第六十八話
――1943年六月十日、ホワイトハウス――
「それで今日の会議は何だ? 漸くジャップに対する反撃態勢が出来たのかね?」
ルーズベルトは執務室に入室したキング作戦部長とスチムソン陸軍長官に尋ねた。
「それはイエスですプレジデント」
「漸く態勢が整いました」
「おぉ、そうかね」
二人の言葉にルーズベルトは嬉しそうに椅子から立ち上がる。
「それで何処から攻めるのかね?」
「此方を御覧下さい」
キング作戦部長はそう言って世界地図を広げた。
「第一段階の作戦はミッドウェー島とウェーク島の航空戦力を叩きます。そして上陸部隊を載せた輸送船団を率いてミッドウェー島を攻撃、これを占領します」
キングはそう言って指をミッドウェー島に示す。
「そして次にウェーク島を占領します。これで一応ながらの足場が出来ました。足場を元にマーシャル諸島を攻撃して占領します。そしてそのまま西方からやや上に突き進んでマリアナ諸島を攻略します」
「……つまりだ。ジャップの本土と分断しようと言うのかね?」
「イエスですプレジデント。奴等の最大の弱点は輸送です。これを分断すれば四方を海で囲まれているジャップは……」
「壊滅するだろうな」
ルーズベルトはニヤリと笑った。
「GOサインを頂けますか?」
「勿論だキング。フフフ、これで漸くジャップを皆殺しに出来る」
ルーズベルトの笑いは止まらなかった。
――オアフ島、太平洋艦隊司令部――
「いよいよだスプルーアンス。プレジデントが『タイフーン』作戦を承認したらしいぞ」
ニミッツ長官がスプルーアンス中将にそう言った。スプルーアンスは昇進して中将になっており、新しく編成された第五艦隊司令長官になっていた。
同じくハルゼー中将は第三艦隊司令長官としてフィジー諸島にいた。
「後は陸軍の上陸部隊がハワイに来れば作戦は発動されるだろう」
「いよいよ反撃ですな」
「うむ」
スプルーアンス中将の言葉にニミッツ長官はゆっくりと頷いたのであった。
そして七月一日、オアフ島に陸軍の上陸部隊の船団が到着して『タイフーン』作戦が発動した。
この時、米海軍は大きく変貌していた。エセックス級空母十四隻、インディペンデンス級軽空母八隻、護衛空母三八隻の大機動部隊がいたのである。
更に戦艦もアイオワ型戦艦が就役しており、打撃力は十分にあった。
また、防空としてアトランタ級防空巡洋艦十隻が就役しており、砲弾も新型のVT信管を全弾搭載していた。
「スプルーアンス司令官、いよいよですな」
「そうだなデービース参謀長。だが、油断はしてはならんぞ? 何せ相手は精強と詠われたジャップなんだ」
スプルーアンスはデービース参謀長にそう警告した。
「イエス。ですが、我がUSAも最強の艦隊を編成しているんです。それに対空砲弾は全てVT信管なんです。ジャップのジークやケイト等は全て撃ち落としてみせますよ」
「……そうか」
デービース参謀長はそう意気込んでいた。しかし対するスプルーアンスは少し気掛かりであった。
「(確かに合衆国の技術力は最高だ。だが、ジークという優秀な戦闘機を製造したジャップだ。奴等も何かしらの戦闘機を開発しているだろう。油断はせんようにな……)」
最強の艦隊を与えられた事に乗組員達の緩みを警戒するスプルーアンスであった。
そしてスプルーアンス中将の第五艦隊はミッドウェー島へ向かったのである。
「おい、あれを見ろッ!! アメ公の機動部隊だッ!!」
「奴等の反攻作戦の一歩目はミッドウェー島かよ……」
七月三日に、第五艦隊はハワイ方面を偵察しようとしていたミッドウェー島所属の彩雲に発見された。
彩雲は直ぐにミッドウェー島へ知らした。勿論、ミッドウェー司令部は大慌てである。
「アメリカの機動部隊がミッドウェーに向かっているだとッ!?」
「此方の戦力では到底防衛出来ません」
参謀はそうミッドウェー島司令官に言った。この時、ミッドウェー島には戦闘機二一機、双発爆撃機九機、偵察機六機、水上機十二機が配備され、陸戦隊も五百名しかいなかった。
「……直ぐに航空隊はウェーク島へ退避させるのだッ!! 我々もミッドウェー島から撤退しよう」
司令官はそう決断してGF司令部にそう発信した。ミッドウェー島守備隊は運が良く、補給のために中型輸送船二隻と海防艦二隻が寄港していたのである。
報せを聞いた堀長官も直ぐに承諾してミッドウェー島の放棄を決定。守備隊は艦隊に便乗して内地に帰還するのであった。
「………」
「何を悩んでいるのですか長官?」
腕を組んで太平洋の地図を見ている堀長官に新しく参謀長に就任した草鹿中将はそう聞いた。
「……奴等の意図が分からん」
「意図……ですか?」
「そうだ。普通ならオーストラリアを救援するためにミッドウェーの艦隊はフィジーに投入するはずだ。それが何故ミッドウェーなのか……うぅ〜ん、分からんなぁ……」
堀長官はそう唸っていた時、ふとウェーク島が視界に入った。
「ウェーク島……ウェーク島……そうかッ!!」
突然、堀長官が勢いよく椅子から立ち上がる。
「奴等の狙いが分かったぞッ!!」
「ほ、本当ですか長官ッ!?」
「あぁ、奴等は内地と戦地を分断する気なのだッ!!」
堀長官はそう言ってウェーク島を指差した。
「奴等はミッドウェーとウェークで足場を作ってマーシャル諸島へ侵攻、そしてマリアナ諸島へ侵攻するだろう」
「マリアナ諸島……まさかアメリカはッ!?」
「……B-29が完成したのだろう。そのための分断かもしれん。後、日本の海上輸送の弱点を突くのも一つの要因だろう」
堀長官はそう呟いた。今の日本本土には陸海の多数の戦闘機が駐留していた。
しかし、B-29に対抗出来る排気タービンを搭載した局地戦闘機は少数であった。
漸く横須賀航空基地に排気タービンを搭載した局地戦闘機雷電三二型二七機が配備されていたに過ぎなかった。
勿論、陸海は直ぐに雷電の増産を決定するのである。
「草鹿、直ぐにウェーク島にも打電して撤退の準備を急がせろ。恐らく事前攻撃があるのは間違いない」
「分かりました。直ぐにマーシャル諸島から輸送船と護衛艦を派遣します」
そしてウェーク島の放棄も決定された。だが堀長官はそれだけで満足しなかった。
「待て、マーシャル諸島からも撤退しよう。あそこは防衛するのが困難だ」
「しかしマーシャル諸島は開戦前からの我が国の領土です」
「防衛が困難なのは事実だ。無駄に兵を死なせるわけにはいかん」
「……分かりました。それで撤退後の守備隊は何処に配備を?」
「……マリアナ諸島だ。恐らくそこが今回の天王山になるだろう」
堀長官はマリアナ諸島の地図を見ながらそう言ってたのであった。
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