第四話
「最後は海軍か……」
将宏は内田大臣と中島社長が退出したのを確認すると溜め息を吐いた。
内田大臣に対しては高速道路の建設や、新幹線の開発くらいしか浮かばなかった。
というより将宏も国内の開発にどうしたらいいか分からなかったのだ。
「ブルドーザー等を使ってやるのはええけど、日本はまだブルドーザーを持ってないからな」
将宏はそう呟いた。
「いいかね?」
その時、伏見宮が入ってきた。
「あ、はいどうぞ」
「内田大臣はあまり詳しくは言わなかったが中島社長は有意義な時間だったと言っていたよ」
中島社長には史実のZ計画の話をしていた。
中島社長にZ計画の話をすると、中島社長は子どものように目をキラキラさせて聞いていたのだ。
「ハハハ、それなら良かったです。……では話しますか」
「うむ。バシバシとこい」
伏見宮が頷いた。
「まず、海軍は輸送船団を護衛する護衛艦隊を設立する事です。伏見宮様、我が国の四方は何に囲まれていますか?」
「……海……であろうな」
「はい、海です。そして我が国は無資源国に近いのです」
「……成る程。戦争となると必然的に物資や資源を日本へ送る輸送船団を護衛するのは当然か……」
「はい。日露戦争でも海軍は輸送路を軽視してウラジオ艦隊により多数の輸送船が沈められています」
「確かにな。護衛艦隊の重要なのは分かるな」
「旧式艦艇を使用して護衛艦隊を設立するのが妥当かと思います」
「成る程」
将宏の説明に伏見宮が納得するように頷いた。
「護衛艦隊は対空と対潜の装備を徹底してやるべきです。特に対潜ですが、第一次大戦時にドイツのUボートが輸送船を叩いています」
「ふむ……となると、我が海軍の潜水艦も輸送船を叩いた方が賢明かな?」
「はい。その話は後で言おうとしていましたがその通りです。伊号潜水艦は艦隊決戦に参加するために配備されているかと思いますが、輸送船団を攻撃するがもっと効果的です。兵士はメシが無ければ戦えません」
「……君らの陸海軍はそれを軽視したと?」
「……はい」
伏見宮の言葉に将宏は頷く。
「……直ぐに設立する必要はあるな。そして潜水艦は輸送船団を攻撃するように頭を変えるか」
伏見宮はそう決断した。
「他には何があるかね?」
「えぇと空母艦隊の設立と空母の増産です。アメリカは戦時中にエセックス級空母を二十隻以上を建造して対日戦に投入しています。小型の護衛空母なんぞ五十隻あまりです」
「むぅ。それは厄介だな」
伏見宮は唸る。
「空母が揃えられるなら戦艦も揃えられるな」
「アメリカが本気を出せばそうなりますが、アメリカは真珠湾攻撃で空母思想に変えたので空母を優先して建造しています」
「……我が国の工業力では到底無理であろうな」
「チートなアメリカだからこそ出来る技ですからね」
「ならどうするのかね?」
「取りあえず、旧式の扶桑型は空母に改装すべきです。今の扶桑型だと長門型と行動する事が不可能かと思います」
「扶桑型をか……」
「はい、日本海軍も戦時中に大和型戦艦を空母に改装しています(まぁ十日で沈められたけど……)」
「先程内田大臣にも言いましたが、修理工廠や造船所の増設も必要です」
「ふむ。どの辺りにやるべきかね?」
「ええっと……」
将宏はまず世界地図を広げた。
「海外の作戦を考えればトラック諸島に修理工廠を建築すべきです」
将宏はトラック諸島を指差した。
「……南方戦線を考慮してかね?」
「勿論です。南方戦線の艦艇最前線は恐らくトラック諸島になるかと思います」
「ふむ、それは賛成だな」
「ありがとうございます。それで造船所ですが、日本各地に分散して敵の空襲を避けるのが得策です。北から行きますと室蘭、函館、大湊、気仙沼、男鹿、塩釜、銚子、新湊、蒲郡、大阪、敦賀、新居浜、別府、博多等に分散してやるべきです」
「今言ったのは戦艦をも建造出来る造船所かね?」
「いえ、駆逐艦や巡洋艦、潜水艦、輸送船程度です。戦艦や空母が建造出来るとしたら大阪か銚子くらいですね」
「ふむ……いきなりは無理だろうな。何ヵ所かずつに分けて建築するしかないだろう。何せ我が国にはカネが無いからな」
「アハハハ……」
伏見宮の言葉に将宏は苦笑した。
「そうなると、大量の工作機械を購入する必要があるな」
「それは超が三個ぐらい付くほどですよ伏見宮様。日本の工業力はそれほど不憫ですから」
「……言い返せないのが悔しいな」
「仕方ないです。艦艇の建造ですけど、輸送船やタンカーを大量に建造しましょう。輸送船団や艦艇に必要ですからね。それと巡洋艦、駆逐艦の建造もです」
「輸送船やタンカーは分かるが、巡洋艦や駆逐艦はいるのかね?」
「はい。艦艇で消耗率が多いのは駆逐艦や巡洋艦です。建造に電気溶接やブロック工法を輸送船やタンカーで経験させてから建造するのがいいかと。それと重巡洋艦は量産性、航続距離、防御重点にしたのがいいと思います」
「何故かね?」
伏見宮は将宏に聞いた。
「その……日本の重巡洋艦の構造は難しいのでドック入りすれば復帰が遅いので。出来れば戦線復帰を早めにした重巡洋艦が欲しいんです。何せ相手はアメリカですから」
「……であろうな。艦本が何を言うか分からんが……」
「後は年功序列は止めて実力主義で艦隊司令官を決めた方がいいかと。そのせいで空母戦に素人な南雲中将が第一航空艦隊を指揮していましたから」
「むぅ、それは重要だな。努力はしてみるが……」
……案外、内部の反対者は多いようである。
「それと空母ですが、出来れば大型の正規空母を開戦までに十隻は揃えたいですが、まず無理だと思うので中型空母……六十機程度の空母を揃える方がいいと思います」
「説明にあった雲龍型空母かね?」
「はい、五月に空母運用方法に関して航空本部から通達されると思いますが、艦本で独自に計画すべきでしょう」
「良かろう。艦本にも通達しておく。他はあるかね?」
「……今のところはそれだけです」
「分かった。早速海軍省と軍令部で検討しよう」
伏見宮は将宏にそう言った。
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