第四十五話
ドーントレスの攻撃はまだ続き、加賀には爆弾三発が命中して加賀は瞬く間に炎上した。
「敵機急降下ァァァーーーッ!!」
突然、赤城の見張り員が叫ぶ。
赤城上空に四機のドーントレスが急降下をしていた。
「取舵二十ッ!!」
青木艦長が伝声管に叫び、操艦手が舵を回す。ドーントレスは四百五十キロ爆弾を投下して離脱していく。
一発目は至近弾、二発目は前部飛行甲板に命中、三発目は至近弾、四発目は後部飛行甲板に命中した。
更にドーントレスは蒼龍にも急降下爆撃を敢行。
蒼龍艦長の柳本大佐自らが必死の操艦を展開したが、四百五十キロ爆弾三発が命中した。
「消火急げェッ!!」
飛行甲板では消火ホースを持った応急隊が消火活動を開始する……が、加賀と蒼龍は最悪の事が起きていた。
「早く一式散水器のバルブを回せッ!!」
応急長の言葉に応急隊員がバルブを回すが水は出なかった。
「駄目です、散水器が故障していますッ!!」
爆撃の影響で消火の要である一式散水器が故障していたのだ。
そのため加賀と蒼龍の二隻は消火ホースでの消火活動を余儀なくされる事になる。
なお、赤城の散水器は故障する事なくその消火威力を存分に発揮した。しかし、発艦前であり爆弾と魚雷、ガソリンを搭載していた機体が爆発をして手がつけられなくなってきた。
一方、空母飛龍は三空母とは少し離れていたところを航行していたので被害は無かった。
「……やはり史実通りになってしまったか……」
双眼鏡で赤城の様子を見ていた第二航空戦隊司令官の大西少将はそう呟いた。
「伊藤、攻撃隊の発艦はそのまま続行させる。敵攻撃隊の後ろに攻撃隊を付いて行かせる」
「分かりました」
そして大西少将は第一機動艦隊に対して電文を放った。
『我、航空戦ノ指揮ヲ取ル』
その電文は第一艦隊や第二機動艦隊も受信した。
――第二機動艦隊旗艦翔鶴――
「赤城、加賀、蒼龍の三空母がやられたそうだ」
「なッ!?」
山口長官の言葉に将宏は驚いた。
「雲を利用したドーントレスが史実通りに急降下爆撃を敢行してあっという間に三空母を炎上させたらしい。三空母は誘爆が激しくて手が付けられないみたいだ」
山口長官はそう言った。
「……山口長官、此処は思いきって第二次攻撃隊の編成を変えてみてはどうですか?」
腕を組んでいた将宏が山口長官に言う。
「編成を変えるだと?」
伊崎参謀長が将樹に聞いた。
「第二次攻撃隊は数を減らして攻撃目標を敵護衛艦艇にするんです。そしてその間に第二機動艦隊は米機動部隊を強襲して敵空母を捕獲します」
「何ィッ!? 敵空母を捕獲だとッ!?」
伊崎参謀長が驚いた。
「はい、アメリカの空母は防御とダメコン隊がいるのでそう簡単には沈んではいないと思います」
将宏はそう言った。
「成る程……最早手が付けられない三空母の代わりに敵空母を捕獲か……面白いじゃないか」
山口長官がニヤリと笑う。
「奥宮、攻撃隊の数を減らして攻撃目標を直ちに変えろ」
「分かりましたッ!!」
奥宮航空参謀が勢いよく艦橋を降りていく。
「そうだな、確かに此方には蒼鶴もいるからな」
納得するように伊崎参謀長が頷いた。
しかし、既に向かわせた第一次攻撃隊が敵空母にほぼ引導を渡した事を知ったのは第一次攻撃隊からの戦果報告であった。
また、第一機動艦隊では護衛空母から発艦した攻撃隊の攻撃を受けていた。
「なぶり殺しだぜッ!!」
炎上している三空母にドーントレスとアベンジャーが殺到する。加賀はこの攻撃で新たに爆弾二発、魚雷三発が命中して完全に行き足が停止した。
蒼龍にも爆弾三発が命中してこれが止めとなった。艦長の柳本大佐は蒼龍と運命を共にしようとしたが、乗組員数人が柳本大佐を気絶させて無理矢理退艦させた。
赤城はまだ航行は可能で攻撃を何とか回避していたが左舷からアベンジャー雷撃機三機が接近してきた。
「左舷から雷撃機接近ッ!!」
「面舵一杯ッ!!」
赤城は懸命に避けようとするが一本が命中した。この一本が赤城の舵を破壊した。
「舵がやられましたッ!!」
「何ィッ!?」
赤城は面舵十八度から回避出来なくなり、それを見た新たなアベンジャー雷撃機四機がまたも左舷から接近する。
「撃て撃て撃てェッ!!」
対空射撃で一機を撃墜したが、残りは魚雷を投下して離脱する。更にワイルドキャット一機が降下して赤城の艦橋に向かって機銃掃射を加えた。
「長官ッ!!」
機銃掃射で窓ガラスが全部割れて床に落ちる中、古村参謀長が倒れていた小沢長官を起こす。
小沢長官の左肩から下は無かった。左肩に十二.七ミリ機銃弾が命中して吹き飛ばしたのだ。
「わ……儂の事は……いい……大西に全指揮を……」
「しっかりなさって下さいッ!! 源田は何処だッ!!」
古村参謀長が辺りを見渡す。源田中佐は隅の方で頭に銃弾を受けて脳髄を撒き散らしながら倒れていた。
――聯合艦隊旗艦大和――
「堀長官、第一機動艦隊の赤城、加賀、蒼龍の三空母がドーントレスの急降下爆撃でやられたようです」
通信紙を持った通信参謀が顔を青ざめながら言ってきた。
「……やはり歴史はそう簡単には変わらないか」
堀長官はそう呟いた。
「長官、此処は第二機動艦隊を出して敵機動部隊を叩くべきかと……」
堀長官の傍らにいた宇垣参謀長がそう具申した。
「心配するな宇垣。恐らく山口や河内君は攻撃隊を出しているだろう」
自分が指示を出すまでもないと堀長官はそう判断したのである。
その頃、高橋少佐を総隊長にした第二機動艦隊の第一次攻撃隊がスプルーアンスの機動部隊に到着していた。
「赤城達の敵討ちだッ!! 敵空母は一隻残らず沈めろッ!!」
高橋少佐が無線機に向かって怒鳴る。
後部座席にいる偵察員は『ト連送』を発信している。
攻撃隊は残っていた三空母に迫った。
米機動部隊は対空砲火を放ち、攻撃隊を寄せ付けないようにするが攻撃隊はそれを臆せずに突撃する。
「高度五百ッ!!」
「撃ェッ!!」
高橋少佐率いる艦爆隊の中隊が急降下をして敵空母ヨークタウンに爆弾四発が命中して黒煙を上げる。
更に他の中隊も急降下爆撃をして生き残っていたレキシントン、ワスプに命中弾を出す。
ホーネットは第一機動艦隊からの攻撃隊によって既に波間に消えていた。
炎上した空母に向かって護衛艦艇の対空砲火を抜けた嶋崎少佐の雷撃隊が迫った。
「用意……撃ェッ!!」
九七式艦攻は距離を十分に詰めてから一斉に航空魚雷を投下して離脱していく。
そして九七式艦攻隊が上昇中に三空母から次々と水柱が立ち上がったのである。
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