第六十三話
今日は自衛隊の幹部候補生試験に行ってきます。
そしてFS作戦が開始されたの少し時が過ぎた四月十八日である。
この日は史実で山本五十六がソロモン諸島のブーゲンヴィル島上空でP-38ライトニングに乗機の一式陸攻が攻撃されて撃墜、戦死する日であったが、そんな事はなく山本五十六は日本帝国首相として政務に励んでいたのである。
「ほぅ……偵察機が発艦していくな」
艦橋でタルノフ大尉が発艦していく彩雲を見てそう呟いた。
周りの乗組員はタルノフ大尉を見ても表情を変えずに黙々と作業を続けている。
「河内少佐といる事は何かあるんだろう」
そう認識している乗組員達である。
「全く……何故私が敵国といなければならんのだ」
ヒルダがイライラするように呟いた。その頃の将宏は艦橋にいた。
「済まんなヒルダ……」
山口長官と接する事があるため、将宏が艦橋にいる時はヒルダがタルノフ大尉の相手をする事が多かったのだ。
「さて、偵察機は何を見つけてくるか……」
山口長官は前方の海面を見ながらそう呟いた。
それからニューヘブリデス諸島に接近した彩雲から電文が来た。
「……軍港には敵輸送船六隻、駆逐艦三隻しかおらず……か」
「航空基地も少数のようです」
奥宮航空参謀はそう報告をする。
「奥宮、攻撃隊の準備は?」
「既に発艦準備完了をしています」
「……よし、攻撃隊を発艦させろ。第一次攻撃隊は航空基地と軍港施設を目標。第二次攻撃隊は防御陣地を叩けェッ!!」
「はッ!!」
「第一次攻撃隊発艦せよッ!!」
飛行甲板で待機していた第一次攻撃隊に出撃命令が下り、パイロット達が愛機に乗り込んで先頭の零戦がプロペラを回し始めた。
整備兵達はチョークを外していき、発着艦指揮所で白旗が振られた。
零戦隊が次々と発艦していく。
「……これが機動部隊の航空戦か……」
タルノフ大尉は発艦していく攻撃隊を見ながらそう呟いた。
並走する瑞鶴からも攻撃隊が発艦していた。
攻撃隊は零戦四五機、彗星五四機、天山も同じく五四機である。
第一次攻撃隊が全て発艦すると整備兵達は第二次攻撃隊の準備に移った。
一方、アメリカも彩雲がニューヘブリデス諸島へ偵察した事に少し警戒をした。
「……臭いな」
「臭いと申しますと?」
「これまでニューヘブリデス諸島への偵察機はMYRT(彩雲)が多いのだが、週に一度だ。だが、今は二日に一回だ。これは怪しいぞ」
ニューカレドニアのヌーメアに司令部を置く南太平洋艦隊司令官のゴームレー中将はそう指摘する。
「……ニミッツ長官に知らせておこう」
ゴームレー中将は機動部隊の応援を頼もうとしていたのだが、それは間に合う事はなかった。
「レーダーに反応ッ!! ジャップですッ!!」
「何だとッ!?」
ニューヘブリデス諸島は第一次攻撃隊の襲来に大慌てだった。何せ、今まで偵察機による偵察しか飛来していなかったので油断していたのだ。
「戦闘機隊は急いで発進するんだッ!!」
「GOGOGOッ!!」
陸軍のP-40やP-38が急いで発進していくが数が足りなかった。第一次攻撃隊が到着した時に発進出来た戦闘機は三二機だった。
「敵戦闘機が来るぞッ!! 攻撃隊を守れッ!!」
零戦隊は一個中隊九機を護衛に残して後は敵戦闘機群の中に突っ込んだ。
一、二回旋回するだけでP-40隊は全て叩き落とされた。残ったのはP-38である。
「ファックッ!! もっと速度が速い戦闘機があれば……」
パラシュート降下をしたP-40のパイロットがそう悔しそうに呟いた。
アメリカ本国では既にP-47等が配備されていたが、戦線に来るのはフィジー諸島が攻略する時であった。
敵戦闘機隊を追い払った攻撃隊は目標の敵航空基地と軍港施設の攻撃に移ったのである。
そして二次による攻撃でニューヘブリデス諸島の基地機能は完全に叩かれた。そして翌日に戦艦部隊の艦砲射撃が行われる中、上陸部隊が上陸するのであった。
「何ッ!? ニューヘブリデス諸島がジャップの攻撃を受けただとッ!!」
ニューカレドニアのヌーメアでゴームレー中将は部下からの報告に驚いた。
「……やはりジャップの攻略が始まったか。そうなるとこのニューカレドニアも攻略対象に入っているな」
ゴームレー中将の勘は当たっていた。
「ゴームレー司令官、此処は念のためにオーストラリアに退避すべきではないですか?」
部下がゴームレーにそう具申した。南太平洋艦隊の艦艇は殆んどが輸送船や駆逐艦、旧式艦ぐらいしかなかった。
ゴームレー中将の旗艦も旧式補給艦アーゴーンであったのだ。
「……分かった。ニミッツ長官にもそう打電しておいてくれ、艦艇保全のためにオーストラリアに向かうとな」
一種の逃げるであるが、ニミッツ長官も直ぐに了承の打電を送った。
ニミッツ長官も機動部隊を送りたかったが、まだ訓練中であり無理に出しても返り討ちにあうと判断したのだ。
そして南太平洋艦隊はオーストラリアに向けて出港するのだが、この行動をニューカレドニア方面で展開していた伊号潜水艦の伊一二八が発見した。
「敵輸送船団だ。オーストラリアに向かうようだな」
伊号艦長もオーストラリアに退避するとは知らなかった。
「駆逐艦は三隻か……十分に雷撃出来るな。魚雷戦用意ッ!!」
魚雷室では魚雷係が必殺の酸素魚雷を装填する作業をしていた。
「準備完了ッ!!」
「距離四千、敵速十二ノット」
「用ぉ意……撃ェッ!!」
艦長の号令で六発の酸素魚雷が発射された。
「急速潜行ォッ!! 深度八十ッ!!」
伊一二八潜は海水を溜め込んで潜行をした。
伊一二八潜が放った六本の魚雷のうち、五本が艦艇に命中した。
そのうちの二本はゴームレー中将が座乗するアーゴーンであった。
「ど、どうしたッ!?」
「ジャップのサブマリンですッ!! 魚雷二本が左舷に命中して左舷が粗方吹き飛びましたッ!!」
「く、総員退艦せよッ!! 傾斜速度が速いッ!!」
被雷して二分、アーゴーンは左舷に大傾斜をしていた。
「退艦急げッ!! うわァッ!?」
「司令官ッ!? ぐぅッ!!」
脱出しようとしていたゴームレー中将とその幕僚達は海水に飲み込まれたのであった。
そして被雷してから四分でアーゴーンは波間に消えたのである。ゴームレー中将達多くの遺骸と共に……。
更に南太平洋艦隊は伊一二八潜の雷撃で駆逐艦一隻、輸送船一隻を失うのであった。
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