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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第2章 男と女――そして……
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第18話 DOXA新型艦の飛翔

 DOXA宇宙センターでは、三隻の白い宇宙船が、船首を空に向けて立ち上がっていた。船体は銀のラインでフチ取られた、大きな弧から後ろの部分をそれぞれ赤、青、黄に塗り分けていた。<ナロート・パビエーダ>、<ナロート・トリウームフ>、<ナロート・パツィフィースト>号だった。

 既に赤茶色の制御搭も起立し、打ち上げの準備は整っていた。搭乗を控えたクルー達は、そこから少し離れたピストで見送りにやってきた、家族や友人たちと別れを惜しんでいた。

「アナタの情熱には負けたわ。まさか、またこんな日がくるとは思ってもいなかったわ……」

「すまないね、タラ……我が儘ばかりいって。本当にこれで最後にするよ。約束するよ」

 タラッサは盲導犬のルーチェを連れて見送りに来ていた。

「パパ、死んだら許さないからね! ママを残していったら承知しないんだから!」

 色白の少女、ゼンタがそういってカロンに抱きついた。

「死んだりせん! そんなことがあるものか! だいいちパパはゼンタを残して、どこかにいったりはしないよ! それよりゼンタ。ママを困らせるなよ。パパは大丈夫だ。元気で戻ってくる。いいかいゼンタ、パパの唯一の願いはね、君とママが仲良くやってくれることんなんだ」

「うん……」

 少女は、父親との生まれて初めての別離に涙していた。

「アタシ、試験航行の無事を祈るわ。毎日祈るわ」

 そういって手を握り合わせたタラッサに、ゼンタは冷たい視線を浴びせた。

「ほらまたそんな目でママを見て。今いったばかりじゃないか……」

 娘の視線を感じとったカロンは、ゼンタの耳もとでそう囁いた。

「だって……」

「ゼンタ、パパは君の苦しみを理解しているつもりだ。でもそれは眼が見えるからじゃない。パパはこの胸で君の苦しみを感じているつもりだ。ママだってそうなんだよ……それをわかってあげられるようになろうね……」

 カロンはしゃがみ込んで彼女の翡翠色の瞳を見つめると、語りかけるようにゼンタいってきかせた。

「パパ……あたし……頑張るよ……」

「ああ、君なら出来るよ。絶対にだ!」

「うん……」

「アナタ、ありがとう。あたし、どうしてもこの子の具合が読み取れなくて、辛く当たってしまうことがあるから……」

「大丈夫、大丈夫さタラ。もうすぐそれも解決する。……だから、トーリからの音声メールをきちんと確認するんだよ。吉報は来る。必ず来るさ。それを聞き逃さないようにね」

「ええ、わかったわ。……トーリにはお世話になりっぱなしね。アタシ、彼に何もしてあげられてないのに……」

 ゼンタは父と母を交互に見やり、会話に耳をそばだてていた。何かを伝えておかなければいけない。少女の瞳には焦りに似たものがあった。だが、どうしても口を開けないようだった。

 そのとき、室内に出発三十分前のアナウンスが流れた。

「じゃあ行くよ。なーに、心配はいらんさ。メールを書くよ。とにかく仲良くやってくれ!」

 カロンはそういって、タラッサとゼンタにキスをして、搭乗用クルーザーへと歩み出した。

 ――ああ……神様……。せめてこのひと時だけでも、アタシに光をください!――

「ママこっち。パパはあそこにいるわ……。そうね……三十メートル先くらいよ」

 ゼンタは母の横に立って、カロンのいる方にタラッサの体を向けさせた。

 ルーチェが淋しそうに鼻を鳴らしていた。

 三隻は時間どうりに打ち上げられた。白く長い航跡を引きながら、海に遊ぶイルカのように、位置や姿勢を変えては、大気圏内でのテストを行っていた。それが済むと、三隻は船体を傾けたまま、バミューダトライアングルの中心部上空へと消えていった。

「総長、見事な飛行ぶりですね」

「ああ、素晴らしいね。あの船の試験飛行が全て上手くいけば、現状を変えられる。そう思えてくるね」

 ヘプタゴンの総長室で、ムーシコフとミマースが空を見上げていた。

「あとは軍用装備の充実か……。これもまたDOXAの協力が必要だ。我ながら軍の無能さを思い知る限りだよ……」

「役割分担ですよ、総長。そう考えるしかありませんね……。ですが、やらねばならぬとなれば、私だってとことんやって見せますよ。そういうことです」

「ギュゲスに君……。どうしてこうも、出来る男は血の気が多いのかねー……」

 ムーシコフはそういって笑ってみせた。

「それより君。……君は奥さんを放ったらかしにしすぎだ……今日はもういい、帰って家庭サービスをしたまえ」

「これはまた……。総長の攻撃はピンポイントですね」

 ミマースは頭を掻きながらも、総長の意思に従わないという素振りをみせた。

「君の娘、彼女にも例の症状があるのだろう? ……であれば、奥さんの苦労も偲ばれるというものだ……」

「それを言われると、かたなしですね……。わかりました、それでは今日はこれで失礼します。どちらにしても焦っても仕方ないのですが……そうですね、側にいてやれる時には……」

「ああ、そうだよ……夫婦なんてものは、微妙なものだ。いるべき時にいないと、一生恨まれかねん……」

 ムーシコフは経験者としての苦笑いを浮かべながら、目を細めてミマースの様子を窺っていた。

「それは怖ろしいですね……」

 それでも名残惜しそうに、空に残された航跡に目をむけていたミマースだったが、それっきり口を閉じてしまったムーシコフの圧力に押され、仕方なく部屋の扉へと足を進めたのだった。

 赤と白に塗り分けられた<パビエーダ>号は、すでに点となり、その姿形がわからなくなっていた。

 ――俺達は世界の七不思議にだって勝って見せますよ!――。

 その飛翔コースはカロンが考案した、軍へのデモンストレーションの一貫だった。

 大気圏での飛行はパーフェクトだった。全てのチェックを終えた三隻は、燃焼を終えたブースターを切り離すと、宇宙の闇へと挑戦を開始したのだった。 

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