第九十四話
今日は運命の開戦日です。
「……まさかヒトラーが暗殺され、三代目総統がロンメルとは……思いもしなかったものだな」
会合で宮様はそう呟いた。
「ドイツも漸く落ち着きを取り戻そうとしています。大島大使が同盟の再締結を目指していますが……」
「難しいところだな。マスコミが外務省経由で情報をリークして国民に知らせたからな」
マスコミはたまたま外務省の官僚が口を滑らせていたのを危機逃さなかった。それ以前にも政府自体が慌てていたため何かあると踏んで張り込みをした結果である。
マスコミが同盟破棄を公表して国民感情は反独の勢いが増していた。政府は慌てて同盟破棄は向こうの手違いだと説明したが国民感情の爆発は止まる事を知らず、マスコミが煽動していた。
国民は連日騒いでいたが、三代目総統に就任したエルヴィン・ロンメルからの謝罪メッセージと新たに同盟締結の連絡が来て漸く落ち着きを取り戻したのである。
マスコミはドイツを非難し続けたが国民の視線は別の物に向けるのであった。
「ドイツは軍事同盟ではなく、技術提供の同盟を結ぼうと言っていますが……」
「それなら構わないだろう。何とか国民感情も逸れる可能性があるな」
ドイツも流石に日本を敵に回したくない。技術同盟は直ぐにベルリンで締結された。
そしてドイツ……ロンメルは宣言した。
「我がドイツは大戦を始めた責任がある。なら大戦を終わらせる責任もまたある。余は此処に世界規模の即時無条件停戦を勧告する」
ロンメル総統はベルリンでそう演説した。また宣伝相のゲッベルスは映像を加工してある映像を作った。
「無論、反対する国々もあるだろう。だが我がドイツはロンドン、ローマ、トーキョー、ワシントンを攻撃して滅ぼせる爆弾と長距離秘密兵器を保有している。なお、全て通常火薬にあらず。兵器の概念を打ち破る反応弾である」
ロンメルは事実上、核兵器のと長距離弾道弾の保有を宣言した。しかし、これは全くのブラフ(嘘)である。
だがこの宣言は世界を驚かせた。
「ドイツが核兵器を保有だとッ!? 奴等が核兵器を作れる筈がないッ!!」
「しかしプレジデント。現にドイツは長距離ロケットと思われる映像を公開しています。しかも映像では百基を越えると思われます」
「そんな事は分かっているッ!! 我々もマンハッタン計画を急がせているのに何故ナチスが核を持てるのだッ!!」
ルーズベルトはホワイトハウスで激怒していた。
「ですがプレジデント。世論は停戦に傾いています」
「ぐぐぐ……」
ルーズベルトは机を叩いて椅子に座る。
「やむを得ん……か」
ルーズベルトは悔しそうに呟いた。ルーズベルトは世論を上手く誘導しようとしたが勝ち負けがハッキリしない国民はルーズベルトに不満を持ち始めた。
焦るルーズベルトはラジオを通して国民に呼び掛けてアメリカは勝利した事を主張したが、それを否定した者がいた。
「我がアメリカは残念ながらジャップに負けている。その証拠に我がアメリカはフィリピンを取り戻してないからだッ!!」
否定した者はダグラス・マッカーサーである。フィリピンの独占的支配をしていたマッカーサーはフィリピンを取り返していないのは気に食わなかったのだ。
マッカーサーの発言にマスコミは取り上げてこぞって国民はルーズベルトを批判したのである。
「おのれマッカーサーめッ!! 敗北者のくせに私に楯突こうとする気かッ!!」
ルーズベルトは怒り狂い、陸軍はマッカーサーを予備役に編入したが国民はルーズベルトの批判を納めなかったのである。
そんなルーズベルトも最期はツキが無かった。政務中にルーズベルトは心臓発作で倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
民主党は直ぐに大統領の人選を始めたが難航を極めた。
副大統領にウォレスがいたが、トルーマンを押す声もあった。
結局、暫定の大統領としてウォレスが就任してトルーマンは商務長官に就任した。
暫定大統領に就任したウォレスは停戦に賛成し、ドイツの停戦に応じた。
ドイツも交渉の場として中立国のスイスを指定した。日本やイギリス等の国もスイスの指定に賛成して各国の代表が集結する事になった。
「我々は……山本と堀、重光に吉田の四人を出すか」
「山本さんは総理ですから大丈夫でしょう。堀さんには加藤のような論弁を期待しましょう」
「あまり期待をしないでくれよ楠木君」
日本側は山本総理を首班にした代表を送り出す事にした。これは他の国々でもそうであり、アメリカやイギリスもそれぞれウォレスとチャーチルが、ドイツとイタリアもロンメルとムッソリーニが停戦のテーブルに参加した。
停戦会議場のスイスは俄に忙しくなり始めた。
そして時は流れた1944年一月十五日、スイスのジュネーブで世界各国の首脳陣が集まり停戦会議が開始された。
「ドイツが占領した地域は撤退するのかね?」
「基本的には撤退する。ただし、ドイツと同盟を結ぶ国には軍の交流のためにある程度の駐留はある」
チャーチルの指摘にロンメルはそう答えた。ロンメル自身は撤退をと考えたが、ヒムラー等の反対もあり連隊規模の駐留という事になった。
「フランスはどうするのかね? 亡命フランス政府が黙ってないぞ」
「フランスの正当な政府はヴィシー政権だ。亡命フランス政府は、フランスを脱出した所謂裏切り者の政府だ。無論、フランスからは全て撤退するので亡命フランス政府が抗議しても我々には何ら問題は無い」
ロンメルはそう答えてド・ゴールを首班とする亡命フランス政府を真っ向から否定した。
これは日本やイタリア、枢軸国側も同じであり真っ向から否定した。
チャーチルとウォレスも否定に渋々と承諾してド・ゴールの亡命フランス政府と切る事にした。
そして二人は山本に視線を向けた。
「日本はどうするつもりですかな?」
「我々としては今の状況が良いですが、貴国の元帥がフィリピンを返せと言ってますがな」
アメリカのマッカーサーは日本とフィリピンの返還交渉をしていたのだ。
「我々としては開戦前の状態に戻すのが妥当だ」
「石油や鉄屑を禁輸されたままですかね? 禁輸されたままで開戦前に戻せというのは我々に死ねと仰るのですか?」
「………」
吉田の指摘にウォレスを黙った。日本には出来るだけ譲渡しないつもりでいたが、停戦を主張する国民の前では耐えるしかないとウォレスは判断した。
交渉結果として日本は北部太平洋はアッツとキスカ島、中部太平洋のウェーク島、南太平洋はニューギニア島やニューカレドニア等、ビルマ等から撤退する事になった。
アメリカはフィリピンからの撤退を望んだ。山本もそれに応じたが、返還はフィリピンに構築した防衛線を撤去若しくは破壊してからとなった。
ともあれ、停戦は二月一日から効果を発揮する事になり日本は僅かな平和を堪能する事になったのである。
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