第三十九話
第二機動艦隊の上空では猛烈な迎撃戦が展開されていた。
「何としてでも米軍の攻撃隊を空母に近づけさせるなッ!!」
零戦の操縦席で将宏が無線機に向かって叫ぶ。
飛来した米軍の攻撃隊は第一迎撃隊の活躍もあったようで約百機あまりだった。しかしそれでも多いに越したことはない。
「チィッ!!」
不意に将宏が後方を振り返る。そこにはワイルドキャットが将宏の零戦を追尾していた。
絶好の位置に着いたワイルドキャットが十二.七ミリ機銃を放つ。ワイルドキャットの放った弾丸は零戦の右翼に当たるが、史実より装甲が厚い零戦二一型には致命傷とはならず跳弾となり何処かに飛んでいく。
「ちぃ、当てやがったなこの野郎ッ!!」
将宏は吠えて機体を左に傾けて左旋回に入る。
史実より旋回性能は低いが、ワイルドキャットと比べると圧倒的である零戦二一型はワイルドキャットの後方に回り込んだ。
「墜ちろォッ!!」
将宏は二十ミリ機銃の発射レバーを握る。
至近距離から撃ち込んだ二十ミリ弾が操縦席付近に命中し、ワイルドキャットはふらふらしながら海面に落ちていく。
「これで今日は二機目やな」
将宏がそう呟いた時、爆発音が聞こえた。
「………くそッ!!」
空母日進がドーントレスの急降下爆撃を受けて炎上していた。
『マサヒロッ!! 後方からワイルドキャットだッ!!』
その時、無線機からヒルダの叫び声が聞こえた。
「げ」
将宏が後ろを振り向くと二機のワイルドキャットが射撃しようとしていた。
将宏は咄嗟にフラップを開いて操縦桿を左に倒して左旋回に入る。
ワイルドキャットは将宏がさっきまでいたところに銃撃をした。
今の将宏の左旋回に着いてこれず、思わず何も無い場所に銃撃したのである。
『マサヒロ、一緒にやるぞッ!!』
「分かっとる」
将宏は後方にいたヒルダと合流して下方銃撃しようとする。
「貰ったッ!!」
射爆照準器に写ったワイルドキャットのエンジンに機首の十二.七ミリ機銃弾を叩き込んだ。十二.七ミリ機銃弾はワイルドキャットのエンジンを貫き、エンジンから火が噴いた。
火は瞬く間に黒煙へと変わり、エンジンをやられたワイルドキャットのパイロットはパラシュートで脱出した。
人間がいないワイルドキャットは海面に落ちていく。無論ヒルダもワイルドキャットを撃墜させた。
「これ以上やらしてたまるかッ!!」
将宏は新たな獲物を求めてヒルダと共に空戦に加わった。
「敵雷撃機接近ッ!!」
「取舵一杯ッ!!」
翔鶴の防空指揮所では城島艦長が懸命な回避運動を指示していた。右舷から迫ってきたデバステーター六機に対して右舷の高角砲や四十ミリ連装機銃、二五ミリ三連装機銃が応戦する。
速度が遅く、重い航空魚雷を搭載しているためフラフラなデバステーターは十分な回避が出来ずに次々と撃墜され海面に叩きつけられていく。
「敵機急降下ァッ!!」
「ッ!?」
見張り員が叫んで城島艦長は上空を見た。三機のドーントレスが翔鶴に向かって急降下を敢行していた。
「取舵二十ッ!!」
城島艦長が直ぐに指令して操艦手が舵を回す。対空砲火で先頭の一機は砕いた。しかし二番機が四百五十キロ爆弾を切り離した。
「総員衝撃に備えろォッ!!」
四百五十キロ爆弾は前部飛行甲板に突き刺さって爆発した。更に三番機は操縦士が戦死したのか、切り離す事も上昇する事もせずに翔鶴の中部飛行甲板に激突して爆発した。
「消火急げェッ!!」
応急隊の一人がバルブを回して一式散水器を放水する。所謂スプリンクラーの一種であり、今のところは戦艦と空母にしか搭載されていない。
応急隊が炎上している箇所に向けて放水を始めた。幸いにして格納庫は空であったためミッドウェー海戦の惨事は免れていたのである。
「爆弾一発、体当たり一機で航行は可能ですが戦闘は不能です」
「……格納庫に爆弾や魚雷を搭載した機体がいたら翔鶴は耐えられなかっただろうな」
「そうですな……戦訓のおかげかもしれません」
報告を聞いた山口長官と伊崎参謀長はそう言い合っていた。
「飛行甲板が使えないならやむを得ない。トラックに帰らせるしかないだろうツラギにいる志摩艦隊を護衛にしてトラックに帰らせる」
「分かりました。志摩司令官に連絡しておきます」
「飛行甲板が使えないなら航空機は他艦で受け入れてもらうしかない。河内機と石原機は瑞鶴に着艦せよ。我々司令部も瑞鶴に移乗する」
「分かりました。駆逐艦を横付けにさせますので暫くお待ち下さい」
そして駆逐艦霞に司令部は一旦は移乗してから瑞鶴に移り込んだ。将宏とヒルダも瑞鶴に着艦をした。
「申し訳ありません。守り切れませんでした」
飛行服のまま艦橋に上がってきた将宏は開口一番にそう言って山口長官に頭を下げた。
「いや仕方ない事だ。大きな被害は翔鶴だけのようだ。日進は穴を塞げば使用可能になる」
日進は飛行甲板の端に命中していたので然したる被害は少なかったのだ。
「攻撃隊の報告によればレキシントンは撃沈したようだ。ヨークタウンは見逃してしまったようだが、爆弾と魚雷が二発ずつ命中して中破、若しくは大破だ」
「……恐らくはミッドウェーで復帰させてくるだろうが……」
「今はMO作戦に集中しましょう。敵機動部隊が逃げていたら我々の勝ちです」
「うむ、彩雲を出して探らせよう」
直ぐに瑞鶴から二機の彩雲が発艦してフレッチャー機動部隊に向かった。
上空にいた迎撃隊は交代で着艦して補給を受けた。攻撃隊はもう直ぐ帰ってくるのである。
そして翔鶴は駆逐艦二隻に護衛されながらツラギ島へと向かった。
攻撃隊が帰還してきた。幾つか機数は欠けていた。
「攻撃隊からの報告では零戦一機、九九式艦爆八機、九七式艦攻九機が撃墜されたようです」
奥宮航空参謀がそう山口長官に報告した。
「撃墜数は少ないのですが被弾機は全部で三七機になります。それで廃棄処理は二八機になります」
「……敵の対空砲火が激しい証拠だな」
「そのようですね……」
その後、彩雲からの報告でフレッチャー機動部隊が撤退している事を知った山口長官はMO作戦を続行させる事にしたのである。
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