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第六十五話






 ニューカレドニア攻略作戦から二週間が経過した。

 南方の守りは第一機動艦隊がトラックに進出して米機動部隊を警戒し、第二機動艦隊は内地に帰還していた。

 そして将宏と前田少佐は陸軍の富士演習場に来ていた。

「M10駆逐戦車が太平洋戦線に投入されてたなんてな……」

「それほど強力なのか?」

 将宏の言葉に前田少佐が聞いた。二人はM10駆逐戦車を見ていた。

「確か……戦車砲は五十口径七六.二ミリやけど、M79徹甲弾を用いた場合は約九百メートルで九二ミリ、約千三百メートルで七六ミリの貫通力を持っているはずや。他の徹甲弾でも八十ミリ以上の貫通力があったしタングステン芯が入った徹甲弾やとティーガーのアハトアハト並みの貫通力があったはずや」

「何……だと……」

 将宏の言葉を聞いた前田少佐や他の技官達はざわついた。

「史実でも太平洋戦線には配備されたのか?」

「……詳しくは分からんけど、太平洋戦線の大半の戦車がシャーマンやったからなぁ。M10は主にヨーロッパ方面のはずや。恐らく、チハに対抗するために送られていたんやろ……」

「……そうすると、太平洋戦線にも三式中戦車を配備せざる得ないな」

「永田中将」

 兵器開発局長になっている永田中将がやってきた。閑職だと思いきやそうではない。

 永田中将のおかげで先のニューカレドニア攻略作戦にて歩兵部隊に配備された三式対戦車用噴進砲も永田中将が努力してくれたのだ。

「ですが三式は運用を満州に置いていますし、重量は四五トンですよ」

 三式中戦車はドイツからライセンス生産されたアハトアハトを搭載しているので重量は重くなり、ティーガー並とは言わないがそれでも陸軍最大重量であった。

「……九七式は改良しやすいように大きめに設計されてましたよね?」

「うむ、確かにな」

「それでしたら九七式の改良型を太平洋戦線に出すしかないですね」

「むぅ……」

「勿論、九七式は追加装甲とエンジンの改良型、主砲の交換を念頭に入れましょう」

「……主砲はあれかね?」

「はい」

 将宏は頷いた。

「君に言われてたからな。密かに戦車砲への開発はしていた。追加装甲も出来るが問題はエンジンだ。エンジンは時間が掛かるな」

 戦車砲は史実の四式、五式中戦車に搭載予定だった四式七糎半高射砲である。

 フィンランド支援の時にスウェーデンと接触して四十ミリ機関砲のライセンス生産を許可されたのだが、この高射砲もライセンス生産が許可されていたのだ。

 既にライセンス生産がされて史実より多めの二百門が生産されて陸軍の各航空基地に配備されていた。

 高射砲は一式七五ミリ高射砲とされた。

「戦車砲は五六口径にしての生産予定だ。許可が降りれば一ヶ月後には十二門が量産出来る」

「エンジンは掛かりますか?」

「掛かる。五百馬力のディーゼルエンジンだからな。そういえば君のところにソ連の士官がいたな」

「……彼女と交渉してT-34のエンジン輸入を承諾させてもらうんですか?」

「出来ればな。まぁ向こうも何かしら求めてくるかもしれんがな」

「……分かりました。やってみましょう」

 てな事で将宏はタルノフ大尉と交渉をする事になり、九七式は改良型の生産が決定された。

「……T-34のエンジンを輸入したい……と?」

「そうだな。出来ますかな?」

「……分かりました。大使と相談してみましょう」

 タルノフ大尉は少し考えた後にそう言った。



 そして二日後、ソ連大使館で返答するとの事で将宏と前田少佐が出向いた。

「同志タルノフ大尉から事情は聞きました。戦車のエンジン購入ですが、了承しました」

「……ありがとうございます」

「ですが条件があります」

「……何でしょうか?(やはりな……)」

「空母翔鶴型の設計図を譲ってくれませんかな? 我がソ連は海軍を復活させねばなりませんからな」

 ソ連大使はそう言った。

「……それは出来ない事ですね。翔鶴型は我が海軍の中核を担う空母です」

「……それでは商談は無理ですな。お引き取り下さい」

 ソ連大使は上から目線のような表情で将宏にそう言った。前田少佐は唇を少し動かした。

 だが、将宏は出されたコーヒーをぐいっと飲み込んで大使やタルノフ大尉に向かってニコリと笑った。

「あ、そう。なら帰りますわ。前田少佐、帰ろか」

『……は? ( ; ゜Д゜)』

 将宏の言葉に大使やタルノフ大尉は唖然とした。

 前田少佐は少しぽかんとしたが、直ぐに苦笑して部屋を出ようとする将宏の後に続いた。

「ちょ、ちょっと待ってくれカワチ少佐ッ!!」

 出ようとする将宏にタルノフ大尉が走って将宏の右肩を掴んだ。

「何だタルノフ大尉?」

「私が言うのも何だが良かったのか?」

「いやだって翔鶴型の設計図寄越せとかワケ分からんよ。そんな相手をしてる暇はないわ」

 将宏は溜め息を吐いた。

「戦没した赤城や加賀、小型空母の設計図なら譲渡しようかの話は上層部であったのにな……」

「ちょ、ちょっと待ってくれッ!!」

 将宏の言葉を聞いたタルノフ大尉が慌ててソ連大使と言葉を交わした。

「……! ……」

「ッ!? ……」

 そして交わし終えるとソ連大使が此方に向き合った。

「カワチ少佐、先程は大変申し訳なかった。T-34のエンジン購入は許可します。なので……空母の設計図を……購入したい……」

「……(不様だよなぁ)分かりました。空母の設計図は小型空母で宜しいですかな? 何せソ連は空母を建造した事ありませんからな」

「……そうですな」

 ソ連大使は何かに耐えていたが商談は成立した。

「御苦労だった河内少佐。海軍も祥鳳型の設計図なら渡せると言っているから取りあえずは成功だな」

 永田中将は少し安心するようにそう言った。

 そして数日後、エンジンはウラジオストクから舞鶴に運ばれるのであった。

「おのれヤポンスキーめ……我等の足下を見おってからに……」

「ですが同志大使。流石に翔鶴型のは言い過ぎでは……」

「黙れ同志タルノフッ!! 貴様は我々の指示に動いておればいいのだッ!!」

「……ダー」

「それにしてもだ……あのカワチとやらの秘密を握る事は出来んのか?」

「は、ハニトラはしていますが向こうが乗っからないもので……」

「言い訳はいい。私は結果を求めているのだよ同志タルノフ」

「……ダー。必ず成功させます」

 タルノフ大尉はそう言ったのである。








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