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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第1章 生と死――秩序と怨念
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第15話 第一次木星宙域会戦

 おもわぬ展開で戦端は開かれた。第八艦隊は敵が射程に入ったと同時に、長距離魚雷を発射した。わずかに遅れて「バハムート」団も魚雷を放った。一千本にも及ぶ魚雷がすれ違った。第八艦隊は怯むことなく魚雷に電波妨害をかけながら、ビームで迎撃しつつ突進した。ギュゲスのもとに各艦から損傷や破損の報告が入電されたが、それはかすり傷といえた。行動不能になった船は一隻もなかったのだ。だが、遅れをとった「バハムート」団はそんな損害ではすまなかった。長距離ビームの起動遅れが致命傷となり、一瞬にして十隻ほどが火球を膨らませて轟沈したのだ。

「いまどき魚雷でやられるとは……お粗末なやつらだ。各艦ビームを敵艦にぶちこみつつ、そのまま突進。目標は本隊だ。ザコは放っておけ! 前進だ!」

 さらに加速しながら第八艦隊は宇宙を突き進んだ。海兵隊が敵の第一陣を突き破ったころ、ようやく第四艦隊が戦場に到着した。

「魚雷庫に防御フィールドを展開。ミサイル戦用意!」

 第四艦隊の司令がくだした判断は的確だった。魚雷の再装填をする時間がなかった「バハムート」団は装填されているミサイルで反撃するしか手がなかったのだ。今度は、一万発を超えるミサイルが交錯した。凄まじい光景だった。魚雷と比べれば威力は各段に劣るミサイルではあったが、視野のありとあらゆるところに火球が瞬いた。

 両勢力とも、無線のスピーカーから伝達や報告、怒号や罵声、そして悲鳴が飛び交った。どの船の艦橋も阿鼻叫喚の巷とかした。

「サウスダコタ被弾! 損傷軽微」

「司令、姿勢制御をやられました。舵がききません……」

「おい見ろ! カリーニンがまっ二つになってるぞ!」

「総員退避! 総員退避だー!」

「衛生兵ー! 衛生兵はいないかー!?」

「なんてこった! レパルスが轟沈したぞ!」

「艦長が負傷した! おい、副長はどこだ!?」

「武器庫が誘爆しました! このままじゃ……」

 地球軍二個艦隊と「バハムート」団は激しくぶつかりあった。

「サラマンドラは何をしておるか!? なぜミサイルを撃たん?」

「ひゃああぁぁーー!」

「司教! キリエルがやられました!」

「クケケケケケケ……もう終わりじゃー……」

「機関長! 原子炉をやられました! 航行不能です!」

「貴様ー! 逃げる気かー! おい待てー! 銃殺だ! 銃殺してやる!」

「イスキンが……イスキンが爆発したぞー!」

「クケ……クケケ……クケケケ……いいぞ、もっと撃て撃てー!」

 戦場は乱戦状態に陥りつつあった。そこに、セキ大佐揮下の第六艦隊が突っ込んできた。

「全艦、ミサイル戦、用意!」

 だが、セキ大佐の判断は甘かった。相手が悪かったのだ。

 ヒドラは冷静な顔でマフデトに指示を出していた。

「曲射ビームを使って、突っ込んできた奴らを痛い目に遭わせてやれ。それから、バハムート団に伝えろ。機雷をばら撒いて持ちこたえろとな……」

 「アズライール」団は全砲門を開いて即座に曲射砲を斉射した。敵の上方に向かって発射されたビームは、敵艦と「バハムート」団の質量に引かれてしだいに弧を描きはじめ、第六艦隊の頭上から降り注いだ。

 いきなり天からの洗礼を受けた艦隊は大混乱に陥った。第六艦隊は一発のミサイルも一条のビームも発射することなく、十隻以上の艦船を大破させられたのだ。

 そのとき、「バハムート」団の船が機雷をばら撒きはじめた。それは自動的に敵味方を識別して地球軍の船に接触したときだけ、ビームの火球を作り出しては、地球軍をさらなる混乱状態に落としいれた。

