第六十一話
横須賀航空基地の上空を一機の九九式艦爆が飛行していた。九九式艦爆は旋回したり急降下していたが、ゆっくりと着陸をした。
「いや、楽しい飛行だった」
偵察員席から出てきたのは飛行服を着たタルノフ大尉である。
「中々良かっただろ?」
「うむ、カワチ少佐が操縦するとは思わなかったがな」
「ノモンハンでも戦闘機に乗ってたぞ」
「ハルヒンゴールか……」
タルノフ大尉は顔の表情を歪めたが将宏は別に気にしなかった。
「班長、九九式は満州行きですか?」
「あぁ、そうらしい」
「………」
そして整備兵達の喋り声に静かに聞くタルノフ大尉である。
「(忙しそうだなぁ……)」
呑気な将宏である。
「ん? カワチ少佐、あれは……」
「ん? あぁ、あれは短十二サンチ自走砲だ」
別の格納庫付近では史実では実践する前に終戦を迎えた短十二サンチ自走砲三両が鎮座していた。
「ふむ……」
「(……バレないように見てるな。まぁバレているんだけど)」
チラチラと見ているタルノフ大尉に将宏は溜め息を吐いた。
「タルノフ大尉、後で小型ですが空母にも乗り込んでいきますからね」
「ほぅ、空母もか。日本も気前がいいな」
タルノフ大尉は嬉しそうに言うが、将宏はタルノフ大尉に気づかれないようにソッと呟いた。
「手の内を見せてあんたらの満州侵攻を阻止するためだろうが……」
言わば日本の威力を知らせるためでもある。まぁスターリンがどう捉えるかは分からないが一介の尉官になら捉える方向は直ぐに分かる。
「さて、飛行服から着替えてからは横須賀基地に向かうぞ」
「ダー」
二人は横須賀基地に向かうのだが、横須賀基地に回航していた空母千歳に乗艦したのはヒルダとタルノフ大尉である。
「……カワチ少佐はどうした?」
「上に呼ばれた」
タルノフ大尉の言葉にヒルダはそう答えた。
「何でドイツ人と……」
「それは此方の台詞だスラブ人」
ピリピリとした雰囲気になるが、周りの乗組員はというと……。
「……あれはも○たんと姫様との関係だな」
「うんうん。あれは確かにもこ○んと姫様だな」
「次の新刊はいつだっけ?」
「来月のはずだぞ」
「買えるカネがあるかなぁ……」
……色々と色んな意味で駄目かもしれない日本軍である。
そんな事はさておき、二人は飛行甲板にいて発着艦訓練を見ていた。
「さっき同じ機体だな」
「千歳は小型だから新型機は無理なんだ」
タルノフ大尉の指摘にヒルダはそう答えた。
「我がソ連海軍は空母が一隻も無いから空母がある日本が羨ましいな」
「そりゃあ対馬沖で日本海軍にズタズタにやられたからな」
「何だと?」
「何だ?」
またもピリピリした雰囲気である。
「俺、ソ連娘が先に殴るのに一円」
「俺も俺も」
「俺はヒルダさんに一円」
「此処は同時に二円だッ!!」
二人を見ていた乗組員達が賭けまでもし始める。
「……取りあえずお前達は後で飛行甲板三十周だ」
「か、艦長ッ!!」
たまたま厠に行った艦長にそう宣告された乗組員達であった。
「それでインドの様子はどうですか?」
将宏は前田少佐と共に大本営に呼ばれていた。
「粗方落ち着いた様子だ。最初は混乱していたがな」
辻中佐はそう言った。カルカッタに上陸した印度派遣部隊(司令官山下中将)は南遣艦隊や第一、第三機動艦隊の援護の元、カルカッタを完全占領すると防衛線を構築しつつインパール方面への航空偵察を繰り返し行っていた。
史実の仇を取るためにカルカッタ方面からインパールへ侵攻しようとしていたのだ。
これはまだ偵察だけなので本格的に侵攻するかはまだ決定していない。
しかしイギリス軍も黙ってはいない。連日のように攻撃隊がカルカッタを空襲していたが、カルカッタに配備した二式単戦『鍾馗』、二式複戦『屠龍』、局地戦闘機『雷電』等が防空戦を展開してイギリス軍航空部隊の重爆隊を撃墜しまくっていた。
その結果、イギリス軍航空部隊の稼働率は低下し燃料不足になり飛べる機体も戦闘機で迎撃戦のみとなってしまった。
一応、中東から陸上輸送路はあるが補給線が長くなるにつれて燃料がインドに到着するのは少なかった。
そして一番の問題はインド国民である。カルカッタに上陸したボース率いるインド国民軍はカルカッタにて自由インド政府を樹立してインド独立をインド国内に呼び掛けた。
カルカッタを占領し、自由インド政府を樹立したボースに賛同するインド人は数多く、多くの市民がカルカッタに向かった。
途中でイギリス軍が機関銃で市民に待ち構えていたが、一人のインド兵が隊長であるイギリス人を射殺後はイギリス軍に属するインド人達もカルカッタに向かった。
自由インド政府は政府樹立から二週間で五万人のインド兵を持てる事が出来たのである。
勿論、日本もこれを支援して三八式や八九式中戦車乙改を提供したりした。
大いに慌てたのはインドに駐留するイギリス軍である。多くの部隊からインド兵が脱走するのが相次いでおり、軍の崩壊もしそうな勢いである。
最初に混乱していたインドであるが、イギリス軍は武により威圧を市民に向けて何とか終息させたが日本軍と自由インド軍がカルカッタ以降西に向かえばインドは更なる混乱になると予測していたのだ。
「まぁ一応の作戦は完了しました。後はボースがどうやるか次第です。我々は余程の事がない限り支援に徹するだけでしょう」
「うむ、ボース氏には義理を果たした。次は……」
「FS作戦でありもす」
ずいっと神大佐が前に出る。よっぽどやりたかったのだろう。
「分かっていますよ神大佐。ただ今すぐは無理です。輸送船の数が足りません」
「それは承知しておりもす。おいが言ったのは確認の意味でありもす」
神大佐が苦笑する。
「GF司令部としましては第一機動艦隊をトラックに駐留させて第二、第三機動艦隊、戦艦部隊を主力にニューヘブリデス諸島とニューカレドニア島を同時に占領しようとする計画があります」
渡辺戦務参謀がそう他の者に説明をする。
「同時侵攻……というわけかね?」
「その通りです」
「だが、兵力はそこまで無いぞ? 第十七軍が主体なんだ。一応、ブナやラエの南海支隊も回せる部隊は回せるが……」
服部中佐が紙を見ながらそう言った。しかし、渡辺戦務参謀は大丈夫という表情をしていた。
「大丈夫です。海軍陸戦隊も出させます。数はおよそ五千」
渡辺戦務参謀の言葉に陸海の参謀達はざわめきだした。
「それでは今から説明します」
渡辺戦務参謀はオーストラリア周辺の地図を出すのであった。
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