第四十三話
今回、航空参謀にはあいつが就任しています。
日本海軍は総力を挙げてミッドウェーに向かっていた。
空母部隊は第一機動艦隊の他にもトラックから出撃した山口多聞中将の第二機動艦隊もいた。角田中将の第三機動艦隊は残念ながらセイロン島でイギリス軍の輸送路を叩いていた。
第三機動艦隊には多くの予科錬や飛行学校を卒業したヒヨコ達が移動させられて輸送船団を叩いていた。
要するに、輸送船狩りはヒヨコにとってはやりやすい任務だからである。ヒヨコ達もそのあかげでかなりの腕を上げていたのであった。
「この戦……やはり早すぎたのではないだろうか……」
「長官もそう思われますか?」
空母翔鶴の艦橋でポツリと呟いた山口中将の言葉を伊崎参謀長が拾う。
「いくら国民からの要望だからと言ってミッドウェーに向かうのでも角田さんの機動部隊を持ってきてからでも良かったはずだ」
「堀長官もそう思っていたらしいんですけど、マスコミの報道が熱を増しているようで……」
会話を聞いていた将宏が溜め息を吐いた。
「……小沢さんの第一機動艦隊に何も無ければいいのだが……」
山口長官は腕を組みながらそう呟いた。
一方、スプルーアンス少将を新たに司令官にした米機動部隊がミッドウェーに向かっていた。
「……オザワと直接対決しても此方が負けるだけだ……なら攻撃隊を一気に出して先制攻撃するしかないな」
スプルーアンス少将はそう決断した。
その頃、吉良少将の第四機動艦隊はアリューシャン列島の米軍基地であるダッチハーバーを爆撃していた。
霧等の天候に悩まされつつも敢行された攻撃は二波に及んだがそのうちの第二次攻撃隊の零戦一機が対空砲火で被弾。
近くのアクタン島に不時着して救助してもらう事になった。損傷する零戦に寄り添うように後ろから二機の零戦が付き添う。
そして指定されたアクタン島に到着すると、損傷した零戦は車輪を出して着陸しようとする。
しかし、草原のはずの地面が光ったのを上から見ていた零戦が気付いた。
「如何ッ!? 古賀ッ!! そこは湿地だッ!!」
それを聞いた古賀一飛曹は慌てて操縦桿を引いて上昇する。
まさに間一髪だった。無線機が無かったら零戦はそのまま湿地に不時着が失敗するかもしれなかったのだ。
損傷した零戦は改めて海岸に不時着したのであった。
そして後にパイロットは潜水艦に救助されたのである。勿論不時着した零戦は潜水艦搭載の十四サンチ砲で破壊した。
後に哨戒のカタリナが破壊された零戦を発見して上層部は心底悔しがっていた。無傷な零戦を手に入れれば零戦の弱点が分かると踏んでいたからだ。その後の空中戦の戦法や兵器開発も変化があったに違いない。
それは兎も角、第四機動艦隊はダッチハーバーを徹底的に破壊して、そのまま攻略目標であるアッツ島とキスカ島への爆撃を敢行。
両島の重要施設等は徹底的に破壊したのである。
「吉良司令官。細萱中将にミッドウェーへの急行を具申しないのですか?」
「あぁ……する必要がない」
参謀の言葉に吉良少将はそう答えた。
「ですが……」
「目の前の作戦を片付けないでミッドウェーなんぞ行かん。行くのは作戦を片付けてからか堀長官の命令が来るまでだ」
「は、分かりました」
吉良少将はそう言うが吉良自身もミッドウェーへ急行したかった。
しかし司令官の立場として踏み留まっていたのである。
そして日付は運命の六月五日となった。
――第一機動艦隊旗艦赤城――
「小沢長官、ミッドウェー攻撃隊の発艦準備完了しました」
「うむ、直ちに全機発艦せよッ!!」
小沢長官はそう叫んだ。
瑞鳳以外の赤城、加賀、蒼龍、飛龍の四空母から陸用爆弾を腹に搭載した攻撃隊が発艦していく。
合計して史実より十二機多い百二十機の攻撃隊がミッドウェー島へと向かう。
「索敵機から報告はまだ無いのか?」
「は、まだ一報はありません」
古村参謀長が答える。
「むぅ、二段索敵にはしているがそう簡単には見つからんか」
「長官、御安心下さい。例え敵空母が現れても我が航空隊は精鋭無敵ですッ!! 敵空母等簡単に捩じ伏せてみせますッ!!」
そう力説するのは新たに航空参謀に就任した源田中佐である。
というのも、元々の航空参謀であった内藤中佐は肺炎に掛かって大事をとって入院していたのだ。そして代わりに練習航空隊で戦闘機無用論で閑職に回っていた源田中佐が暫くの間、航空参謀に就任したのだ。
小沢長官は源田の言動にあまり好まなかった。戦闘機無用論の事もあり、史実の事もあったのだ。取りあえずは代わりなので置いている感じである。
「長官、敵機動部隊は必ずいますッ!!」
古村参謀長が力説する。源田航空参謀は半信半疑な表情であったがミッドウェー攻略が重要なのは分かっていたので米軍が何もしてない事はないと思っていた。
先程、ミッドウェー島から飛来したB-17に発見されたのだ。
「分かっている。祥鳳と瑞鳳には全機発艦用意させておけ」
「分かりました」
古村参謀長が頷いた。
そして二段目の利根四号機の零式水偵が敵機動部隊を発見した。
「利根四号機より入電ッ!! 『敵空母発見ス。空母三隻ナリ』」
「やはりいたか」
小沢長官が呟いた。
「長官ッ!!」
「攻撃隊発艦せよッ!!」
第二次攻撃隊は敵空母に備えて対艦用に転換していた。四隻の空母が攻撃隊を発艦させていく。
『ミッドウェー島からの敵攻撃隊が接近しますッ!!』
電探員が叫ぶ。対空レーダーがミッドウェー島からの攻撃隊を探知したのだ。
「祥鳳と瑞鳳に下命、零戦は全機発艦せよッ!!」
防空空母として合計六十機を搭載している祥鳳と瑞鳳から零戦隊が発艦していく。
「長官、友永大尉より入電。ミッドウェーへの爆撃は成功しているようです」
通信参謀が通信紙を持ってきた。
「……史実より艦爆と艦攻を六機ずつ増やしたせいかな?」
「恐らくはそうでしょう。それに一式七番六号爆弾も効いたかもしれません。……ですが油断は禁物です」
「うむ、それは分かっている」
攻撃隊には一式七番六号爆弾三型も搭載させていた。この攻撃でガソリンタンクが破壊され炎上していた。
そしてミッドウェー島攻撃隊が第一機動艦隊へと襲来した。
しかし、五月雨式に襲来するミッドウェー島攻撃隊は零戦隊の包囲網を突破出来ずに次々と海面に墜落していく。
「友永隊の受け入れの準備を進めろ。そして対艦準備をさせる」
友永大尉のミッドウェー攻撃隊は既に帰還途中だった。
「敵機動部隊の攻撃隊が来る前に回収したい」
「ですがそうすると……」
「危険はある。しかし攻撃隊を回収しなければ彼等は不時着水を余儀なくされる」
小沢長官はそう言った。
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