第七十話
――ウェーク島――
「やはり司令官の言葉通りでしたね。ジャップは根こそぎ撤退しているようです」
「うむ、ジャップも補給が容易ではないことに気付いたようだな」
デービース参謀長の言葉にスプルーアンスはそう答えた。
「ウェーク島の復旧はどれくらい掛かるかね?」
「恐らくは二、三日で復旧するでしょう」
「………」
「……何か懸念でもありますか?」
無言のスプルーアンスにデービース参謀長はそう尋ねた。
「……日本軍の出方だ」
「出方……ですか?」
「うむ、日本軍は既にミッドウェー島、ウェーク島を放棄している。我々の次なる攻略作戦は開戦前から日本の統治下にあったマーシャル諸島だ」
「……構えている可能性があると?」
「恐らくな……」
スプルーアンスはそう頷いた。しかし、スプルーアンスの読みは外れていた。
マーシャル諸島にいた日本軍は既に撤退して元からいた住民しかいなかったのだ。
――GF艦隊旗艦敷島――
「第一航空艦隊は?」
「は、既にサイパン島及びテニアン、ヤップ等に展開しております」
堀長官の問いに草鹿参謀長はそう答えた。
「第一機動艦隊は?」
「現在はタウイタウイ泊地に停泊しています」
「……河内君がいれば大鳳の死亡フラグとやらだな」
「はぁ……」
堀長官の言葉に溜め息を吐く草鹿参謀長であった。
「ところで第二機動艦隊はまだ柱島にいるのか?」
「は、もう出港するかと思います」
この時、第二機動艦隊は柱島泊地に停泊していた。
第二機動艦隊もマリアナ諸島に向けて出港する予定である。
「陸軍の方はどうだ?」
「は、マリアナ諸島で守備しているのは約七個師団でありサイパン島には戦車第九連隊が駐留しています。また、対戦車兵器としてロタ砲の配備は万全のようです」
また、この時陸軍はマリアナ諸島死守のために内地の飛行隊から疾風四八機、鍾馗四二機、爆撃機飛龍四八機をサイパン島に新たに派遣していた。
「要塞化は進んでいるのか?」
「開戦前からしていましたので完了しています。更に史実の激戦地となる硫黄島、沖縄も守備陣地を構築中です」
沖縄では民間人を投入して守備陣地――洞窟陣地を構築していたのである。
「うむ、それと戦艦部隊はどうした?」
「戦艦部隊もタウイタウイ泊地で停泊しています」
第一戦隊(大和、武蔵、長門、陸奥)を主力にした宇垣中将の第一艦隊はシンガポールで訓練していたが第五艦隊のミッドウェー島攻撃の報に直ぐに出港してタウイタウイ泊地に入港していたのだ。
第一艦隊は第一戦隊の他にも第二戦隊(伊勢、日向、三河、豊後)がいた。
「うむ……やはり雲龍型が多数配備されておれば……」
堀長官はそう呟いた。空母飛龍の設計図を流用した雲龍型は現在までに四隻が竣工して第一機動艦隊に配備されていた。
内地の各工廠では合計十二隻の雲龍型が建造中であった。
それらが間に合えばニューカレドニアでフィジー諸島にいるハルゼー中将の第三艦隊を無視してまでマリアナ諸島に駆けつけるが無理な事である。
「頼みの綱は第一航空艦隊か……」
今のところ、第五艦隊に真っ向から対抗出来るのは第一航空艦隊のみであった。
「此処は塚原中将に任せましょう」
「……そうだな」
堀長官はそう呟いたのであった。
「偵察の方はどうだ?」
「彩雲十八機が念入りに偵察飛行をしていますが、米機動部隊はまだマーシャル諸島から動きません」
サイパン島にある第一航空艦隊司令部で司令長官の塚原中将は参謀長の三和義勇少将にそう聞いていた。
六月二八日にスプルーアンスの第五艦隊はマーシャル諸島へ侵攻した。
第五艦隊司令部の予想通りにマーシャル諸島には日本軍がいなかった。
スプルーアンスは直ぐにマーシャル諸島を後方基地化にする事を急がせていた。
油断すれば大敗するのは自分の経験からであったからだ。
「……三和、奴等の次は何処だと思う?」
「恐らくはこのマリアナ諸島でしょう。ですが、攻撃となれば別です」
「ほぅ?」
「マリアナ諸島を攻略する場合、気になるのはトラック諸島です。となれば……」
「奴等はトラック諸島を攻撃すると?」
「B-29の航続距離ではトラック諸島を占領しても無理ですからね。トラックを無効化にしてからマリアナに攻めるでしょう」
「ならばトラックにいる在泊艦艇は直ちに撤退しないといかんな……」
「心配ありません。堀長官が命令を出してトラックの艦艇は全てパラオ方面に退避済みです」
「うむ、だがトラックを失うのは痛い」
「大丈夫です。ラバウル、パラオから戦闘機隊がトラックに集結しています」
この戦闘機隊は三六〇機にもなり、元々いたトラックの戦闘機隊を合わせると約七百機近くになった。
「それにトラックは多数の高角砲や対空機銃を増設の増設をしています」
トラックには旧式になって艦艇から降ろされていた八サンチ高角砲等が多数存在していた。
「……それで持てれば良いが……」
油断は出来んと思った塚原中将だった。そして七月二日、マーシャル諸島の補給基地化にしたスプルーアンス中将の第五艦隊はトラック諸島を目指していた。
「スプルーアンス司令官、第一次攻撃隊は何時でも発艦出来ます」
デービース参謀長はそうスプルーアンスに報告した。
「よし、直ちに発艦せよ。トラックのジャップの戦力を剥ぎ取るのだッ!!」
そして各空母から第一次攻撃隊が発艦していく。戦闘機八四機、艦爆七八機、雷撃機七二機がトラック諸島を目指すのであった。
一方、トラック諸島では迎撃態勢が整われていた。
「電探から目を離すなよ。奴等は必ずトラックにやってくる」
トラック諸島の第四艦隊司令長官の小林仁中将はそう指示を出していた。
「……トラックを史実同様にしてたまるか……」
史実では前日まで警戒していたのにも関わらず、みすみすとトラックを破壊されてしまった事を知っている小林中将は史実の仇として燃えていた。
そしてそれがやってきた。
「電探に感ありッ!! 敵機ですッ!!」
「数はッ!?」
「……約二百五十機あまりですッ!!」
「……恐らく第一次攻撃隊ですな」
「うむ、だが全て叩き落とすッ!! 警報出せッ!! 戦闘機隊発進せよッ!!」
小林中将はそう指令した。直ちに春島や夏島等の各島に建設されていた飛行場から戦闘機隊が発進したのである。
また、各島の対空砲や対空機銃も仰角をとって砲身や銃身を空に向けるのであった。
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