第三十六話
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南遣艦隊がアデン湾海戦で大活躍する中、山口多聞中将の第二機動艦隊はトラック諸島に停泊していた。
「それで荷物は君らかね?」
「どうやらそのようです」
山口長官の言葉に将宏が笑う。傍らには陸軍服を着た前田少佐もいる。
前田少佐とは将宏も謝罪していた。あの時は前田少佐も妹の負傷に怒り狂っていたので仕方ない。
将宏も前田少佐に何も罰など与えなかった。
「歴史を変えれると少し浮きだっていたわ」
将樹は酒を飲みながら桐野少佐に言った言葉である。しかし、二人が内地に戻れば更なる問題があったのである。
将宏達と共に便乗しているヒルダは直ぐに翔鶴でスターになっている。
なお、ヒルダを襲おうとする輩は誰もいない。それもそのはずであり、ヒルダの背後には陛下が控えてたりする。
『ヒルダに手を出せば陛下自らが行う軍法会議がある』
まことしやかに流れる噂であるが事実だったりする。
「ところで新型重巡の状況はどうですか?」
「今のところ行方不明になる気配はないな」
山口長官の言葉に艦橋にいた者が苦笑したりする。
防御、航続距離、生産性を充填に置いた新型重巡は一番艦と二番艦が第二機動艦隊に配備されている。
一番艦は日清戦争前に南シナ海で消えた防護巡洋艦畝傍の名前から取られている。二番艦は和泉である。
畝傍の乗組員は自分達も何処かで消えるのではないかと噂されていたりする。
「だが生産性の要素から戦局のカギを握っているのは確かだな。今の戦争は昔と違って総力戦だからな」
参謀長の伊崎少将が言う言葉に山口長官も頷いた。
「それなら良かったです」
将宏は一応は理解しているようでホッとするようにそう言った。
「それとツラギ空襲の件だが……」
山口長官の表情が変わる。それは将宏達もである。
「ツラギ攻略の旗艦沖島には対空電探を装備しているから史実のような敵機動部隊による奇襲攻撃はないはずだ。それにツラギには零式水戦を二四機配備させる予定だ」
「その数なら例え空襲が来ても上手く対処出来るでしょう」
山口長官の報告に将宏は満足そうに頷いた。
「出撃まで少し時間はある。今のうちに艦内を見て回ったらどうかね?」
「分かりました。お言葉に甘えて艦内の散策してきます」
将宏と前田少佐は山口長官達に敬礼をして艦橋を降りた。
「……日本軍初のアングルド・デッキやな……」
将宏は翔鶴の飛行甲板を見ながらそう呟いた。飛行訓練なのか一機の零戦が斜めから発艦していく。
「空母やパイロットは上手く活用しないとな」
「あぁ、無資源国の日本はそれをするしかないからな。アメリカみたいに大量のパイロットがいるわけないからな」
将宏の呟きに前田少佐が答える。
「……(もう霞に怪我をさせてたまるかってぇの)」
将宏は上昇していく零戦を見ながらそう思った。
そして第二機動艦隊は予定時刻にトラック諸島を出撃した。
史実同様に立案されたMO作戦を支援するために……。
一方、ツラギ攻略隊は無傷でツラギ島を占領していた。
海岸にはフロートを付けた零式水戦二四機がその翼を休めていた。
「防御陣地の構築はどうなっている?」
ツラギ攻略隊司令官の志摩少将は参謀に聞いた。
「既に十二.七ミリ機銃の設置は完了。二五ミリ機銃は約七割、高角砲は約四割となっています」
志摩司令官に質問された参謀は部下から渡された報告書を見ながらそう報告した。
「うむ。……電探室、異常は無いか?」
『今のところは異常有りません』
志摩司令官の言葉に電探員はそう言った。
「司令官、奴等は来ますかな?」
一人の参謀が志摩少将に聞いた。
「……来るはずだ。ソロモン諸島はFS作戦の重要地域だ。無論は向こうもそれは知っているはずだ。ソロモン諸島を我々が抑えれば困るのは何処の国かをな……」
志摩少将はそう言った。
FS作戦が決行されれば非常に困るのはオーストラリアとニュージーランドである。
ニューカレドニアも占領されたら二カ国はセイロン島を押さえられたインド同様に喉元に銃や剣を突きつけられた状況になる。
『で、電探に反応ッ!! 敵機ですッ!!』
その時、電探員が叫んだ。沖島の対空レーダーが接近する敵攻撃隊を探知したのである。
「零式水戦隊は直ちに離水ッ!! 全艦対空戦闘用意ッ!!」
海岸で準備をしていた零式水戦隊はプロペラを回して次々と離水していく。
更にツラギ攻略部隊も戦闘用意が発令されて沖島以下の艦艇が十二.七サンチ連装高角砲や二五ミリ対空機銃を上空に向ける。
ツラギ攻略部隊の不安要素は艦艇が駆逐艇や掃海艇等がいたことである。
駆逐艇や掃海艇だと対空戦闘は不十分である。ツラギ攻略部隊には一応として駆逐艦が二隻いたが、その駆逐艦は大正や昭和初期に建造された睦月型駆逐艦である。
睦月型駆逐艦は海護に回されて十二.七サンチ連装高角砲等が搭載されているが不安は取り除けなかった。
唯一、沖島は十二.七サンチ連装高角砲四基、二五ミリ対空機銃を多数搭載していた。残念ながら四十ミリ連装機銃は時間の都合で無理だったが……。
頼みのカギは離水した零式水戦隊二四機だった。そして零式水戦隊はツラギ攻略部隊の不安要素を払拭させたのである。
――空母ヨークタウン――
「な、何だとッ!? 攻撃隊が全滅しただとッ!?」
「……確証は有りませんが非常に高いと思われます」
機動部隊司令官のフレッチャー少将の怒号にも参謀長は耐えた。
そもそも攻撃隊の第一次はドーントレスだけ、第二次はデバステーターでワイルドキャットの護衛は無しときた。
まぁワイルドキャット隊も空母を守る義務があったのでやむを得ないが……。
「……一旦後退する。艦載機を補充しなければジャップに勝てない」
フレッチャー少将はそう決断して機動部隊は一時反転してエスピリツサント島方面へ後退したのである。
「『護衛空母』部隊に電文を出せッ!! 航空機の補充を求むッ!!」
「イエッサーッ!!」
フレッチャーは参謀にそう指令した。
その頃、MO作戦の最終目標であるポートモレスビーはラバウルから陸海の攻撃隊の空襲を受けていた。
「撃て撃てェッ!! ジャップを蹴散らすんだッ!!」
飛行場周辺にある対空陣地では高射砲や四十ミリ機銃が断続的に対空射撃をしていた。
上空は既に攻撃隊が占拠していたのである。米軍の戦闘機は陸海の攻撃隊を護衛する制空隊に全て落とされていた。
「用ぉ意……撃ェッ!!」
攻撃隊の一式陸攻と九七式重爆から次々と二百五十キロ爆弾や六十キロ爆弾が落とされていく。
それに合わせて数機の零戦が両翼に搭載した三号爆弾を投下した。
三号爆弾は史実の三号爆弾であり、飛行場周辺にある対空陣地を破壊するためであった。
このラバウル航空隊からの攻撃によりポートモレスビーの基地機能は大幅に低下して暫くは航空機が発進出来なかったのである。
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