第三十八話
ほぼ同時期に攻撃隊を発艦させた日米の機動部隊であった。
しかし、アメリカは遅い雷撃機を抱えているので移動中に日本の攻撃隊がアメリカの攻撃隊より十分程早くフレッチャー機動部隊に到着したのである。
「戦闘機は全部吐き出せッ!! 護衛空母部隊からの援護部隊はまだなのかッ!!」
空母レキシントンの艦橋でフレッチャー少将が怒鳴る。フレッチャー少将は攻撃隊発艦後、護衛空母部隊に戦闘機の派遣要請の電文を発信させた。
電文を受信した護衛空母部隊は直ぐにワイルドキャット戦闘機三十機を発艦させた。
だが間に合うかは微妙な展開であった。機動部隊上空にいた迎撃隊二八機は攻撃隊に向かった。
「全艦対空戦闘用意ッ!!」
フレッチャー機動部隊の全火器が仰角をつけて迎撃態勢に入った。
『此方彩雲二号機、前方から敵戦闘機多数接近ッ!!』
「了解した。新郷、お客さんだ。相手してやれ」
先導役の彩雲の無線機から流れる報告に攻撃隊総隊長の高橋嚇一少佐はそう呟いて制空隊隊長の新郷大尉にそう命令した。
『了解。田中と兼子隊はそのまま待機せよ。残りは俺に続けッ!!』
新郷機がバンクして敵戦闘機に向かう。それに続けて零戦隊も向かう。
攻撃隊を護衛する零戦隊は全部で五四機であり、十八機の零戦を護衛に残して二七機の零戦は空戦に突入した。ほぼ同数の空戦である。
「よし、『トツレ』を打てッ!!」
高橋機から全機に向かって『トツレ』の電文が発信される。受信した攻撃隊は突撃態勢を作るため艦爆隊は高度三千を飛行し、艦攻隊は徐々に高度を下げ始める。
敵戦闘機が妨害してくる事は無かった。ワイルドキャット隊は空戦で劣勢を強いられていたからである。
「対空射撃を始めろッ!! 敵機を近寄らせるなッ!!」
フレッチャー機動部隊から猛烈な対空射撃が開始された。
「『ト連送』を打てッ!! 突撃するぞッ!!」
高橋機が『ト連送』を発信するとダイブブレーキを開き、操縦桿を押して急降下爆撃に入った。高橋少佐の中隊もそれに続いた。
「撃て撃て撃てェッ!!」
二隻の空母は懸命に対空砲火を繰り出して高橋機を撃墜しようとするが当たる気配は無かった。
「撃ェッ!!」
高橋少佐は高度五百で腹に搭載していた二百五十キロ爆弾を投下した。狙われたのは空母レキシントンであった。
「上空にヴァルッ!!」
「これは当たるぞ……」
見張り員の叫びにフレッチャー少将はそう呟いた。フレッチャー少将の読み通りに二百五十キロ爆弾は前部飛行甲板に命中した。
続けて二番機は外して至近弾となったが三番機、四番機は命中弾を出した。全体的に高橋少佐の中隊はレキシントンに三発の命中弾を叩き込んだのである。
「消火急げェッ!!」
レキシントンのダメコン隊は消火ホースを出して消火活動を開始するがそこへ江間大尉の中隊九機が急降下爆撃を開始した。
「またヴァルだッ!!」
乗組員がそう叫んだ。対空砲火が必死に江間大尉機を撃ち落とそうとするが当たらず、江間大尉機が二百五十キロ爆弾を投下した。
この爆弾は丁度消火活動をしていたダメコン隊に命中してダメコン隊を吹き飛ばした。
ダメコン隊は跡形も無く吹き飛ばされてしまい一時的にレキシントンの消火活動はストップした。
結果的に江間中隊は二発の命中弾を叩き込んだ。一方、レキシントンの隣を航行していたヨークタウンは坂本大尉率いる艦爆隊の急降下爆撃を襲われていたがヨークタウンの艦長はそれを何とか回避したものの、爆弾三発を受けていた。
「全護衛艦艇はヨークタウンを守れッ!!」
「フレッチャー司令官ッ!?」