「バハムートは良く持ちこたえていますね……」

「だが危険が去ったわけではない……すぐに第二射だ。急げ! それから我が団が下がることも忘れるなよ」

「御意のままに!」

 「アズライール」団は後退しつつ第二射の準備がすむと、各艦が全砲門をもって再び斉射した。ビームの豪雨が第六艦隊を襲って、こんども十数隻が大破させられた。

「セキ大佐、このままでは何もせずにやられるだけです! 何か指示を! 指示をだしてください! 兵がうろたえています」

「だが、進むも死。引くも死だぞ。貴様ならどっちを選ぶんだ!?」

「は!……そのー、死であります!」

「なら突っ込め!」

「待ってください、大佐! 至急電が入っております!」

 別の通信士が息を切らせてそう報告をしてきた。

 地球軍の混乱状態は予想以上に酷かった。だが、そうした状況には我れ関せずという部隊があった。海兵隊の第八艦隊だった。

「もう少しだ。我慢しろ。突き抜けさえすれば、こっちのものだ!」

 ギュゲスも他の艦長も冷静そのものだった。

「前進、前進だー!」

「遅れた奴など放っておけ! 突撃ー!」

 第八艦隊はついに「バハムート」団を突き抜けて「アズライール」団に襲いかかった。

「いける、いけるぞ! だが……まだ距離がありすぎるな……奴らに曲射砲を撃たせるわけにはいかんのだ……。艦載機を出せ! 目標は敵の旗艦だ! 他には目もくれるな! やらせろ!」

「サー・イエス・サー!」

 幾分、意気消沈していた海兵隊員の士気が再燃しだした。

「いよいよね……アストライヤ。あたしはあなたに命をあずけるわ。小さな頃からずっと一緒だったものね。だからあたしを守ってね!」

 発艦デッキに待機していたグリークは、ハンニバル型戦闘攻撃機にキスをくれると、ヘルメットを被ってコクピットに身を沈めた。

 機首に笑っている柴犬のマークの描かれた機体は、ゆっくりと発艦位置につくと、デッキクルーが見守るなか、点滅する赤い光の中を猛スピードで滑走して、宇宙の闇へと飛びだしていった。

 六機一小隊のフォーメションが組みあがったのを確認したグリークは――

「さあ野郎ども、敵を孕ませにいくよ!」

吶喊とっかんしながら突撃していった。

 「アズライール」団が第三射に入ろうとしたとき、レーダー手が報告した。

「敵戦闘機が多数接近中です!」

「わめくな! やかましいんだよ!」

 ヒドラはそう一喝すると、

「出迎えてやれ、ゴルゴダを出せ。こっちはまだ艦隊戦をやるつもりはない。後退だ。距離をとれ!」

 すでに出撃準備を終えていた戦闘機団は、即座にゴルゴダ型戦闘機を発進させた。

 このままいくと艦載機どうしの格闘戦になる。司令部の要員は誰もがそう思った。しかし、ハンニバル隊は目もくらむような高速でゴルゴダ隊とすれ違うと反転することなく、前方にいる敵の本隊目指して突撃しつづけた。

「やるな、あの戦闘機隊の指揮官は……」

 ヒドラが感心したようにそう呟いたとき、またレーダー手がわめいた。

「魚雷です、魚雷が来ます! かなりの数です! 非常に高速の魚雷です!」

「なんだと!」

 ――どこに隠れてやがったんだ!?……これはまずいな……――。

「全力後退、後退しろ! ビームの出力も使え。とにかく後退だ! 回頭してでも後退しろ!」

「ナアム・ファヘムト! ナアム・ファヘムト!」

 「アズライール」団の艦船はそろって百八十度回頭すると、ノズルを最大噴射させて後退しはじめた。

 だが、手遅れだった。ヒドラの戦団を襲ったのは、潜宙艦の放った高速の長射程星間魚雷だったのだ。

 セキ大佐の第六艦隊は、こちらもまた寸でのところで後退していた。潜宙艦戦隊からの電信をうけて、一時退却していたのだ。もしも突入していたなら、第四、第五艦隊と「バハムート」団の混乱を煽り、自らもその渦中にはまり、漂流している機雷源に入りこむところだったのだ。

 宇宙の闇に光がともった。光が瞬いた。閃光が走った。長射程星間魚雷が「アズライール」団を捕らえたのだ。大戦果だった。発射された魚雷の本数は約三百五十本と少なかったが、その炸裂力は凄まじかった。「アズライール」団の艦船はたった一本の魚雷で轟沈したものさえあったのだ。「アズライール」団はこの攻撃で一挙に二十数隻が戦闘不能になってしまったのだ。

