく船はすんなりと加速をはじめると、ぐんぐんとスピードをあげていった。

「こいつは素晴らしいね……。まるでスケートをしているみたな滑らかさだ」

 カロンは思わず感嘆の声をあげた。

「主動力源に異常なし。すべてグリーンです」

「ムーンベースより入電、砲撃用ドローンの必要数を知りたし――とのことです」

 ムンボバの声がチュン・ファの早口に混ざって聞こえた。

「そうだな。十基あれば充分でしょう」

 トレチャコフが意気揚々とそう答えた。

「チュン・ファ、このままの速度を維持。武器試験はこの状態でいくよ」

「はい船長。しかし、平気なんですか?」

「まかせてください。このトレチャコフ、しくじりはしませんから」

「はあ……」

「よーし、リアレス。試験項目の報告は君がやってくれ。ムンボバは月基地との交信に集中してくれ」

「了解です!」

 男と女の声が重なって艦橋に響いた。

「ドローン探知しました!」

「まずは多弾頭ミサイルからいくぞ。Aハッチ解放、一番から三番まで連続発射でいく」

「データ転送、異常ありません」

 アマルティアの落ち着いた声を聞いたあと、トレチャコフは発射ボタンを押した。

「アゴーニ!」

 <パビエーダ>号の上部甲板から航跡を引いて火の玉が飛び出した。やがて宇宙の闇を切り裂いて進んだミサイルは、ドローンの手前でしだれ花火のように光の雨を降り注がせた。いくつもの閃光が瞬き、その光が消えると、三基のドローンが無残な姿を晒している光景が、スクリーンに映し出されていた。

「見ため以上に破壊力があるな……」

 はじめて兵器による爆発と破壊を目の当たりにしたカロンは、たじろぎながらもそう口にしていた。

「ですね。弾頭が分れてから二次加速をしますからね。そこが通常のミサイルと違うところです。つまり、弾頭は小さくても、それを速度でカバーしている。したがって破壊力は従来型と変わらない、ということですね」

 トレチャコフの説明を聞きながら、カロンはトロイヤの顔を思い浮かべていた。

 ――まだ子供だ……そんな風に思っていたが、あいつは優秀な科学者になったんだな……しかし、あまり気持ちのいいものじゃないな……――。

 カロンはトロイヤの中にある狂気を、ミサイルの爆炎に見た気がした。しかし、それはほんの序の口だった。その後に続いて行われた兵器のテストを見たカロンは、戦慄を禁じ得なかったのだ。

 全てのテストを無事に終えた<パビエーダ>号とその姉妹艦は、その日のうちにムーンベースに向かって舵をきり、三隻そろって基地の港に着床したのだった。

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