第八十話
「お帰り将宏」
「あぁ、ただいま霞」
マリアナ沖海戦後、第二機動艦隊は内地に帰還したため将宏も内地に帰れる事が出来た。
そして将宏は久々に前田家に帰ってきた。勿論、前田少佐やヒルダ、タルノフ大尉もいる。
「……お二人さん? 何をしているのかな?」
「……黙っとけ兄上」
「最近、妹の言動がきついです」
「(不様デスね)」
悄気ている前田少佐にタルノフ大尉はそう思った。
兎も角、前田家は久々に活気に湧いたのであった。
そして翌日、将宏と前田少佐は大本営に来ていた。
「マリアナ沖での戦い、まずは御疲れ様と言っておこう」
「ありがとうございます総理」
山本の問いに将宏は頭を下げた。
「GFの堀と話したが……アメリカは暫くの間は行動しないだろうと踏んでいる」
「……でしょうね。我々もその間は戦力の補充をしませんと……」
「うむ、漸く信濃が就航した。かなりの戦力だろう」
マリアナ沖海戦後、海軍は新たに最新鋭空母信濃と雲龍型四番艦笠置、五番艦阿蘇、六番艦生駒、七番艦伊吹を就航させていた。
信濃は決戦部隊として第一機動艦隊に、笠置以降は第二機動艦隊に配属される。
更に海軍は雲龍型空母の建造は計画も含めて、全部で十八隻の予定である。
「後は秋月型や阿賀野型、高速輸送船、高速タンカーしか今のところでの建造計画しかない。戦艦はもっての他だ」
建造年月が掛かる戦艦は計画はあったが実際に起工する事はなかった。
それよりも、今の課題は陸軍にあった。
「満州の防備はどうなってますかな?」
山本は出席している東條に問う。東條は資料を皆に配布した。
「満州ですがノモンハン事変後に瀋陽や鞍山等に武器製造工場を建設しており、現地での戦車等の生産や銃砲弾の製造は可能です。既に工場は生産を始めており、三式中戦車や四式戦車(制式採用)を生産しています」
満州には精鋭揃いの関東軍に満州国軍等合わせて二五〇万近くが守備していた。
ソ連との国境付近は幾たにも防衛線が構築されており、ソ連軍が参戦した場合は専守防衛を徹して此処で侵攻を遅らせる事ができるだけと判断していた。
「更に関東軍総司令官には山下大将、参謀長には石原大将にしています」
石原大将とは勿論、石原莞爾の事である。石原に対ソ戦を思案させていたが、石原本人は「専守防衛に徹するのにどうして俺に思案させるんだ」とボヤいていたが表情は嬉しそうであったと部下は後に語る。
それから会議は終盤になった時、将宏はふと思い出した。
「そう言えば結核予防法はどうですか?」
「うむ、予想より効果はあるな」
日本は史実よりかなり早めに結核予防法を制定してBCG接種を行っている。
勿論、読者の皆さんに馴染みがある管針法――はんこ注射だよはんこ注射――でしている。この制定により政府は接種を国民に進めている。
「衛生面でも何とか改善しようとしているが、まだまだ掛かるだろう」
「なるべく早くにしましょう。健全な人を無駄に死なせるわけにはいきません」
将宏はそう言った。会議はその後、新型小銃の話で終了した。
その頃、ホワイトハウスではある動きがあった。
「何ですと? ソ連の武器輸出を拡大すると?」
「そうだ」
スチムソン陸軍長官の問いにルーズベルトはそう答えた。
「それだけのために私を呼んだのですか?」
「それは違うぞスチムソン。ソ連には武器輸出を拡大する代わりにウラジオストクに米軍の航空基地を設営してウラジオストクからジャップを爆撃する」
「ッ!?」
ルーズベルトの言葉にスチムソンは唖然とした。
「ですがプレジデント。日ソは中立条約を締結しています。それは裏切り行為になるかと……」
「裏切りであろうが、ジャップの奴等がシベリアに攻めこむ戦力は無い。ソ連側からによれば満州の関東軍は守勢に徹する構えだと言うことだ。もし、ジャップがソ連に参戦したとしても戦力の比は歴然としている。恐らくはまやかし戦争になるぞ」
ルーズベルトはそう言って笑う。
確かにドイツと連合国側で一時期は宣戦布告をしたのに戦闘が行われなかったまやかし戦争があった。ルーズベルトは日ソでもそうなるように仕向けたのだ。
「……ソ連は乗りますか?」
「乗らざるを得まい。スターリンはウラル山脈まで追いやられているんだ。乗るしかない」
ルーズベルトはニヤリと笑った。一方、ウラル山脈要塞にいるスターリンはこれに乗った。
「資本主義の奴等の策に乗るのはやむを得まい。我々が盛り返せばいいのだ」
こうしてアメリカとソ連との間で秘密協定が結ばれ、ウラジオストクに大規模な航空基地が設営されるのであった。
なお、爆撃機の派遣は当初の予定はB-29であったが陸軍側が反対した(B-29の性能をソ連に見せたくないため)ので、B-17とB-24等がウラジオストクに派遣される事になった。
「そ、そんな馬鹿なッ!? それでは日本に宣戦布告をした事になりますッ!!」
大使館に召喚されたタルノフ大尉はソ連大使にそう叫んだ。
「これは決定事項だ同志タルノフ」
「し、しかし……」
「決定に刃向かうようでは……シベリアに行く事になるぞ? 既にシベリアには家族が行っているのだろう?」
「………」
ソ連大使の言葉にタルノフ大尉は口をつぐんだ。
「確か君は名家の出身だったな? 革命で難を逃れたらしいが、シベリアで捕まり家族の生命を引き替えに我が軍にいるのだろう? 命令には従いたまえ同志タルノフ」
「……ダー」
タルノフ大尉はそう呟いたのであった。
そして時が過ぎた九月十四日、米軍ソ連派遣航空部隊はウラジオストクに移動していた。
「流石は我が合衆国だ。これだけの戦力があればジャップなんぞ一年を待たずに降伏するぞ」
とあるB-17のパイロットはそう言って辺りを見渡した。
この派遣航空部隊はB-17百五十機、B-24百八十機と合わせて三百三十機があった。大平洋に展開する陸軍航空隊の半数近くがウラジオストクに集結したのだ。
「へいライアン。作戦会議が始まるぞ」
「そうか、いよいよジャップの本土爆撃の始まりだな」
二人のパイロットはそう言って施設の中に入るのであった。
そして翌日の九月十五日、航空部隊は約半数の百五十機を発進させて日本本土へと向かうのであった。
「ハハハ、流石のジャップも終わりだな」
新米のパイロットは編隊を見ながらそう呟いた。
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