 そこにハンニバル隊が突入してきた。

「目標は旗艦よ! それらしき船を見つけたら、そいつをしつこく叩くのよ! それまでは一撃離脱。いいわね!」 グリークは自分の小隊にそう指示をだすと、フルスロットルで手近な敵艦目指して突っ込んでいった。ハンニバル隊は凄まじい対空砲火に迎えられた。だが、グリークの乗った<アストライヤ>はコンピューター制御で的確に砲火を避けながら、敵艦に肉薄するとビームを連射して離脱した。そしてまた次の船に肉薄していった。

 その機動は人間業ではなかった。人の反応速度を遥かに凌ぐハイスピードエスケープには慣れが必要だった。自分に向かって飛んでくる、ビームに対する恐怖心を克服しなければならなかったのだ。

 むやみに――ヤバイ! やられる!――と思って操縦桿を動かしたときには、すでにハイスピードエスケープが作動しているため、かえって自らビームに飛び込みかねなかったのだ。しかし、グリークはそれには慣れていた。

 それゆえ、縦横無尽に飛び交う砲火を全く気にせず、ひたすら敵艦めがけて肉薄を繰り返したのだった。かといって、グリークの技術が低劣だったわけではなかった。編隊が互いに援護しあいながら、高速で次々と目標を変えて肉薄するには、高度な判断力が要求されたのだ。

