第五十二話
「急降下爆撃だッ!!」
サラトガの砲員が叫び、対空火器が慌てて仰角をとって対空射撃をする。
江草少佐はそれに臆する事なく急降下を続けて高度五百で五百キロ爆弾を投下した。
「これは当たるぞ……」
爆弾の軌道を読んだフレッチャーはそう呟き、フレッチャーの予言通りにサラトガの中部飛行甲板に命中した。
さらに江草少佐の中隊も江草少佐機が爆弾を投下したと同時に五百キロ爆弾を投下して離脱していた。結果的にサラトガには爆弾四発が命中してサラトガは発着艦が不能になった。
「消火急げェッ!!」
サラトガのダメコン隊が消火ホースを使って消火活動を開始するが、両舷から航空魚雷を搭載した九七式艦攻の十八機二個中隊が突撃してきた。
「ジャップのケイトだッ!!」
「撃て撃てッ!! ジャップを近づけさせるなッ!!」
サラトガの対空砲火は九七式艦攻を近づけさせまいと必死の対空射撃をしていた。
この対空射撃で四機の九七式艦攻が撃墜されたが残りの十四機は一斉に魚雷を投下して離脱した。
「回避ィッ!!」
サラトガは必死に避けようとするが両舷から十四本の魚雷が迫られては無理であった。
サラトガの右舷に二発、左舷に四発の水柱が立ち上ったのである。
「江草少佐機より入電ッ!! 『敵レキシントン型空母撃沈ス』ッ!!」
通信参謀が艦橋に上がってきてそう報告する。
「……となれば残りは一隻か……」
「恐らく大西洋から回航されたレンジャーでしょう。こいつを葬れば南太平洋の空母は護衛空母のみになります」
「うむ、引き続き攻撃隊を発艦させる」
直ぐに嶋崎少佐を総隊長にした第二次攻撃隊が発艦してフレッチャー機動部隊へ向かった。
しかし、そこには空母レンジャーはおらず、代わりに護衛空母二隻がいた。
「ちぃ、護衛空母を囮にして逃げたな……」
九七式艦攻の偵察席に座る嶋崎少佐は海上にいる艦隊を見てそう呟いた。
「仕方ない。代わりに護衛空母を葬ろう。ト連送を打てッ!!」
嶋崎少佐はそう言って攻撃隊は護衛空母に襲い掛かったのである。
「囮艦隊から連絡は?」
「は、護衛空母二隻を撃沈されるも、乗組員を救助中との事です」
「……そうか、それなら構わない。護衛の駆逐艦は乗組員の救助が終わり次第ガダルカナルへ向かえ」
フレッチャーはそう指示を出した。
「……これで私は左遷か……」
既にフレッチャーは珊瑚海、ミッドウェーで空母を喪失させていた。ミッドウェーに関しては責任はスプルーアンスのはずであるが作戦部長のキングはフレッチャーの責任だとしていたのだ。
そして今海戦でサラトガと護衛空母二隻を失い、フレッチャーは七隻の空母を喪失させたのだ。
「……後は火の玉ハルゼーやスプルーアンスに任せるとするか」
哀愁が漂いそうな背中を持つフレッチャーに参謀達は声をかける事が出来なかった。
そしてニューカレドニアに帰還後、フレッチャーは機動部隊司令官を解任されて大西洋方面に向かうのであった。
「敵機動部隊は追い払い、残るはガダルカナル島だけ……か」
「第二師団と戦車部隊の揚陸も順調のようです。夜明けまでには終了する見込みです」
第八艦隊参謀長の大西少将は三川中将にそう報告した。第八艦隊は輸送船団の護衛のためタサファロング泊地を警戒していた。
「うむ、我々は我々の仕事をしよう」
そして夜明け前に第二師団の揚陸は終了して第八艦隊と輸送船団はラバウルに帰還した。ラバウルには第三八師団がいるのである。
一方のアメリカもガダルカナル島に増援を送ってはいたが第六艦隊の通商破壊作戦により多数の輸送船の喪失していた。
輸送船に乗り込んでいた海兵や陸兵も沈没時の渦に巻き込まれたりして予定の輸送は出来ていなかった。
「新たに二個連隊を送る。輸送船団の護衛には戦艦ワシントンとサウスダコタもついてもらう。二隻はそのままガダルカナル島に警備に付いてもらおう」
ゴームレー中将はそう指示を出した。ラバウルでも第八艦隊と輸送船団が到着すると直ぐに第三八師団の将兵が乗り込んでとんぼ返りでガダルカナル島に向かっていた。
幸いにも二隻の戦艦とは遭遇する事はなかったが、二隻の情報は伊号潜から知らされた。
「ガダルカナル島にアメリカは増援を送っているようです。戦艦二隻が護衛に付いているとの事です」
「揚陸を急がせろ。重巡では戦艦に勝てんからな」
三川中将はそう指示を出した。これにより第三八師団の揚陸は予定の時間より十五分早く終了してラバウルに帰還した。
日本のガダルカナル島司令官は第十七軍の百武中将がする事になり、『山』を打電した。
「堀長官、第十七軍から『山』を受信しました」
「よし、第一戦隊は直ちに出撃するッ!!」
トラック島に停泊していた大和以下の第一戦隊は錨を上げて、護衛の第三水雷戦隊と共に出撃した。
向かう場所はガダルカナル島であった。
「まさか史実同様に艦砲射撃をするとはな」
「砲術屋として腕の見せどころです」
宇垣参謀長はニヤリと笑う。ガダルカナル島攻撃の総仕上げである。
作戦としては第一戦隊の大和、武蔵、長門、陸奥の四隻が三式弾でヘンダーソン飛行場を艦砲射撃を敢行する。
そして米軍が混乱している時に第十七軍が突撃を開始するのである。
その準備のために飛行場までの道程を工兵隊が整備してりして突撃をしやすくしたり野砲や重砲の支援砲撃をしやすくしたりしていた。
無論、整備すれば米軍も照準が狙いやすいがそれは仕方ない事である。
「それにガダルカナル泊地には多数の輸送船団もいる。上手くすれば敵の物資を捕獲出来る」
「使える物は何でも使いませんとな」
二人はそう言い、第一戦隊と第三水雷戦隊は途中で第八艦隊と合流して輪形陣を形成しながらガダルカナルへ向かった。
それを海中から見ていたのがいた。
「ジャップの艦隊だッ!! しかも巨大な戦艦がいやがるぜッ!!」
それはガトー級潜水艦であった。その連絡は直ぐにガダルカナルへもたらされた。
「何? ジャップの艦隊が此方へ向かっているだと?」
バンデグリフト少将は直ちに攻撃隊を出させようとしていたが連日に渡る基地航空隊からの攻撃で稼働機は僅かに十六機であり、それでも発進した。
しかし、攻撃は失敗に終わり七機を失ったのである。
「フフフ、ジャップと艦隊決戦か。久々に血が騒ぐ……」
ワシントンに座乗しているリー少将はそう呟くのであった。
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