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第九十話






 前田家を後にした将宏だったが既に時刻は夜中の一時を指していた。


「……仕方ない。水交社に行くか」


 将宏は水交社へ向かった。受付は深夜の来訪に驚いたが直ぐに将宏を部屋に通してくれた。


「たまには飲むか」


 将宏はウィスキーを出して飲むのであった。




「河内少佐ッ!! 朝七時ですッ!!」

「ぅ……」


 若い兵士が将宏を起こしにきた。


「……悪いけど水を一杯頼むわ。頭痛い……」

「は、分かりましたッ!!」


 飲んでいた将宏は完全に二日酔いをしていた。


「朝から大声はきついっつぅの……」


 水を飲んだ将宏は身支度を整えて朝食をとって受付に礼を言って水交社を後にした。


「……風が気持ちいいなぁ……」


 将宏は徒歩で海軍省に向かい、朝の風を受けながらそう呟いた。





――海軍省――


「それでフラれたと?」

「いや別に付き合ってはないんですが……」


 宮様の言葉に将宏はそう反論した。


「全く……もっと上手く説明しておけ」

「説明下手なんですよ」


 海軍省に設けられた海上護衛隊司令部(通称海護司)で将宏は司令長官の伏見宮と話していた。


「それで石原大尉はどうするのかね? 流石に今のままで副官を勤めるのは難しいだろう?」

「そうですね。副官から横空の訓練兼テストパイロットにしてもらいますよ」


 将宏はそう言った。


「それで暫くは水交社で暮らすのだろう?」

「はい。会合の場合は水交社に電話か連絡してくれたらいきますので」

「分かった。他の奴等にもそう伝えておこう」


 伏見宮はそう言った。


「それと……呂号潜と新型伊号潜の建造はどうなってますか?」

「既に三十隻が建造中であり、十二隻が竣工して戦線に配備されている」


 日本海軍は艦隊決戦に潜水艦を投入するのは当の昔に捨てており、通商破壊に専念するようにしている。

 酸素魚雷の性能もあり、戦果は拡大している。だが、伊号潜の旧式は既に限界を越えておりその代わりに投入したのが呂号潜だった。

 中型の呂号潜は航続距離は短くなったが、日本軍はミッドウェー島を占領している事もあって今のところは問題なかった。

 また、伊号潜も新たに新型艦の建造も行われていた。新型艦は魚雷発射管六門、連装対空機銃二基、水中最大速度十六ノットと少しの性能は向上している。

 既に二五隻の同型艦の建造が計画されて、七隻が建造中であった。

 伊号潜は伊三〇〇型と命名している。


「この呂号潜と新型伊号潜で何とかしないといけないな……」


 伏見宮はそう呟いた。


「旧式艦が多いですからねぇ」


 将宏はそう溜め息を吐いた。


「第一次大戦時に日本は欧州に艦隊を派遣してUボートと戦ったはずなのにそれを軽視してしまった我々の責任だな」


 伏見宮はそう言う。


「それは仕方ありません。当時の日本はまだ日本海海戦の影響もあった事ですし……」

「それはそうだがな……」


 伏見宮はそう言って注がれていた御茶を飲む。


「艦艇が揃うまでアメリカが仕掛けてこない事を祈るよ」

「……絶対に無理ですね……」


 将宏は再び溜め息を吐いた。


「それと宮様、御願いがあります」

「ん? 何かね?」

「はい、実は……」


 将宏から発せられた言葉は宮様にとって驚くべき事であった。




――横須賀基地――


「真希波、入ります」

「おぅ」


 司令室にヒルダが入る。


「実はお前に辞令が来ている」


 市丸少将はそう言って紙を渡した。


「……自分をマサヒロの副官から横空の訓練兼テストパイロットにするんですか?」

「あぁ。上からの命令だ」

「……マサヒロが言ったんですか?」

「あぁ。河内少佐はもう君らとは会わないそうだ」

「ですがッ!! マサヒロは私達に……」

「携帯電話を見せられても河内少佐が未来人だとは信用しなかったのかね?」

「携帯電話? 何ですかそれは?」

「……ちょっと待て。河内少佐は君らに携帯電話を見せなかったのかね?」


 話が食い違う事に気付いた市丸少将はヒルダにそう聞いた。


「はい。ただ話だけですが……」

「……それはそうなるな……」


 市丸少将は溜め息を吐いた。


「携帯電話では河内少佐が来た当時から所持していた物だが……今度技研から回しておこう」

「はぁ」

「ま、修復は自分らで頑張るようにな」


 市丸少将はそう言った。




 しかし一ヶ月後、事態は急変した。




「……はぁ……」


 前田少佐は自宅の前で溜め息を吐いた。


「将宏め……俺に酷な事をさせるものだな」


 前田少佐はそう言って身支度を整えて玄関の引き戸を引いた。


「……お帰り兄上」

「あぁ……霞、ヒルダとタルノフを呼んで居間に来てくれないか?」

「? 判った」


 何時もと様子が違う前田少佐に霞は不審に思いつつも頷いて二人を呼んた。


「それで、どうかしたのか兄上?」

「……三人とも、心を落ち着かせてこれを見てほしい」


 前田少佐はそう言って霞にある一枚の通知書を渡した。

 霞はそれを受け取って通知書を破り、中の紙を一目した。


「……ッ!? あ、兄上……こ、これは……」

「なんだ? 何か書いてあるのか?」


 ヒルダは霞から紙を奪い、ライサと共に一目した。そして二人とも目を見開き、紙を持つ手が震えた。

 同じ頃、陸海の上層部は何時もの料亭に集まっていたが大半の人間は驚いていた。


「そんな馬鹿な事があるのかッ!?」

「海軍さんはこの事を知っているのかッ!?」

「私達も先程聞いたばかりだ。俄に信じられんがな……」


 将官達が騒ぐ中、宮様だけが目を閉じ何も言わなかった。


「……宮様、何か知っていますな?」

「……無論だ。むしろ私は彼から聞かされた人間だ」

『………』


 将官達は騒ぐのを止めて宮様の言葉を聞いた。


「……これは彼が望んだ事だ」

「しかし、これでは彼は……」

「……最初からその覚悟はしていたようだ」


 宮様はそう言って一枚の通知書を見た。その中身には河内将宏が飛行機で移動中に乗機がエンジントラブルで洋上着水を敢行したが高波に被られて機体は水没、全員が戦死した事が書かれていたのだ。





御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m

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