第九十三話
急変とはまさにこの事ですね。
時間は午後七時。何時もの料亭に将裕を抜いた何時もの面々が揃っていた。
「……それで前田少佐、三人の様子はどうかね?」
「は、何時も通りの様子ですが時おり自室で泣いております」
「ふむ……三人が自殺してはならんぞ?」
「は、周りの家には我が陸軍の者が見張っていますので自殺の行為があれば直ぐに取り押さえる予定です」
前田少佐はそのように報告した。何時もの面々は霞達三人の心配していたのだ。
「全く……河内……楠木には困ったものだな」
「その楠木ですが……随分と謳歌しているようです。例えば髭を生やしました」
「ほぅ、髭を生やしたのか?」
「はい。『格好いいだろ?』と……」
「……あやつは鈍感だな」
永田局長の言葉に全員が頷いた。
「三人からの視線に気付いていなかったのかね?」
「は、どうやら気付いてないようです。将裕から以前聞いたのですが、オタクは未来では肩幅が狭いようです。気持ち悪いとか……」
「気持ち悪い……か」
「人の趣味だろうが……」
一同は揃って溜め息を吐いた。
「兎に角だ。早めにあの四人を何とか修復させるぞ」
「判りました。バケツ何杯ですかね?」
「百は行くんじゃないかね?」
一同はそう話していた。そして集合時間の九時になり、髭を生やした将裕も出席した。
「中島飛行機は連山の生産を集中していますが、恐らく半年で四十機程度になるかと思います」
「それは仕方なかろう」
「海軍ですが海護用の海防艦鵜来型が進水しました。爆雷も全て新型の三式爆雷投射器と二式爆雷を混合で搭載しています」
「是非とも船団を守って下さい」
「お任せ下さい」
東條の言葉に堀は頷いた。
「ところで……GF長官は何時まで続ければ……」
「……そうだな……」
通常、GF長官の任期は二年であったが堀は約三年近くも勤めていた。
「降りるにしても後釜は誰にするのかね?」
「私としては豊田副武が適任かと思います」
「豊田か……」
豊田副武はこの時、伏見宮の海上護衛隊の参謀長をしていた。
「小沢や山口だと若すぎるので、豊田くらいならと……」
「ふむ、それで堀は軍令部総長か」
軍令部総長は永野修身が就任していたが、この頃、病を煩っており政務が滞っていたのだ。
宮様は堀をGF長官から軍令部総長に構えようとしていたのだ。
「楠木はどう思うかね?」
「……自分としても適任だと思います」
将裕も問題は無いと思った。他の参加者も賛成をしており、その後海軍省の会議の結果、堀の後釜は豊田に決定した。
「それと次期作戦なのですが……」
「次期作戦かね?」
「自分はハワイ攻略を具申します」
『ッ!?』
将裕の言葉に参加者達がざわめいた。ざわめいた参加者達を宮様が制して将裕に視線を向ける。
「その理由は何かね?」
「連山の運用がある程度整ったのとB-29対策です」
将裕は太平洋の地図を拡げた。
「我々はウラジオから敵爆撃を受けていますが、大半はB-17やB-24でB-29はまだありません。B-29を投入すればソ連に見られるのでウラジオから投入する事は余程の事が無い限りは大丈夫です。問題は南からです。マーシャル諸島はまだ敵の支配下にあるので此処にB-29を配備すればトラックやマリアナは壊滅的被害を受けます。なのでハワイを攻略すれば奴等はB-29を太平洋に投入するのが難しくなります」
「ふむ、だがマーシャル諸島はどうするのかね?」
「史実のマッカーサーを真似て飛び石しましょう」
「飛び石……攻略はしないのかね?」
「しません。奴等の補給路を叩いて史実のガ島のように飢えに苦しんでもらいます」
マーシャル諸島は未だにアメリカが占領していたが、伊号潜水艦や呂号潜水艦等の通商破壊により補給は途絶えがちであった。
そのためアメリカには大規模な輸送船団を送る計画が存在していたのだ。
しかし、アメリカもそうだが日本にも驚くべき情報が入り込んできたのだ。
――東京、一月三日――
三が日目に首相官邸にある情報が入り込んできた。
「や、山本総理大変ですッ!!」
「どうしたのかね?」
「ヒ……ヒトラーが……」
「まさかドイツが同盟を破棄したのか?」
「違いますッ!! ヒトラーが……暗殺されましたッ!!」
「何ッ!?」
山本は報告に唖然とした。
「ヒトラーが……暗殺された……だと?」
「は、はい。詳しくは此方の書類に……」
秘書官はそう言って部屋を退出した。報告書を一目した山本は直ぐに交換台に繋げて宮様達を集める事にした。
「ヒトラーが暗殺ッ!? それは真かね山本君ッ!!」
「真です宮様。既に確認が取れています」
何時もの料亭で何時もの面々が揃っての会合である。将裕達はヒトラー暗殺に俄に信じられない出来事だった。
「線路爆破の脱線事故……恐らくはゲリラか反ヒトラー派ですね」
ヒトラーは列車でパリに向かっている途中だった。ヒトラーは中東方面に乗り出したがまだアシカ作戦の事を機にかけており、その作戦指導のために列車でパリに移動していた。
それを誰かがフランスのレジスタンスに告げ口をして線路に爆弾を仕掛けて、列車が爆弾を通過する前に爆破して脱線させた。
ヒトラーは脱線した列車の中で即死していた。死因は頭を強打した事によるものだった。
首班を失ったドイツは大慌てだった。ヒトラーの死亡はドイツ国民には直ぐには知らされず、まず後任を探す事になった。
後任は直ぐに見つかった。ドイツNo.2のヘルマン・ゲーリングだ。
ゲーリングは総統の座に就任するとヒトラー死亡をドイツ国民に知らせる前にゲッベルス達を集めてこう告げた。
「日本との同盟を全て破棄するのだッ!!」
ゲーリングは自分が再建した空軍にライセンス生産した日本機がいる事に前から気に食わなかった。(ゲーリングが採用したのは前から気に食わないミルヒが採用反対しており、それを逆手にとったのだ。本来ならゲーリングも採用する気は無かった)ドイツ空軍がその気になれば重爆撃機や雷撃機は十分に開発出来ると判断してそう告げたのだ。
これに慌てたのがドイツ海軍と自分が再建した空軍だった。海軍は日本から艦艇や高角砲等の提供を受けており切っても切れない存在だったのだ。
空軍も同じであり、シュトゥーカの後継機として流星を使用しており瞬く間に両軍が反対したがゲーリングはそれを押しきって大島大使を呼びつけて同盟破棄を宣言したのだ。
「このままでは日本とも戦う羽目になる……」
敵が増えるのは好ましくないと悟った親衛隊長官のヒムラーはゲーリングを自宅軟禁にした。しかも御丁寧にゲーリングが使用しているモルヒネも取り上げた。
後にこのモルヒネを取り上げた事によりゲーリングにある変化が起きるがそれはまた後日。
兎も角、ゲーリングを自宅軟禁にしたヒムラーやゲッベルス達は新たに総統の後継者を探してある男を見つけた。
その男の名はエルヴィン・ロンメル元帥。ゲーリングと同じく国民から人気があったドイツ国防軍の将軍だった。
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