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第三十二話




――アッヅ環礁――


「何ッ!? コロンボが敵機動部隊の攻撃を受けているだとッ!!」


 アッヅ環礁には補給のために停泊していたイギリス東洋艦隊がいた。


 そのイギリス東洋艦隊旗艦ウォースパイトでソマービル艦隊司令長官は叫んでいた。


「それで被害は?」


「は、コロンボ港の基地機能はほぼ喪失したと思われます」


「……何て事だ。こうなれば補給が終了した艦艇だけでも出撃させなければ……」


「しかし長官、相手はあのオザワです。艦隊が近づく前に航空攻撃でやられてしまいます」


 参謀が反論する。真珠湾で有名になった小沢中将の事はイギリスでも知っていた。


「だがセイロンを見捨てればイギリスはインドを放棄した事になる。インドは我が大英帝国の生命線だ。インドは見捨てる事など出来ん」


 ソマービルの主張はある意味の正論だった。だが、事態は直ぐに急変となるのであった。


「哨戒中のカタリナより緊急入電ッ!! 敵の攻撃隊が此方に向かっているとのことですッ!!」


「なッ!?」


 駆け込んできた通信兵の報告にソマービル長官は驚いた。アッヅ環礁に向かっていたのは第二機動艦隊から発艦した攻撃隊だった。


 攻撃隊は零戦五四機、九九式艦爆六三機、九七式艦攻六三機であり九七式艦攻の半数は爆装していた。緊急電を入れたカタリナは零戦に追跡されて撃墜された。


「駆逐艦等の雑魚には構うなッ!! 敵の戦艦と空母を叩けばいいッ!!」


 九九式艦爆の操縦席で攻撃隊総隊長の高橋少佐が叫ぶ。


 そして高橋機から『トツレ』が発信される。零戦隊は速度を上げて制空権を取るために先行する。


 九九式艦爆隊と水平爆撃隊の九七式艦攻が上昇して爆撃位置に入ろうとする。


 魚雷を搭載する雷撃隊は徐々に高度を落としていく。動けないイギリス東洋艦隊は既に対空砲火を放っていた。


「敵さんの弾幕の雨だ。ト連送を打てッ!! 突撃するぞッ!!」


  直ちにト連送が発信されて九九式艦爆と九七式艦攻の雷撃隊は雷爆同時攻撃を開始したのである。


「上空からヴァルッ!!」


 ウォースパイトの見張り員が叫んだ。ウォースパイトの上空には急降下爆撃を敢行していた高橋少佐の中隊がいたのだ。


 先頭の高橋機が高度七百で腹に搭載していた二百五十キロ爆弾を投下した。動かない標的にわざわざ五百まで下がる必要はなかった。


 高橋機が投下した二百五十キロ爆弾は弧を描きながら対空射撃をしていたウォースパイトの四十ミリ八連装ポンポン砲に命中した。


 直撃を受けたポンポン砲は吹き飛ばされて残骸は海面に叩きつけられた。


 ウォースパイトの対空射撃が一時的に弱まり、残りの八機は次々とウォースパイトに命中弾を与えた。


 しかし、負けじと反撃をして一機がエンジンから火を噴いた。炎上した九九式艦爆からはパイロットと偵察員が落下傘で脱出をして誰も乗っていない九九式艦爆は海面に叩きつけられた。


 艦爆隊は動かない標的(艦艇)に対して九十%余りの命中弾を出して無傷な艦はいなかった。そこへ航空魚雷を腹に搭載した九七式艦攻の雷撃隊が突入した。


「撃て撃てッ!! ジャップを撃ち落とせェッ!!」


 生き残っていた砲座や機銃座から反撃の対空射撃が来るが艦攻隊はそれをひょいひょいと避けて距離千メートルまで近づいた。


「用ぉ意……撃ェッ!!」


 各中隊長機が魚雷を投下するとそれに続いて列機も魚雷を投下して離脱していく。


 離脱する時に、標的の上を通るのでそこを狙う機銃座がいた。この待ち伏せのような反撃で少なくとも六機の九七式艦攻が撃墜されるか、不時着水をした。


「か、艦隊の被害はッ!?」


「ほ、報告しますッ!! 小破は駆逐艦四隻と高速輸送船二隻のみです。後は大破及び傾斜が激しいのばかりです」


「……何て事だ……」


 右舷に傾斜したウォースパイトでソマービルは部下からの報告に愕然とした。イギリス東洋艦隊はアッヅ環礁にて壊滅的打撃をさせられたのだ。


「偵察機から艦隊発見の報告は無いのか?」


「目下、全力で捜索しています」


 しかし、それからカタリナからの報告が来た時、ソマービルは再び愕然とした。


「ジャップの上陸船団が此方に向かっているだとぉ……」


 通信紙を受け取ったソマービルはわなわなと震えて紙が床にヒラヒラと落ちた。


「長官、このままでは……」


「……私に脱出をしろと言うのか?」


「幸いにも駆逐艦は四隻が無事ですのでそちらに移乗してマダガスカル島へ向かって下さい。マダガスカル島からタンカーを出して途中で合流させましょう」


「……しかしそれでは……」


「今、長官を此処で死なせては我がロイヤルネイビーは復活出来ませんッ!!」


 参謀はソマービルにそう迫った。その言葉にソマービルは漸く頷き、ウォースパイトを離艦して駆逐艦に移乗。


 直ぐに燃料を満載してマダガスカル島へ向けて出港した。


 そして第二機動艦隊と上陸船団がアッヅ環礁に接近した時、アッヅ環礁から平文で降伏すると打診してきた。


 山口多聞も拒否する理由は無いので受諾して上陸船団は上陸してイギリス軍の武装解除を行った。


「補給を済ませたらボンベイ等の港を爆撃する」


 第二機動艦隊はアッヅ環礁を占領後、セイロン島攻略作戦を支援するためにボンベイ等の港を爆撃する予定だったのだ。


 それから補給を完了させた第二機動艦隊はアラビア海へと向かった。



――四月十二日、東京海軍省――


「先程第二機動艦隊から電文が来た。ボンベイ等の港周辺は徹底的に叩いたそうだ」


「そうですか。これで後はセイロン島だけですね」


 海軍大臣室で将宏は堀長官から報告を聞いていた。大臣室には山本五十六と嶋田次官もいる。


「セイロン島も後一週間で占領出来そうな予定だ。海軍としては戦艦五隻、空母三隻を捕獲したのが嬉しいがね」


 堀はそう言った。


 アッヅ環礁攻略で上陸船団に同行していた工作艦明石と三原は損傷して放棄されていたイギリス東洋艦隊の艦艇の修理を開始していた。


 今はベンガル湾で通商破壊作戦を終えた南遣艦隊の角田機動部隊がアッヅ環礁に停泊してインド洋の睨みを効かしていた。


「イギリス東洋艦隊の修理は暫くはかかるだろう。セイロン島にいる第一機動艦隊はトリンコマリーに陸軍一個飛行集団と海軍二個航空隊を送れば帰還させる予定だ」


 堀長官はそう言う。


「問題は……」


「……帝都空襲かね?」


「……はい」


 山本の言葉に将宏は頷いた。


「一応は電探基地を建設して警戒網を作っていますが……」


「どうなるかは分からない……か」


 山本はそう呟いた。


「……俺の予想からしてアメリカは警戒網をすり抜けて帝都空襲をするだろう。士気が低いアメリカ国民を高めるためには多少の危険は無視するだろうな」


 山本は腕を組む。


「……出来る限りの被害は防ぐしかない」


 山本の言葉に将宏は無言で頷いた。










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