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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第1章 生と死――秩序と怨念
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第1話 ユピテール激怒す

 その紅い瞳には怒りがあった。男達の起こす戦争に対する怒りが、業火のように燃えていた。ブラックグリーンの髪は照り返しをうけて、明るい茶色にさえ見えた。細く長いカーリーヘアーは、まるで彼女自身の怒りによって縮れてしまったようだった。

 ネバダ州にある技術研究施設、バベルの塔がDOXA(ドクサ)の本部となってからすでに十年の歳月が流れていた。

 すっかり大人の女性となったユピテールは、その色気とはかけ離れた甲高い声で銀白色の髪をした青年に喰ってかかっていた。

「なぜ今なのよ? 確かに状況はかんばしくないわ。でも、あたしはきちんと報告したはずよ。もうあいつらに危険はないって。軍はいったい何を見て作戦を決めたのよ」

 灰色の地に白と黒で文様が描かれたゴシック調の壁に囲まれた最高会議室に置かれた執務机には、一人の青年が大きな背もたれのある革張りの椅子に座り、じっとユピテールの声に耳を澄ましていた。

 視線は部屋の天井にまで届いた彫像と一体化した柱にそそがれていた。バイオレットの瞳には強い意志があった。かつての少年時代の面影はそこにはなかった。銀白色のまっすぐにのびた髪は耳に被さる長さで切り揃えられていた。

「あたしはこの半年、死にもの狂いでやってきたのよ。そうよ、戦争がはじまってからね。何としても、あたしのこの手でできることはやるって決めたの。実際にそうしてきたのよ。なのになぜよ……。ひょっとしてあなた、軍に何か入れ知恵でもしたの?」

 トロイヤの頭脳は高速で稼働していた。

 ――DOXAには軍の意向に反対する権利はない。僕たちが技術提供と情報提供を踏み越えるべきでないんだ。このことはDOXA開設以来のポリシーでもあるんだ。時には組織防衛の面で干渉したことはある。しかしそれは軍の作戦自体に対してではないのだ。だが彼女はそれを望んでいる……。どう話せば彼女は納得してくれるんだ?

「ちょっと、ちゃんと聞いてるの? 何とかいいなさいよ!」

 トロイヤはユピテールの怒りが頂点に達したことを悟った。

「ユピ、君の気持ちはわかるよ。でもこれは縄張りの問題なんだ。僕らが口出しできる範囲を超えてるんだ」

「誤魔化さないでちょーだい! あたしが聞きたいのは、そんな社交辞令じゃないわ。あなたの気持ちよ!」

 ユピテールが勢いよく執務机に手をつき、髪が揺れて素肌から香水パヒュームが放つ月桂樹ローレルの香りが漂った。スーツの下に着た胸元の大きくひらいたシャツがたるんで、レースの下着が見えていた。

 トロイヤには彼女の目を真正面からみる勇気がなかった。半ば無意識に薄紫色の下着とそれに包まれた透けるような白い肌を眺めながら口を開いた。

「僕の気持ち? 決まってるじゃないか。君となにひとつ変わらないよ。僕だって戦争なんて望んでなかった。……でも、戦いがはじまってしまった以上、勝たなければいけない。そうだろう? そのための協力は惜しんできたつもりはないよ。だからって軍に干渉することはできないんだ。わかってくれよ、ユピ……」

「兄さんは何もわかってないのね……。あたしは負けたっていいって思ってるのよ。そうあたしは負けたの。もう十年も前のことだけどね。あたしはあなたの小さな軍隊にここに乗りこまれて負けたの。膝を屈したのよ。悔しかったわ……あんな屈辱的な思いを二度としたくない。そうも思ったわ。……でもね、人は負けても立ち上がれるのよ……でもどうよ、今回の作戦は? きっと多くの人命が失われるわ。もう力を失って抵抗すらできない人達が意味もなく殺されていくのよ……。あたしはね、それが我慢できないのよ……」

 トロイヤは彼女の話を聞いていなかった。止むにやまれぬ衝動に打たれて、ユピテールの激情とともに揺れる胸元をただ眺めていたのだ。

「…………」

「ちょっと、聞いているの? 何かいいなさいよ!」

 自分の視線のありかに気づいたトロイヤは、体の火照りを抑えたい一心で呟いた。

「もう勘弁してくれ……僕にはこのあと大事な予定があるんだ。時間がないんだよ。今日はここまでにしてくれ……」

 溜息とともに、月桂樹ローレルの香りが強まった。

「わかったわ……。でも作戦実施日までにはまだ余裕があるわ。……また話を聞いてもらうわ……」

 ユピテールはそれだけいうと、踵を返してヒールの音を響かせながら執務室を出ていった。

 ――一体何だったんだ? あの気持ちは……。血がドクドクと流れて落ち着かなかった。僕はどうしたっていうんだ? ユピは妹だ。なぜあんな眼でみたんだ……。僕がユピを愛してることは確かだけど……それとは違う……。駄目だ……あんな感情を抱くべきじゃないんだ。

 しかし、トロイヤの脳裏には、雪のように白い肌が作りだした、ふくよかなふたつの膨らみが、心地よい高い声が、月桂樹ローレルの香りが焼きついたまま離れなかったのだった。

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