第八十一話
――九月十五日、0700佐渡島――
佐渡島には海軍の電探基地と陸軍飛行隊が進出していた。
その電探基地の電探が大編隊を示す反応を出した。
「で、電探に反応ありッ!! 大編隊ですッ!!」
「何ッ!?」
電探員からの報告に電探長は電探を見た。確かに反応があった。
「まさか……ソ連が宣戦布告をしたのか? 急いで陸軍飛行隊に連絡ッ!! GF司令部にもだッ!!」
電探基地からの電文は直ぐに発信された。陸軍飛行隊でも戦闘機が発進しようとしている。
「急げェッ!! このままだと本土にまで来るぞォッ!!」
佐渡島の陸軍飛行隊は残念ながら旧式機であり、離陸したのは九七式戦闘機二十機、隼十八機であった。
その頃、帝都でも迎撃態勢が整われていた。
「侵入方向はウラジオストクッ!? ソ連が宣戦布告したのかッ!?」
「いえ、ソ連大使館からはそのような事は……」
「なら何故ウラジオストクから爆撃機が来ているのだッ!!」
そして総理である山本は関東地方及び東日本全体に空襲警報発令を決断した。
「空襲警報発令ェッ!!」
国民達は朝早くからの空襲警報発令に驚きながらも身支度をして防空壕の中に駆け込んだ。
その中には霞もいた。将宏はヒルダと共に横須賀航空基地に出向き、新型艦上戦闘機に乗り込んでいた。
戦闘機の名前は陣風。主に雲龍型空母等中型空母の運用を考えた艦上戦闘機である。
主翼については烈風と同様の内翼側は胴体に垂直、外翼側にやや強めの上半角を持つ。
武装は機首に十二.七ミリ機銃と主翼に三十ミリ機銃を二門ずつ搭載し、エンジンは誉の二千二百馬力であり排気タービン付きだ。
最高速度は六九三キロを記録している。生産は始まったばかりで今のところは横須賀航空隊に二七機が配備されているに過ぎない。
「弾丸はッ!?」
「既に装填済みですッ!!」
「よし、離陸するぞヒルダッ!!」
『ヤヴォールッ!!』
二機は離陸して他の戦闘機隊と共に東京上空を飛行した。
地上では陸軍の高射砲部隊が砲身を上空に向けていた。
「急げェッ!! 露助は待ってくれんぞォッ!!」
陸軍の高射砲部隊は八八式七五ミリ野戦高射砲、アハトアハト、三式十二サンチ高射砲を多数保有しており、大都市には三式十二サンチ高射砲とアハトアハトが、地方都市は八八式七五ミリ野戦高射砲とアハトアハトが配備されていた。
砲弾は三式弾が装填されており、何時でも撃てるようになっている。
『此方横須賀空通信室、敵は米軍のB-17及びB-24。繰り返す、敵はソ連ではなく米軍なり』
「何で米軍のがウラジオストク……」
将宏はそう呟いたが直ぐに思い出した。
「……レンドリース法か。ソ連の野郎、武器輸入を引き替えに基地を提供したのかッ!?」
将宏の勘は当たっていた。
『敵爆撃隊は新潟を爆撃しつつ東京に飛行中。繰り返す敵は帝都に飛行中。敵爆撃隊は高度九千を飛行中なり』
「全機、高度を九千五百まで上昇する。急降下で攻撃する」
迎撃隊は上昇していくが、排気タービンを搭載している機体は陣風と雷電、陸軍の三式局戦飛燕である。
零戦や隼も飛べる事は飛べるが、ほぼ浮いている状態になるだろう。
そして迎撃隊は埼玉県の上空で爆撃隊と遭遇した。
「いたぞォッ!! やはり米軍だッ!!」
陣風の操縦席から将宏は視認した。
「全機攻撃ッ!! 奴等を帝都に近づけるなッ!!」
将宏は操縦桿を倒して急降下に移った。ヒルダ以下列機も同様である。
『ジャップの戦闘機だッ!! 全機弾幕を張れッ!!』
米軍の爆撃隊は密集体形をしつつ弾幕射撃を始めた。将宏はそれに臆せずに一機のB-24に照準した。
将宏が撃った三十ミリ機銃弾はB-24の外側の左エンジンに命中。小規模の爆発をして右側の左エンジンにも炎が移って引火。
B-24は制御不能になり、地上に墜落していく。
他の列機も攻撃を開始してB-17やB-24に弾丸を叩き込んで爆発四散、若しくは墜落させていく。
それでも、三十機ばかりの爆撃機が空戦空域を抜けて東京上空に侵入した。だが、東京上空は弾幕の雨であった。
「撃てェッ!! アメ公の奴等を生かして帰すなッ!! 撃ちまくれェッ!!」
地上では大量に配備された陸軍高射砲部隊が弾幕射撃をしていたのだ。
「下方と後方からジャップの爆撃機ッ!!」
「何?」
爆撃隊の下方からは斜銃を搭載した月光と屠龍が接近し、後方からは七五ミリ砲を搭載した飛龍改が接近してきたのだ。
「攻撃開始ッ!!」
月光と屠龍が下方から射撃を始め、飛龍改は砲撃を始める。
「隊長ッ!?」
「爆撃開始ィッ!!」
米軍も意地であった。爆弾倉を開き、次々と焼夷弾や小型爆弾を投下していく。
地上では火災が発生して民家を燃やしていく。爆撃はそれで終了したが、上層部には衝撃が走ったのは当然だった。
勿論、米軍にも衝撃が走った。帰還したのは僅か四十機余りで百機近くが撃墜されたのだ。
米軍は直ぐに補充機を送り込んだのであった。
「……民間人の死傷者及び行方不明者は約八百名近く……か」
「ソ連が飛行場を米軍に貸したとは……ルーズベルトめ、ずる賢いしやがる……」
大本営では迎撃戦を終えた将宏を加えて会議をしていた。
「河内君、タルノフ大尉はこの事を?」
「……ギリギリで知らされたのかもしれません。前田少佐家の宛がわれた部屋から出てきません」
「……折りを見て話すように。此方もソ連大使館に白州君を向かわせる事にした」
「……マスコミが五月蝿くなるかもしれません」
「『ソ連討つべし』か。見出しは直ぐに判るな」
山本は呆れたように溜め息を吐いた。
「陸軍では佐渡島に飛燕隊を配備させる予定です。また、新潟や東京の進路上にある地域に飛行隊を進出させます」
東條はそのように説明した。佐渡島に防空隊を配備させるのは佐渡島で出来るだけ敵爆撃隊を減らす思考である。
そして会議はまだ続くが、将宏達は疲れているだろうと今日は帰る事になった。
前田家に戻ると玄関前では霞がいた。
「霞さん、タルノフ大尉は?」
「……まだ部屋から出てこない。済まないが将宏、少し様子を見てきてくれないか? もうすぐ夕飯だしな」
「ん、分かった」
将宏は頷いてタルノフ大尉の部屋へ向かった。
「タルノフ大尉? 入るぞ……」
将宏が部屋に入った時、タルノフ大尉はコメカミにトカレフを構えていた。
「タ、タルノフ大尉ッ!?」
「……すいません。死んで御詫びをします……」
「ば、馬鹿野郎ッ!!」
そして、一発の銃声が響いた。
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