第13話 さっさとガキを作れ!
ギガンテス――巨漢であったり、大きな体躯の持ち主である男と女は、それぞれにその体格を利したり、そのことで苦労したりしてきた人々であった。その一人、ミマースは宇宙と戦争の最前線で戦う海兵隊というものの性格をよく知っていた。個性的で独善的な部隊。それゆえに世間からは「命知らずの野蛮な連中」とそう蔑まれていた。しかし、ミマースは充分に海兵隊の戦力と覇気を知っていた。それを証明するように、アポロ作戦以降、海兵隊の装備と戦力を徹底的に見直して部隊の整備拡充に努めていたのだ。
「いったい何のつもりだ? 俺はお前に借りをつくるおぼえはない!」
はじめ、ギュゲスはミマースの行動を訝しんでいたが、その戦力に海兵隊直轄の超光速救護輸送隊が新設されると、ミマースへの態度を軟化させはじめた。
「正直にいえば、俺はお前に借りがある。そのことを忘れたことはない。だが、お前も俺に借りがあるはずだ。それを憶えているか?」――と言ってよこしたのだ。
ミマースはモニターに映った冷たいデジタルの文字を読んだとき、不思議に温かい気持ちに包まれた。ギガンテスゆえに素直に感情を表現できない。その文字に彼自身の一側面を垣間見た気がしたのだ。
――酋長も俺も何も変わっちゃいない。ええ、気づいてましたよ。あのとき酋長が急所を外して俺を撃ったことにはね……。けど、俺はまだ納得してないんですよ。トアス……。俺はあんたが自分の気持ち白状するまでは、「元通りだ!」といって握手はしませんよ……俺だって頑固なんですよ――。
その海兵隊の旗艦<コンステレーション>には艦載機部隊が搭乗していた。
高速度と高機動力を利して敵艦に肉薄して砲座や重要な機械部分に猛然と打撃をくわえる。海兵隊の恐るべき悪漢たち――デビル・ブルドック――そう敬意を表されるほど、彼等の任務は過激だった。荒くれ者の巣窟、そこに一人の女がいた。長く赤い髪を無頓着にのばしたまま船内や艦載機デッキをうろつく姿は男たちの中に潜む獣性を刺激した。だが、彼女はそんなものには目もくれず、男たちを適当にあしらっていた。
「おい、お前、どこの隊だ?」
ギュゲスは船内の廊下で見かけた、まだ若い赤毛の女になんとなく声をかけた。
「は! 自分は強襲揚陸艦、ワスプのVMF-242所属であります!」
「そうか。その部隊は精鋭中の精鋭だ、だがお前はまだ精鋭ではないようだな……」
「いいえ! 精鋭であります!」
赤毛の女は淡褐色の瞳に力を込めて敬礼したまま返答していた。
「いいや、貴様はクソだ! なんだその敬礼は!」
「は! 申し訳ありません!」
「おいクソッタレ! 名前はなんだ?」
「グリーク・メア伍長であります!」
ギュゲスは身振りで手を下げろと伝えると、語気を弱めて女の顔をキッっと睨んだ。
「その身なりからすると伍長か。クソはクソなりに頑張っているようだな。だが貴様、新兵だろう?」
「はい! クソッタレ新兵であります!」
女は直立不動の姿勢のまま声を張った。
「いいか、クソッタレ、良く聞け! 実戦は過酷だ、死ぬなよ!」
「サー・イエス・サー! ドゥー・オア・ダイ! であります!」
ギュゲスは目の前にいる女と自分の娘の姿を重ねていた。
「貴様、俺のいったことが本当にわかっているのか!!」
「サー・イエス・サー!」
ギュゲスは自分の娘と近い歳をした女が、これから命を落とすかもしれないという、戦争に対する怒りをぶつけるかのごとく、炎のような怒声で赤毛の女を叱咤した。
「…………」
グリークは軍に入ってはじめて失禁するほどの激烈さを味わっていた。しかし、鋭敏な彼女の感性はそれが自分にたいする厳しいまでの慈愛であることを嗅ぎとっていた。
「俺が何といったか言ってみろ!!」
「は! 死ぬなと申されました!」
ギュゲスはグリークのはち切れんばかりの気迫をみて目を細めて声を和らげると、
「俺はそんなことは言っていない。さっさとガキを作れ! そういったんだ」
といって頬をゆるめた。
グリークは何と答えるべきかと戸惑っていたが、思ったことをそのまま叫んだ。
「は! ありがとうございます、大将! さっさとクソッタレを増産します!」
ギュゲスは白い歯を見せてから、グリークの背中を力強く叩いて彼女を認めたことをそれとなく示してみせた。
「では、さっさとかかれ! だがな、俺は大将ではない。少将だ。……まあいい、階級よりクソッタレの増産のほうが大事だ。ではまたどこかで会おう……グリ伍長。忘れるなよ! さっさとかかるんだぞ! いいな……」
グリークはうろ覚えだった階級のことを、もごもごと言い訳していたが、ギュゲスはそれを聞きもせずに、さっさと通路を先へと進んでいってしまった。
その一時間後、再編なった海兵隊は作戦に参加すべく、集結地であった宇宙ステーション<アメリカ>を後にした。銀色の船体に赤と青のラインが描きこまれた艦船が、群れをなして宇宙の闇を切り裂いていった。地球軍最強の呼び声たかい第八艦隊が、木星軌道の小惑星帯に姿を見せたのは、それから三時間後のことだった。




