第七十四話
「何ッ!? 上陸船団がジャップのサブマリンによる攻撃を受けただとッ!!」
上陸船団が雷撃を受けた事は直ぐに第五艦隊のスプルーアンスの元へ届けられた。
「被害の方は分かるかね?」
「は、この雷撃で上陸船団は戦車二七両、火砲二五門、上陸予定であった第二七歩兵師団の第一六五歩兵連隊と第一〇五歩兵連隊の半数の兵士が沈没時の渦に巻き込まれました。第二七歩兵師団の戦力は半減しています」
「むぅ……それはキツいものだな。それでターナーは何と言ってきているのかね?」
「第二七歩兵師団は上陸させますが、マーシャル諸島にいる予備部隊の二個歩兵師団を移送したいとの事です。上陸には成功していますが、サイパン島の内部に攻めこむには戦力が不足しているようです。それに偵察ではジャップはサイパン島に大量の戦力を投入しているようです」
「むぅ……増援は仕方ないが、此方は予定通りにオザワの機動部隊を攻撃する」
スプルーアンスはそう判断した。直ちにマーシャル諸島から追加の上陸船団が出港してマリアナ諸島へと向かったのである。
「ではオザワの機動部隊を攻撃しようではないか」
「イエッサーッ!! 全機発艦せよッ!!」
「GOGOGOッ!!」
第五艦隊の各空母では既に攻撃隊の発艦準備は完了しており、後はスプルーアンスの命令を待つだけであったのだ。
各空母の飛行甲板では待機していた攻撃隊が次々とプロペラを回し始めて発艦していく。
「今度は勝てるはずだ」
発艦していく攻撃隊を見ながらスプルーアンスはそう呟いた。
発艦していく攻撃隊の数は戦闘機隊が二四〇機、艦爆隊が百六十機、艦攻隊が百八十機と合わせて五百八十機というとんでもない攻撃隊であった。
「頼んだぞボーイズ達……」
水平線に消えていく攻撃隊にスプルーアンスはそう呟いたのであった。
一方、第二機動艦隊でも各空母に零戦と烈風が並べられていた。
「長官、制空隊は発艦準備完了です」
「うむ、後は彩雲からの報告を待つのみか……」
山口長官はそう呟いた。彩雲には簡易式の対空レーダーが搭載されており、六機の彩雲が警戒をしていた。
「昼食をお持ちしました」
「うむ、御苦労」
そこへ数人の主計科の兵士が手に昼食が入った箱を載せてやってきた。
「今日は何かな?」
「赤飯のお握りです。他にも茹で玉子と沢庵です」
「ほぅ、豪勢だな」
「あ、駄目ですよ伊崎参謀長。まずは山口長官からです」
主計科の一曹はそう言って山口に二つのお握りを渡した。
「ふむ……美味い」
「ありがとうございます」
「腹が減っては戦が出来んからな。皆も食べなさい」
長官は艦橋にいる者にそう言った。
「ところで河内君はどうしたかね?」
「いやぁ疲れた疲れた。あ、昼食ですか?」
そこへ手が油などで汚れた将宏が現れた。
「何処に行ってたのかね?」
「整備兵やヒルダと共に烈風の整備をしていました。おい一曹、俺の昼食は?」
「え〜と……無いですね。伊崎参謀長が四つも食べてますから……」
「伊崎参謀長……」
「ハッハッハ、済まんな」
笑う伊崎参謀長である。
「……仕方ない。調理室から貰ってくるか」
「余計な銀バイはしないで下さいよ河内少佐」
主計科の一曹に釘を刺された将宏であった。将宏は艦橋から降りて調理室へと向かった。
「おぉい。もう昼食は無いのか?」
「あ、河内少佐。艦橋には配達したはずですが……」
「伊崎参謀長に俺の分も食われたんだ」
「……それは仕方ないですね。直ぐに用意します」
調理室にいた主計科の二曹は直ぐに赤飯のお握りを二つ用意してくれた。
「お、済まんな」
将宏は二曹に礼を言って漸く昼食にありついたのである。
そして突然、警報が鳴った。
「これは……警戒警報?」
「敵機ですかね?」
「ほうとひか考えられん」
将宏は口に赤飯を詰め込んで水で流し込んだ。
「ごっそさんッ!!」
「お気をつけて」
二曹にそう言われながら将宏は艦橋へ向かった。
「カワチ少佐」
「タルノフ大尉。敵機か?」
「詳しくは知らないがそのようだ」
飛行甲板に上がるとタルノフ大尉が発艦していく烈風を見ながらそう言った。
「ヒルダは?」
「……あのゲルマン人はあそこで手伝っている」
タルノフ大尉が指差す方向にはエレベーターで上がってきた烈風をヒルダと整備兵が一生懸命押していた。
「分かった。終わったら艦橋に来てくれ」
「うむ」
将宏はそう言って艦橋に上がった。
「河内戻りました。状況の方はどうですか?」
「警戒に出した彩雲から敵機を探知した報告が来た。第二機動艦隊まで来るのに約四十分だ」
奥宮航空参謀が将宏に説明した。その間にも戦闘機隊が発艦していく。
高角砲や対空機銃に戦闘服を着た水兵達が群がって弾薬を装填する。
「対空戦闘用意良しッ!!」
護衛の金剛や榛名は主砲の仰角を上げていた。そこへ手伝いを終えたヒルダとタルノフ大尉が艦橋に入ってきた。
「やぁ、タルノフ大尉。日本海軍の対空戦闘を見ていってくれ」
「ダ、ダー」
山口長官にそう言われたタルノフ大尉は畏まった。
「さて、零戦は新型だ。彼等が何処まで戦えるかな?」
山口はそう呟いた。そして、制空隊との戦闘が始まった。
「太陽の方角から戦闘機ッ!! ジャップのジークだッ!!」
「かわせかわせかわせッ!! ジークなんぞこのヘルキャットで叩き落としてやるッ!!」
ヘルキャットは重戦であるので軽戦である零戦には急降下で引き離す事が出来た。ヘルキャットのパイロットはワイルドキャット時に経験していた。
「どうだッ!?」
急降下に移ったヘルキャットのパイロットが後方を見た時に愕然とした。
そこには急降下でも追尾してくる零戦がいたのだ。
「ジーザスッ!! そんな馬鹿なッ!!」
その時、パイロットの目にある物が見えた。
「……翼が曲がっている……逆ガル型ッ!? 海兵隊のコルセアと一緒なのかッ!!」
パイロットは驚愕していたが、それが仇となり零戦から二十ミリ機銃弾を受け左翼の燃料タンクを貫かれて爆発四散したのである。
「こいつは凄い零戦だな。急降下しても制限速度が無いしな。それに分解もしない」
制空隊隊長の兼子少佐はそう呟いた。
「よし、新しい零戦の誕生だ」
兼子はニヤリと笑うが、零戦の改良型はこの零戦六四型で最後だった。
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