突然のフレッチャー少将の命令に参謀は慌て出す。
「もはやレキシントンは駄目だ。レディ・レックスを沈めるのは惜しいが、此処はヨークタウンを守るしかない」
フレッチャー少将はそう決断したのである。フレッチャー少将の命令を受けた護衛艦艇はヨークタウンの付近に集結して激しく対空砲火を撃ち上げた。
「ちぃ、激し過ぎるぞッ!! 全機攻撃目標を敵護衛艦艇に変えろッ!!」
ヨークタウンの雷撃に向かった市原大尉はそう舌打ちしながら指令を出す。
この雷撃でヨークタウンは二発の魚雷が命中したが、ヨークタウンを守った代償で重巡一、駆逐艦四隻が撃沈されたのである。
レキシントンも二個小隊六機が放った魚雷三発が致命傷となり、攻撃隊が引き上げる前に波間へと消えていった。
フレッチャー少将は退艦して駆逐艦に収容されたのである。
一方、第二機動艦隊にも危機は迫っていた。
「……本当に乗る気かね河内君?」
「はい、発着艦の訓練は戦前の時にしていたので大丈夫です」
飛行服に着替えた将宏に山口長官は心配そうに言う。
「うむ、それなら構わないんだが……」
「未来を知る貴様には死んでほしくないからな」
伊崎参謀長が言う。
「無茶はしません。それに列機にはヒルダがいますし」
「大丈夫ですよ山口長官。将宏は私がしっかりとお守りをしますので」
ヒルダはアハハと笑う。
「……俺は子どもなんか?」
「目をつけられた問題児だろ?」
『アッハハハッ!!』
ヒルダの言葉に艦橋にいた全員が笑う。
「………皆が俺を苛めてるぅ………」
将宏は床に『の』の字を書きながらブツブツ言っている。
『ウウゥゥゥゥゥーーーッ!!』
その時、空襲警報のサイレンが鳴った。
「回せ回せェッ!!」
その瞬間、将宏達は叫びながら艦橋をかけ降りて飛行甲板で既に待機していた零戦に走って乗り込む。
既に試運転を済ましていた零戦は一発でエンジンが掛かった。将宏は準備完了してから発着指揮官に合図を送る。
発着艦指揮官は青い旗を振った。そして将宏が乗る零戦はチョークが取られて零戦は飛行甲板を蹴って大空へと舞い上がる。
五隻の空母からも零戦が発艦していく。零戦が発艦する理由は勿論敵機動艦隊からの攻撃隊が接近しているからである。
将宏達が発艦する前に上空にいた零戦は二七機。そして電探で発見した敵攻撃隊の第一迎撃隊として向かわせたのだ。
それと本来なら将宏とヒルダは迎撃の任務は入らないのだが、二人の零戦パイロットが高熱と階段を踏み外して怪我をしてしまった。
この予備員として将宏とヒルダが立候補したのである。
迎撃は一機でも多くあればいい。将宏はそう思った。
山口長官達は難色を示したが、一応は実践(ノモンハンと東京空襲)を経験しているので無茶な事はしない事を約束に迎撃隊に加わったのである。
「さて、編隊を組んでいくか」
将宏ら第二迎撃隊は編隊を組む。将宏の後方にはヒルダが付く。
だが、敵攻撃隊はまだ七十キロ以上離れていた。
どうやって探知したのかというと、史実で活躍した三式一号電波探信儀三型を金剛、榛名、翔鶴、瑞鶴、蒼鶴に搭載していたのである。
この世界での呼称は零式一号電波探信儀三型である。既に電探はこの零式一号電波探信儀三型で統一化する事が大本営で決定されて増産がされていた。
それは兎も角、敵攻撃隊を距離百五十キロの地点で探知出来たので十分な零戦が発艦する事が出来たのである。
第二迎撃隊の零戦は四五機だった。
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