第五話
それからの陸海軍の行動は早かった。
陸軍は直ちに機動九〇式野砲の開発と九〇式野砲の大量生産、その他の野砲の生産中止を表明して野砲は九〇式野砲か機動九〇式野砲しか生産されなくなったのである。
他にも重砲である九一式十サンチ榴弾砲の生産やそれの機動化の開発もするのであった。他にも九四式山砲の大量生産も決定された。
更に九七式中戦車の開発も一旦待てが入り、九〇式野砲を戦車砲にした戦車砲が開発される事になった。
装甲も三倍の七五ミリにする事になり、リベットは無くして全て溶接の傾斜装甲でする事になった。
また重機関銃はアメリカのブローニング十二.七ミリ機関銃に決定となり、アメリカにライセンス生産権取得を申請中である。
また口径を七.七ミリにした新型小銃の開発も急がれた。それと平行して三八式の半自動の開発も急がれた。
何時でも三八式ではあれだし三八式はタイ等へ大量に輸出される事に決定された。
海軍は伏見宮が軍令部総長なので濫用とまで言える行いをした。
旧式艦艇を集めて海上護衛隊を設立させて、八雲等の装甲巡洋艦を現役に復帰させるために改装工事が行われる事になった。海上護衛隊の艦艇も計画され、史実の松型駆逐艦の設計計画もする事になった。
横須賀や呉等の工廠のドックは拡張され、室蘭や函館、大阪等に造船所やドックが分散される事になった。
これには艦本が反発したが、伏見宮は粘り強く説得して艦本を納得させた。また、低速で防御に難があった戦艦扶桑と山城は空母に改装される事が決定した。
これは大艦巨砲主義者から反感を買い、航空機主義者には好感を得る事になる。伏見宮は反感を持つ大艦巨砲主義者達を集めて説得した。
「扶桑型は速度と防御に難がある。それならばいっそ空母に改装した方が扶桑と山城達にも良いはずだ」と大艦巨砲主義者達を納得させる。
更に伏見宮は大艦巨砲主義者達を納得させるために金剛型、伊勢型への四十一サンチ砲搭載を提案した。更に長門型を四六サンチ砲搭載する改装案も出した。
これには大艦巨砲主義者達も食いつき、一応は大艦巨砲主義者達も納得した。
そして伏見宮は新型戦艦(大和型)に四六サンチ砲から五一サンチ砲等の搭載を艦本へ提案した。
艦本はこれには慌てたが、伏見宮は「アメリカを圧倒的に打ち倒すには四六サンチ砲以上じゃないと無理だ」と艦本を納得させた。
なお、五一サンチ砲は時間があれば作れる事は可能である。日本海軍は試作ではあるが四八センチ砲を作っていたので時間があれば作れるのだ。
伏見宮の粘り強い説得に艦本も遂に新型戦艦の改装決定を了承した。
新型戦艦は高角砲や対空機銃を増設させて対航空機対策を万全にさせたのである。更に速度の向上も対策に入れた。
一連の事に伏見宮は大艦巨砲主義者達、航空機主義者達からに「神様仏様宮様」とアダ名が出来るほどだった。
伏見宮の変わりように多くの将官達は疑問に思ったが、「大艦巨砲主義者と航空機主義者を妥協するためだろう」と思ったらしく疑問は直ぐに沈静化となるが数人の将官はそう思ってなかった。
「……最近の宮様は何か変わっているな」
「山本もそう思うか? 俺もだ。あの宮様がああなるとはな……」
海軍の水交社の一室で二人の将官が話し合っていた。
「横須賀基地に現れたあの戦闘機群とエンジンを見てからだな」
「あぁ、そのようだな」
吉田中将が頷く。
「ところで……明後日に宮様に呼ばれているんだが……」
「本当か山本? 俺も明後日に宮様に呼ばれているぞ」
吉田中将は山本中将の言葉に驚く。
「……何かあるな」
「あぁ……」
吉田中将と山本中将は何も言わなかった。
二日後、二人は伏見宮と、とある料亭にいた。
「……それは真ですか宮様?」
将宏の説明を聞いた山本がゆっくりと口を開いた。
「……残念ながら真実だ。我が日本帝国は1945年にアメリカに負ける」
伏見宮は二人にそう告げた。
「そして私はソロモン諸島のブーゲンビル島上空で戦死……ですか」
「うむ、アメリカに暗号解読をされて待ち伏せされてな」
山本の呟きに伏見宮は補足を付ける。
「ですが……何故私達に教えたのですか?」
吉田中将が訪ねた。
「それは未来の日本海軍を担う一員だからだ」
伏見宮は二人にそう言った。
「恐らく戦争への道は避けられないだろう。そこで陸軍と一致団結をして対米戦に挑まないといかんのだ。そのために君ら二人を選んだのだよ」
「そうだったのですか……」
「それと君らの盟友も復帰させる予定だ」
「ほ、堀を海軍に復帰させるのですかッ!?」
伏見宮の言葉に山本は驚いた。
「あぁ、河内少尉の意見だ」
伏見宮の言葉に将宏は頷く。
「堀予備中将は必要な人ですから」
「それは俺も同感だ」
将樹の言葉に山本中将が頷く。
「……頑張ってくれるな?」
「……分かりました。未熟者ですがやらせてもらいます」
「同じく私もです」
二人は伏見宮に頭を下げて料亭を後にした。
「……山本さん相手には疲れました……」
「ハハハ、流石に河内君も疲れるかね?」
「一応山本さんは自分の世界では軍神に近いですからね。まぁ自分はソロモン消耗戦のがありますからあまり評価はしませんけど。それに戦闘機無用論も取り下げるようですし、戦闘機パイロット育成も拡充しなければなりません」
将宏は苦笑する。先程の説明で戦闘機無用論が今の日本では無理なことを山本に説明すると山本は顔面蒼白していた。
「工作精密機械の件はどうなっていますか?」
「陸軍と共同でドイツやイギリス、アメリカに大量発注している。今頃ドイツや他の国々は大慌てだろう」
伏見宮が笑う。
「それと少尉で良かったのかね? 儂としては少佐くらいがいいが……」
将宏は陛下の計らいによって戸籍を手に入れて海軍少尉になっていた。
「こんな若い少佐はいません。開戦までに少佐に昇進したらいいですよ」
将宏はそう言って日本酒を飲んだ。日本酒が胃に入って身体を熱くさせる。
将宏の戦いはまだまだこれからなのだ。
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