第四十七話
――七月上旬、東京――
ミッドウェーから漸く日本に戻った将宏と前田少佐は疲れる身体に鞭を入れて山本首相達との会合に出席した。
「……堀、それに河内君や前田少佐。ミッドウェーでは御苦労だった」
まず山本が将宏達に頭を下げる。
「一応、米機動部隊は全滅させた。これでアメリカに残っている正規空母はサラトガと大西洋のワスプとレンジャーのみとなった」
堀長官はそう報告する。
「ですがまだ建造中のエセックス級空母群がいます。それに護衛空母群の存在も確認されています」
将宏はそう言う。非装甲の護衛空母だが、航空機輸送や船団護衛には十分に役に立つ代物である。
「だが、エセックス級空母はまだ建造中だ。少なくとも来年までは出てこれんだろう」
東條がそう発言する。
「それまでにする事は山程ありますよ」
将宏は苦笑する。
「……ドイツを助けるためにインドを攻めるか、オーストラリアを攻めるか……だな」
伏見宮がそう呟いて世界地図を見る。海軍は護衛空母群の存在が確認されてから、インド攻略より先にFS作戦をしてアメリカの動きを押さえる方が先ではないかという意見が出ていたのだ。
勿論、インド攻略も重要なのは分かっていたがインドは大きすぎるので下手をすれば史実の大陸戦になりそうであった。
「今のところ、内地とトラックの燃料備蓄は上手くいっている」
「それにパイロットの育成も順調だ」
嶋田次官も言う。しかし、肝心の機動艦隊は一個がほぼ壊滅している。
「大鳳と雲龍型はどうですか?」
将宏は伏見宮にそう聞いた。
「大鳳はよくて八月上旬、雲龍も八月中旬くらいだろう」
大鳳と雲龍型空母は史実より異なる第三次海軍補充計画(所謂三計画)で計画されていたがドックの空きが無かったため大和型や翔鶴型より一年遅れた昭和十三年に起工されたのだ。
この大鳳と雲龍型は史実の空母アンティータムのようにアングルド・デッキを付けており、搭載機も大鳳は八七機、雲龍型は六九機程になっていた。また、大鳳と雲龍型は史実よりも排水量は異なっており大鳳は約四万六千トン、雲龍型は二万八千トンになっていた。
なお、二空母とも飛行甲板の装甲化はされている。
「……大鳳と雲龍、天城は戦没した三空母の乗組員で構成されている。要は使い様だな、第一機動艦隊は当分動けないし、動けるのは第二、第三機動艦隊……」
将宏が腕を組みながらそう呟いた。
「河内君ならどうするかね?」
不意に山本首相が将宏に意見を求めた。
「自分ですか? 自分なら……ドイツを助けます」
「ほぅ、ドイツかね?」
「はい」
「その理由は何かね?」
「北アフリカのドイツ軍支援とドイツとの更なる同盟強化ですね」
将宏は世界地図のアフリカのジブチを指差した。
「ジブチを占領してエジプトのイギリス軍の息の根を止めます。ジブチを占領すればエジプトのイギリス軍は干上がります」
「確かにジョンブルは干上がるな」
「これには第二機動艦隊と就役した紅龍と銀龍も参加させます。その間に角田機動部隊を内地に戻して修理と乗組員の休養をさせます」
「ふむ。確かに紅龍と銀龍のパイロットは配属させたばかりのヒヨコだから一応は実践にはなるだろう」
堀長官が頷いた。
「それとドイツとの同盟強化ですが此方からドイツ海軍に対して酸素魚雷の提供と艦艇の提供をします」
「ふむ、酸素魚雷も分かるが艦艇の提供は何かね? やはり前の議題に出ていた出雲等を売却するのか?」
山本首相が将宏に聞いた。
「いえ、戦艦を提供します」
『なッ!?』
将宏の言葉に全員が驚いた。
「ちょ、ちょっと待て河内君ッ!! 今の状況でどの戦艦を提供するんだね。まさか大和とか言うのかね?」
堀長官が聞いた。
「大和? いえ日本の戦艦ではないですよ」
『何?』
将宏の言葉に全員が疑問に思った。
「アッヅ環礁で捕獲したイギリス海軍の老齢戦艦を提供するんです」
『何ィッ!?』
将宏の発言に全員が驚いた。
「……だがな河内君。提供するにしても何の戦艦を提供するのかね?」
伏見宮が全員の代表として将宏に聞いた。
「ウォースパイト、レパルス、プリンス・オブ・ウェールズは此方で動かしていて必要ですから提供しません。提供するのはロイヤル・ソブリン、リベンジ、ラミリーズ、レゾリューションの四隻ですね」
将宏は資料を見ながらそう言った。
「しかし提供する戦艦は速度が遅いので改装中だぞ?」
速度が遅い四隻は戦艦部隊に入れるために機関を総入れ換えをしていた。
「ドイツ大使館に連絡して必要な武装は向こうで作って回航したら自分らでやってもらいましょう。我々はドイツ海軍に応じて要らない武装は取り外して熔鉱炉の中にぶちこんだらいいんです。武器の製造に役に立ってもらった方がいいですよ」
『ハハハ』
将宏の言葉に笑いが出た。
「……だとするならば四隻の改装は機関だけで後は撤去だな」
堀長官はそう言う。
「ならば直ぐにでもドイツ大使館に連絡しなければならんな」
伏見宮も頷く。
「なら私は直ぐに退席してドイツ大使館に向かおう。堀も一緒に来てくれ」
「分かった。それでは皆さんまた次回に」
山本首相と堀長官は慌てて退席した。
「忙しいですな」
「まぁ仕方ありませんよ。ところで杉山さん、新型中戦車の開発はどうなっていますか?」
「フフフ、順調に育っているよ河内君」
杉山はニヤリと笑った。しかも東條もニヤリと笑っており、少し危ない表情である。
「ドイツからアハトアハトを提供されている。既にライセンス権も取得しているし、今は二十門が生産中だ」
杉山はそう言った。
「機関銃は十二.七ミリと七.七ミリの二つだ。装甲は前面で九〇ミリで側面は七五ミリだ。勿論装甲は傾斜するようにしている。車体はティーガーをモデルにしている。河内君で言えば五式中戦車のような物か」
「まぁ五式中戦車に比べて三七ミリ砲が無いくらいですかね」
「既に試作車は車体が完成している。後はアハトアハトに適合するかだな」
「成る程」
「それと九七式中戦車も装甲を厚くした改良型を試作しているし、七五ミリ戦車砲も五五口径にした戦車砲も開発している。それに速度は六十キロを目標に頑張っている」
「凄いですね。ですが、整備しやすく大量生産しやすいのをお願いします」
「それくらいは分かっている。あくまでも六十キロは目標だからな」
杉山は分かっているという表情をしている。
「それと並行して自走榴弾砲や砲戦車も開発している」
将宏達の会合は夜遅くまで続くのであった。
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