 グリークの戦いぶりは鬼神のようだった。しばらくして現れた、敵のゴルゴダ隊との交戦がそれを証明してみせた。

「二番機、左上にいるわよ。気をつけて!」

「アイアイ・サー!」

「隊長、下です、した! 死角にいます!」

「アイサー!」

 グリークは男でも失神するような半径でスプリットS機動を取ると、敵機の正面からビームを浴びせて火の玉を作った。

「旗艦、旗艦はどこよ? こいつらと遊んでる場合じゃないのよ!」

「左きます!」

「アイサー!」

「隊長、俺がやります。こいつにはさっき撃たれた恨みがあるんです!」

「さっさと、かたずけてちょうだい!」

 五番機の銃口からビームが迸ると同時に敵機は火球になった。

 上下左右、どこを見ても光条と火球だらけだった。

「やりおるな。地球軍め……ここまでやるとは思っていなかった……」

 ヒドラはモニターと虚空と窓外の戦火を見やりながら、思案していた。

「マフデト、全戦団に伝えろ。全力後退しろとな。なにがなんでも逃げだして、D4エリアに集結せよ――とな……」

「ははー。おおせのままに……」

 マフデトは苦虫を噛み潰したように悔しそうな顔をしていた。

「……待て。離脱時の超光速航行も許可する。そう伝えろ」

「御意のままに……」

 聖戦団は我先にと逃げ出しはじめた。そこには団形や陣形といった統制など何ひとつなかった。

 グリークは敵の艦船の間隔が開いてゆくことを敏感に感じとると、敵戦闘機との格闘戦を避けて僚機とともに旗艦の姿を探しはじめた。

「駄目ね……戦域が広くなりすぎているわ。隊を分けましょう。ジャンヌⅠはAからDエリア、ジャンヌⅡはEからHエリアを捜索。いいわね!」

「アイサー!」

 各機は返信しながら二手に別れた。

「ようやく対空砲火が収まってきたわね……」

「いました! 多分あれかと……。ツァオベラー艦にしては洗練され過ぎてますからね」

「どこ? どこよ! エリアを言って!」

「C5です。C5、C5―2です」

「見えた、見えたわ! ジャンヌⅡ、ジャンヌⅡ、こちらジャンヌⅠ。目標を発見。奴はC5にいるわ。早く来てちょうだい!」

「アイアイ・サー!」

 グリークは叫ぶように命令すると、絞っていたスロットルを全開位置に押し進めて、敵艦に向かって突進した。

 ――あの船……見たことがあるような気がするわ……。DOXAの船に似てるのよね……――。

 猛スピードで接近しながらも、グリークは艦首から艦尾までをじっくりと眺めて、艦橋らしき部分を見つけだすと、スロットルにあるニトロのボタンを押し込んだ。

 グリークは失神するほどの強烈な加速度に耐えながら、照準器で捉えた艦橋を睨んでいた。怖ろしい早さで艦橋が近づいてきた。

「いっけー! これでも喰らえー!」

 グリークの叫びとともにビームが連射された。

 ――!!――

 ヒドラは強い閃光を網膜に感じた瞬間、何かが体にぶつかったことに気づいた。刹那、弾かれるようにソファーから投げ出されて床に倒れてしまった。

 マフデトだった。黒フードの男が体当たりをしてグリークの放った銃火から、ヒドラを救ったのだ。

 焦げ臭いにおいが艦橋に漂っていた。ソファーが燃えだしていた。

「おい……火を消せ……お前だ、お前。ボサっとするな……」

 ヒドラに覆いかぶさったまま床に倒れ、苦しそうな声で指示を出していた、マフデト目掛けてまた閃光が走った。

 グリークに遅れて艦橋に肉薄した、三号機が放ったビームだった。

 肉の焼ける臭いがした。立ち込めた白煙が薄らいでゆくと、マフデトの両膝から下が無くなっているのが見えた。

「おのれー!! 覚えておけよー!!」

 ヒドラは憤怒を込めた声を吐き出しながら、窓の外に視線を走らせた。

 敵の戦闘機の姿はどこにもなかった。

「ちっ! ここまできてエネルギー切れだなんてね……ついてないわ……」

「そうでもないでしょう。一発ぶちこんでやったんですからね」

「いいえ、二発よ! あなたもぶちこんだじゃない」

「二番機が被弾しなければ、もう一発ぶちこめたわ……」

「あれは事故だ。あんなとこに機銃座があるなんて思ってもいなかったんだ」

「けど、二発はぶっこんだ。野郎きっと孕んださ!」

「いいや、せいぜい押し倒して服を引き剥がした……そんなところよ。女をそんなに甘くみなでよ!」

「隊長にはかなわんな……女にしとくのが勿体ないですよ……」

「あはは……。さ、ジェントルマンはあたしをエスコートしてちょうだい。送り狼が来ないうちに帰還するわよ!」

「アイサー! プリンセス!」

 第四、第五艦隊と「バハムート」団はようやく混乱から脱して、両勢力とも統制のとれた艦隊戦を展開していた。青いビーム、赤いビームが突き進んでは互いを焼きあっていた。そこへ第六艦隊が奇妙な増援部隊を引き連れて加勢してきた。

「おい、なんだあれは?」

「待ってください、いまスクリーンに拡大します」

「大佐、DOXAの連中は何をする気ですか?……」

「さあな……」

 二十隻のDOXA隊は、どの船も船体の周囲に、岩塊をリング状に纏っていた。反重力装置の発生方向を逆転させて小惑星帯から岩を運んできていたのだ。

「まあ、お手並み拝見といこう……」

 先頭をゆく黄金色の<スペランツァ>号は、スピードをあげて敵艦に向かうと、突如岩塊を猛スピードで前方に飛ばした。反重力装置の発生方向を正転させて、加速された岩塊の二割ほどは見事に敵艦に命中した。戦闘艦はビームの熱に焼かれても簡単に沈まなかった。だが、岩塊には無防御だったのだ。どんなに熱対策が高い船であっても物理的衝撃にはなす術を持たなかったのだ。

「<アイレース>号、そらいけー!」

 <アキレウス>号の姉妹艦が前進して岩塊を投げ出した。すでに<スペランツァ>号からの一撃を喰らっていた敵艦は、船体を中央部から切断されてしまった。DOXA隊はこの戦いで、非武装ながら敵艦三隻をしとめてみせたのだ。智恵ある勝利だった。地球軍の勝利だった。聖戦団の「バハムート」団は壊滅し、「アズライール」団も戦力の三割を失ったのだ。

 どんなに分の悪い戦いでも、戦力の四割を失ったことがなかったヒドラからしたら、それはまさに惨敗といえた。地球軍と聖戦団の戦力比、六対四。地球軍の損害、おおよそ八十隻。聖戦団の損害、約百二十隻。双方の人的損害は甚大だった。死亡、負傷、行方不明、その総数は約九万人にも及んだ。

 皮肉にも、艦隊司令官であるセキ大佐の遠い祖先がおこなった無謀な作戦として知られる、インパール作戦に投入された日本軍の動員数に匹敵する人命が、わずか数時間で失われたのだ。

 親兄弟や親戚、そして子供を亡くして悲しみに沈んだ人々が、一体どれくらいいたのか。そうしたことが集計されることはなかった。

 だが、これもまたセキ大佐の祖先たちが設立した自衛隊で考えて見ると、おそらく事務経理などを含む、全ての自衛隊員数以上の人々が深い悲しみに暮れた、といえるかもしれなかった……。

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